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ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

オーブン界の暴れ馬とは・・・

皆様は焼き鳥好きですか??


私は毎日でもいいくらい大好きなのですが、焼き鳥こそまさに焼成技術丸出しの食べ物であると思いませんか。

ジューシーと言う表現がピッタリとくる、強火ならではの焼成の神秘を味わえる食べ物だと思うのですが、あれが仮に弱火でじっくりと焼かれていたらどうなるでしょう・・・

想像しただけでパッサパサ感が浮かんできますよね。

ねぎまのねぎがやや焦げていたり、串の一部が焦げていたりしますので、すべてを満遍なく奇麗に焼くためには本当なら弱火でじっくり焼いた方がいいはずなのに、あえて難しい焼き方を選び、そのお陰であの特別な味わいを醸し出すことができる焼き鳥・・・

どう焼くかによって大きな違いが出ると言う点では、焼き鳥ほどではないかもしれませんがパンも焼き方次第で香りやしっとり感などに大きな違いがでるものです。

今回紹介する話は、私が今までで一番使いこなすのに時間がかかった暴れ馬こと、ガス式のラックオーブンについての話になります。

ラックオーブンというのは、その名の通りラックに天板を並べて、そのラックごとオーブンの中に一気に入れて、一度に大量のパンを焼くことができるオーブンのことなのですが、小さなパン屋さんやホームベーキングの方にはあまり縁のないものかもしれません。

しかし今回の暴れ馬の乗りこなし術というのは、皆様が使っているオーブンにも当てはまる話になりますので、これまたややこしい表現がたくさん出てきますが、どうかついてきてほしいと思います。

パン用のオーブンには、大きく分けて電気式とガス式がありますよね。

どちらをお使いになったとしても、それぞれに利点も欠点もあろうかと思いますが、今回ご紹介するラックオーブンと言うオーブンには、実は上火とか下火といったものはありません。

なぜなら、上から下までパンだらけですから、どこに焦点をあてて上とか下とかから火を出したらよいかが決められませんので、全体的に同じように焼けるようにと ”庫内温度” と言うものがあるのみなのです。

別の言い方をすると、横火ということになるでしょうか・・・

ラックはオーブンの中で回転していますので、横から出てくる熱風がグルグル回りながら全体を満遍なく焼いていく感じになるのです。

通常は中堅の製パン工場などでよく使われているオーブンなのですが、焼き立てパン屋さんの中でも皆様良くご存知の人気店ともなれば、一度に大量に焼けるラックオーブンを使っているパン屋さんもあるのです。

いったいどれくらいの量が一度に焼けるのかと言いますと、メロンパンなら一度に540個が10分で焼けてしまいます。

シングルでこれくらいですので、ダブルならその倍になります。

改めて書いてみると、これってすごい数ですよね。

色々なパンが焼けるのかが気になるところだと思いますが、食パンからフランスパン、そしてメロンパンからクロワッサンまでありとあらゆるパンが焼けるのです。

ただし、途中で開けることは出来ませんから、平窯のように違う種類のパンを入れて焼くということはできませんので、ほぼ同じような種類のパンを一度に焼きたい場合に適したオーブンであると言えるでしょう。

さて、そんな上火も下火もないラックオーブンなのですが、ガスであれ電気であれ、そしてこれは他のどのオーブンでも同じことだと思いますが、設定した温度まで加熱していって、そして設定温度に達したら待機状態になることは皆さまも良くお分かりのことと思います。

ただし、機種によって若干違う点は、例えば200℃に設定した場合にはそこに向かって加熱されていくわけですが、この際に仮にヒーターによる加熱だとすると、そのヒーターには3段階くらいのパワーが分けられていて、初めのうちは全力全開でスタートしますが、設定温度に近ずくにつれて一段ずつ弱まっていって、設定温度の寸前になると一旦停止するというのが一般的だと思うのです。

なぜなら、設定温度までずっと全力全開だとすると、停止したとしてもその余力でもっと温度があがってしまうからです。

逆に生地を入れて温度が下がり始めると、今度は1段ずつヒータースイッチが入っていって、設定温度に近づけようとするわけですね。

そのようにして、常に設定温度に対してヒーターが入ったり切れたりすることで一定温度を保とうとしてくれるのがオーブンの凄いところなわけですが、この時に気を付けておかなければならないことが実はあるのです。

というのは、設定温度に向かってヒーターが全開して、そして今まさに設定温度に到達しましたというその瞬間は、ヒーターの余熱も手伝ってイケイケ状態であるということなのです。

逆に、設定温度に到達してしばらくしてヒーターの余熱もすっかり冷めた頃の、”さていよいよスイッチを入れようかな” という瞬間は、イケイケではない状態、つまり休み明けの仕事始めのような状態で、さっきまでバリバリ仕事をしていた時のようにアドレナリンが出まくっている状態ではないわけです。

このどちらの状態で生地を入れたかによって、実は火の入り方に大きな違いが出るのです。

特に直火で焼くハード系や大型の食パンなどでは大きな違いが出てしまうのです。

別な角度からこのことをもう少しわかりやすく説明しておきますと、例えば12分焼くパンがあったとします。

一方ではイケイケの余熱たっぷりの庫内へ入れたパンの場合、生地を入れてもすぐに温度が下がる訳ではないので、入れた瞬間からよく伸びた膨らみの良い生地となり、後にじっくりとヒーターの火が入ることで、中心まで火の通りの良い、ボリュームのあるパンになるでしょう。

もう一方では、イケイケではない待機状態の庫内へ入れたパンの場合、庫内温度がすぐに下がってしまい、今一伸びきれない膨らみの中途半端な生地となり、早い段階からヒーターの火が入ってしまうことで、クラストの厚いパンになるでしょう。

どんなオーブンでも、そしてどんな配合のパンでも、どのタイミングで火が入ることが最も良いか、どのタイミングまでは余熱で焼いた方が良いかと言う、いわゆる ”技” を使えるかどうかでかなり違ったパンになるものです。

どうかただ単に入れ出しするだけで満足するのではなく、”火の入れ方” というものにも着目していただけると、よりパンを焼く楽しみが増えると思いますよ。

さて、本題の暴れ馬の話にもどりますが、この暴れ馬君は海外製のガスオーブンで、先ほど言いましたヒーターの類に段階がありません。

つまり、全開でONなのか、それともOFFなのかの2択しかないのです。

仮に設定温度を200℃にしたとしましょう。

そこに向かって全力全開したバーナーは、200℃ピッタリでビタットストップしてしまいます。

がしかし、その余熱でなんと225℃まで上がってしまうのでした。

しかし仮にその中にパンを入れたとして、焦げてしまうのではないかと心配になると思うのですが、生地を入れるや否やすぐに急激に温度は下がり始めます。

200℃にもどるまでに約1分もかからないのです。

そしてその後に200℃を切ったところでバーナーが点火をはじめます。

さらに凄いのはここからです。

一度は225℃まで行ったはずの温度が、生地を入れて3分ほどするとみるみる下がっていき、180℃にまで下がってしまうのです。

と言うことでまとめますと、200℃に設定したはずの温度なのにもかかわらず225℃まで上がり、生地を入れるや否や180℃まで下がってしまうと言うことです。

なんとこの温度差は45℃にものぼり、実際にはいったい何度で焼いたパンなのかが言えないほどの温度差なのでした。

さらにさらにすごいのは、180℃まで下がった温度を上げようとバーナーが全開なわけですから、比較的早い段階で200℃に到達するのですが、けしてそこで止まってはくれないと言うことなのです。

どういうことかと言いますと、200℃に達したとしても余熱でまたしても225℃まで上がってしまうと言うことなのです。

一度180℃まで下がって焼かれたパンが、途中から終盤にかけては目的よりも25℃も高い温度で焼かれるわけですから、あっという間に真っ黒になってしまいます。

ですので、この45℃の差をいかに縮めることができるかがテーマとなるわけですが、そこで役に立つ考え方が先ほどのイケイケ状態とイケてない状態をつかむと言うことになる訳です。

つまりこのオーブンは、設定した温度に実に忠実に従う(あくまで数字上ですが・・・)訳ですから、スイッチのON/OFFも数字上の設定温度を調整すれば、バーナーのON/OFFが自在に操れると言うことにはなる訳です。

ではということで、まずは200℃の庫内にしたければ175℃に設定しておけば最終的には200℃で止まってくれることになりますので、175℃設定でスタートしたとします。

生地を入れる段階ではまんまと200℃近辺になっていますので、しめしめと生地を入れたとします。

するとみるみる温度は下がり続けて、なんと160℃をきってしまうのです。

「そうか、スイッチのON/OFFでの温度差は最大45℃なのだから、結局ここまで下がってしまうのか」

ということで、今度はとりあえず200℃設定で200℃に到達して、バーナーが止まってすぐに生地を入れれば225℃まで上がることはないだろうと考え入れてみると、たしかにそこまではいかないものの余熱があまりにも強く、今度はなかなか下がってこないで結果後半で焦げてしまうことになるのでした。

ということでここまでの結論としては、現在の温度が例え200℃を指していようと225℃を指していようと、そこはあまり関係がなく、焼成時間のトータルでいかにバーナーの点火をコントロールするかと言うことなのだと考えたのでした。

ややこしいですか・・・・・????

つまり、バーナーが点火するかしないかは設定温度と実際の温度との差できまるので、いらないところで点火するようなら設定温度を下げてやる、あるいは強制的に点火させたければ設定温度を上げてやることでコントロールすることができる訳です。

実際の庫内温度がどうかと言うことよりも、むしろ点火時間と待機時間のバランスを強制的に作ることで、温度差が少なくなると言うことになる訳です。

もう少しついてきてくださいね・・・

例えば200℃設定にした場合に、その後すぐにバーナーは消えますが余熱で225℃まで徐々に上がっていきます。

この時がつまりはイケイケ状態である訳です。

逆に時間が経過していって、225℃に到達したら今度は余熱がなくなってきて温度が下がり始めます。

この時がつまりはイケてない状態である訳です。

イケている状態とイケていない状態のどちらで入れたかによって、どの段階でバーナーが点火するかが違ってきますし、バーナーの点火時間も違ってきますよね。

ということで具体的にはこういうことです。

仮に200℃位で焼きたいパンの場合、そして約15分くらいで焼きたいパンの場合を見てみましょう。

設定は200℃そのままにしてバーナーが止まるのを待ちます。

バーナーが止まった時点がイケイケMAXですので、225℃を待たずにこにで生地を投入します。

数分の間は余熱により温度が何度か上がっていきますが、その後すぐに下がってきます。

この間パン生地は待機状態で焼かれていることになります。

その後に黙って見ているとみるみる下がってしまいますので、実温度200℃を待たずに210℃位の間に設定温度を220℃に上げてしまいます。

すると待機状態だったものがすぐにバーナー点火となり、実際には200℃を少し切ったくらいで庫内温度はまた上がり始めます。

今度はこのまま設定温度を220℃のままにしておくと実温度が上がり続けてしまいますので、実温度が200℃になる前に190℃へと設定を下げれば、バーナーがその時点で止まり、丁度実温度が200℃位で停止してくれる訳です。

このようにしてトータルで温度差をなるべく出さないようにすることで、安定した焼き色を得ることが出来るようになったのでした。

この他にも様々な方法はあるのですが、これ以上ややこしいとはやめておきましょう。

今回のオーブンは特別厄介なものではありますが、逆にとらえれば火力は相当強いし、コントロール次第では電気よりも火の通りはかなり良いと感じました。

ただし、ほかの仕事をしながらだと、こうまで温度を逐一変更するなんて考えられない手間であることは間違いありませんので、それなりの別な方法をとるしかないでしょう。

今回この話で皆様にお伝えしておきたいことは、デジタルであるからこその温度設定の弱点を知ってほしいと言うことなのです。

つまり、ON/OFFは数字をいじればすぐに可能ですが、それがイケイケなのかイケていないのか、上り調子なのか下り調子なのかによって火の入り方が違うと言う点と、実際に表示されている温度と言うのはあくまで温度計が感知している温度で、庫内全体の温度なわけではないと言う点なのです。

特に奥行きのある平窯の場合、温度計というのは比較的手前にあるものです。

オーブンを開けると温度計に風が当たって数字上の温度は下がりますが、実際に庫内の温度全体がそんなに下がっている訳ではありません。

正しい庫内温度を知りたいときは、扉を閉めてからしばらくしないと確定できないのです。

オーブン内部は床・横壁・そして上部のヒーターで構成されているものが多いと思いますが、それらに蓄積された総合的な温度が実温度なのであって、デジタル数字の温度が実温度とは限らない場合が多々あることを頭の片隅に入れておいてほしいと思います。

同じ海外でもガス式のボンガードを使っていた時にはとても温度が安定していて、ほぼ設定をいじるようなことはありませんでした。

どうやって火が入ってどうやって蓄温されていくのかはオーブン屋さんの技術の差だと思いますが、とにかく色々あることだけは確かですから、自分がお使いのものだけは使いこなしていきたいものですよね。