ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

なぜ成形が重要なのか・・・・

パンの成形に関しては、実に多くの質問を頂きます。


パンを作る上で、一番難しく、かつ一番難解な理論を秘めた技、それがすなわち成形です。

この成形を如何にスピーディーに、そしていかに美しく行うことが出来るか、それが製パン技術なのだと言っても過言ではないでしょう。

毎日のパン作りの現場において、常に厳しい目を向け、そして激を飛ばさずにはいられないのも、成形という作業にほかなりません。

多くいただく質問の中で多いフレーズなのが

どうしてこのようにムラになってしまうのでしょうか・・・・

どうして同じグラムなのに大きさがまちまちになってしまうのでしょうか・・・

どうして山が三つ揃わないのでしょうか・・・

どうして側面が切れてしまうのでしょうか・・・

どうして具が飛び出してしまうのでしょうか・・・

どうしてクープが割れないのでしょうか・・・

どうして艶が出ないのでしょうか・・・

というものですが、やはりパン作りにおいてはプロであろうとアマであろうと、常に疑問点が浮かび上がるのが成形の難解さだと言えますね。

成形に関しては、実際に見てもらって憶えていただくしか無い、文章では伝わらない、そんな思いがありながらも、しかし実際には直接逢うことは難しい訳で、ビデオに撮っていただいたものを見ながら解説するということが多いわけですが、これがパン作りの現場においては、なんとか綺麗に作れるようになった・・・ということだけでは済まないことが多々ありますよね。

どういう事かといいますと、いくら綺麗に作れるようになったと言っても、それが超時間がかかっていたのでは、何の役にも立たないという現実なのです。

「何の役にも立たない・・・とは言い過ぎなのでは・・・」そんな気持にもなりますが、実際には本当にそれでは役には立たないのです。

なぜなら、私達がパンを作って売るという行為には時間制限があるからなのです。

お店が開店するまでには、ある程度の品揃えをしなければならない・・・・

これがかりに、全60品目のパンアイテムがあるお店だとして、開店と同時に40品並んでいるお店と10品しか並んでいないお店があったとしたら、あなたは客としてどう思いますか?

どの時間帯に行ったとしても、ある程度の品揃えがないと、その時点で店格が見定められてしまうでしょう。

売れる時間帯、来客数が多い時間帯がどんどん狭くなっていくことにつながる行為と、とらえることもできます。

開店時間はまちまちですが、いずれにしてもそのタイミングに合わせて作業を急ぐ、それがパン屋の日常なのであり、より多くの品揃えをと思えば思うほど、作業時間は前倒しされてより早朝勤務へと向かっていくのです。

そう考えると、やはり如何に早く成形できるかということが、とても重要であるということはお分かりいただけると思います。

この、如何に早くというのが何かとキーワードになることが多く、急げば急ぐほど成形は雑になる、ゆっくりなら綺麗に作れる自信があるにも関わらず、急げ急げと言われるから綺麗には出来ない、そして仕方なく雑になるという意見もよく耳にします。

極端な言い方かもしれませんが、「形なんかどうでもいいんだよ・・・早く早く」 そんな言い方をするというオーナーも多いのが実情ではないでしょうか。

もちろん綺麗に作って欲しいのは誰でもが望んでいることではありますが、それを十分わかった上で、それでもスピードを優先せざるを得ない事情というのがあるわけですね。

従業員がそのことを十分理解していないと、またオーナーがそのことを十分説明できていないと、そこには必ず不満が溜まっていきます。

「綺麗に作れと言うからそうしているのに、形なんか良いから急げってどっちなんだよ・・・」

「急がせておいて、雑すぎるとはどういうことだよ、こちとら機械じゃないんだよ・・・」

こんな風に思って不満タラタラの人、多いのではないですか。

しかしかりに、そんな不満を持って退職し、自分のお店を開業する、あるいはどこかの責任者になった時に気がつくのが、自分が今度は急げ急げと言わなければならない側に回っているという現実です。

そう、要するにこの事実はオーブンフレッシュベーカリーで仕事をしている以上、より多くのお客様に満足を提供したいと考えている以上、クリアーしなければならない最大の壁なのです。

私自身、過去数十年に渡ってず~っとず~っとず~っと、この問題と取り組んできましたし、まさに今現在においても日々そのことで悩み苦しんでいるのです。

問題とか悩み苦しむなんて、パン作りはもっと楽しいものではないのか・・・・仕事というのはもっと楽しく行うものではないのか・・・そう言われそうですが、勿論それはその通りです。

一人で全てを行っていれば、言い訳もできませんし、自分の実力以上のことは無理と認識できますので、反省することはあるにしても、人間関係がどうのということで悩む心配はないでしょう。

しかし、パン屋というのはほぼチームで仕事を行いますし、そこに人間関係が存在することは誰でもが経験してきたことと思うのです。

若かりし日を除けば、やはり常に人の上に立つリーダーとしてチームをまとめながら作業を円滑にこなさなければならない立場であることが多かった毎日の中で、人間関係がギクシャクする原因になるのは決まって成形がらみでした。

毎日毎日朝から晩まで同じ顔ぶれで仕事をしていると、それはもう家族以上の関係であるかのごとく思う時間もあるくらい、様々な会話をするものですよね。

数年経てばお互いの家族構成や生い立ちなどにも会話が及ぶこともあるでしょうし、特に大忙しの現場の場合にはそこに戦友としての特別な感情すら湧いてきたりするものです。

しかし、そんな中にも必ず作業よりも会話が優先してしまう人、手元よりも口元が優先してしまう人というのが存在します。

フォローできるうちは良いのですが、売上が上がり製造数がどんどん増えてくると、その楽しい会話が無駄話に変わってくることが多々あります。

会話に花が咲けば、どうしても手元が疎かになり、段取りがどんどん遅れてきます。

そういう人というのは、来客数はどうか、欠品はないかなど、品揃えに気持が向くことはなく、単に作業をしている人へと成り下がってしまうのです。

それを注意すると、必ずこんな目で見られることになります。

「自分だっていつもは楽しそうに話しているのに、どうして私だけ注意するの・・・」

「自分なりに精一杯やっているのに、一体何様のつもりなの・・・・」

そして、少しずつ職場がギクシャクしてきて、とどめは

「その言い方が気に入らない・・・」となって退職。

または、成形の仕方で注意をすると

「教わった通りにやっている、教え方が悪いんじゃないの・・・・」

「以前言っていた事と違う、コロコロとやり方を変えないで・・・」

などと言われ、生地の状態に合わせて成形の仕方も変えなくてはいけないこと、数によっては途中で冷蔵したり冷凍したりと、段取りを組み替える手法が常に必要なのだということを説明しようとしても、

「何様のつもりなの、偉そうに・・・」 となって退職。

そんなことを数多く経験していくと、「そんなに自分は言い方が悪いのか・・・」「そんなに偉そうにしているのか・・・」 と心が折れることばかりでした。

職場の雰囲気が悪い、上司への不満が多い、そんな状態を良くしようと試みると、おのずと会話ははずみ、皆と打ち解けていくのが解り嬉しくなります。

皆毎日が楽しいと言ってくれるようになり、進んで色々な作業に協力してくれるようにもなり、数カ月は有意義な日々が続くのですが、なぜか徐々に無駄話が多くなりだし、作業が雑になりだし、楽しみがメインになっているような気がしてくる・・・

すると、以前はあれほど素直に従ってくれていた人達が、顔色を変えるようになる・・・

そんな悪循環を繰り返すことが多かったような気がします。

何度も、「言いたいことがあっても言わずにおけば済むかもしれない・・・」

「そもそも自分がそんなに偉いのか、言えるような立場なのか・・・」

「人間的魅力がないから聞き入れてもらえないのかもしれない、だとしたら一番改善が必要なのは自分なのではないか」

そのような気持になりましたが、それでもやはり、目の前で正しい成形が行われていないとつい注意してしまう自分がいるのでした。

何故黙っていられないのか・・・・

性格でしょうねもちろん。

ただ、その性格に輪をかけるような出来事が若かりし日に多くありました。

それは、大勢のパートさんと仕事をしていた頃のことですが、とにかく皆影で他人の悪口を言っていたのでした。

若かった私などは、特にそのはけ口にされていて、皆一様に私の前では他人の悪口を言うのです。

そんな時、「なぜ本人に言わないのか、言えば平和ではいられなくなる気持ちも解らないではないが、そんなに嫌なら戦うしか無いのではないか」 という気持ちが芽生え、愚痴ばかり言ってないで、仕事のことなのだから本人か上司に進言すべきではないかというと、必ずこう諭されるのでした。

「長いものにはまかれろと言うのよ」 「言えば角が立つでしょ」

そう言いながらも、来る日も来る日も私の前では誰かの悪口を言うのでした。

自分はそんな生き方をしたくない、そう強く感じるきっかけとなった時期でしたね。

それからというもの、如何に仲良くなろうとも、如何に自分よりも偉い役職の人であろうとも、もっと綺麗に成形して欲しいと言うようになり、そのことでこの仕事をやめてしまった人は数え切れず、例えそれが講習会であっても、講師に対してミキシングオーバーだと思うとか、生地を痛めすぎているなどと言ってしまうこともしばしばあり、会社に招いたど偉い高名な先生に対しても、「その丸め方はちょっと・・・」 とか、「もう少し丁寧に包餡してください」 などと言ってしまうようになりました。

こりゃ友達も減るはなぁ~

”要するに自分が満足したいだけなんじゃないの” そう言われたこともありました。

年を重ねてきて、色々なことに対して丸くなったと感じますが、今も相変わらず他人の成形へのダメ出しだけはしてしまいます。

成形という製パン技術の先に、どうしてもお客様との信頼を繋ぐ鍵であるという一面、そして妥協したところから信用は崩れていくのではないかという一面を見てしまうのです。

パンという食べ物で、まずいものなんてほとんどありません。

そんな大して差のないパンの中から、自分のパンを選んでもらえる為に出来ることがあるとすれば、それはとにかく真面目に、一生懸命に、たとえお客様には見えない作業でも、ごまかしなくベストを尽くすこと、それしかないのではないかと地味ながら思うのです。

どう成形したかによって、同じ配合でも全く違うパンになる。

成形の仕方一つで、品質を大きく左右させることが出来る。

だからこそ、そこに重きを置く人たちには是非解って欲しい。

あなたのその成形こそが、手作りの最大の武器なのだと・・・・



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