ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

発酵させる事と捏ねる事の意外な関係

質問や仕事の依頼が、ホームベーキングからベーカリー経営者へと変わってきたのがここ数年。

量を作ると言う事と、作ったパンでお金を稼ぐと言う事以外は、どちらもパン作りに変わりはないと思っていました。

しかしそれは、あまりにも大雑把な考え方である事に、ある頃から気がついてしまったのです。

それは、ホームベーキングの方々というのは、まずパンについての基本も経験もほとんどない状態から、本屋さんで本を買う事から始まる、あるいはパン教室に通うというような選択肢しかないのに対し、ベーカリーでは知ろうが知るまいがとりあえず量産の経験は出来るという事、そして何よりも、その毎日のパン作りこそが仕事なのであり、自分の生活に直結しているのだと言う現実。

そして設備が全く違う事・・・・

したがって質問の内容が双方でまったく違ってくるのだと言う事に気が付いたのでした。

使用する材料の量が違う為に、業務用と家庭用とに分かれている事。

ホームベーキングの場合は、そもそも捏ねると言う段階から、どの位が適正なのかと言う標準的指標すら解りようが無いので、ただ本に書いてある通りに捏ねるしかない。

そして、パン屋さんとは違って、入社時からある程度の流れが出来ている中で工程を教わるのとは違い、自分のパン作りが基本にのっとっているのかどうかすら解りようが無いと言う現実。

その様な方々から来る質問と言うのは、当然のことながら原材料に関する全てであり、工程に関する全てであり、あげくには設備の特性に合わせた作り方を教えて欲しいと言う事になってしまうのでした。

これは正直言ってきりが無いかな???

そんな思いからホームベーキングの方からの依頼は受けないようになり、アドバイスをすぐに実践に生かせるベーカリーへとスライドしていったのでした。

しかし現在では、そもそもこの二通りしかないのだと言う分け方自体が大雑把だったのだと知る事になりました。

つまり、パン屋さんであっても支店を構える程の規模の場合と、個人店では製法などがまったく違っていたり、酵母が違っていたりしますし、設備も大きく違います。

さらに、家庭と店舗のドッキング型や工房だけの場合、レストランやカフェの一角でパンを並べる場合、卸しだけだったり予約制だったりと、とにかく多様なシーンでのパン作りが行われているのです。

発想が自由だというのは、実に夢のある話ですね。

パン作りが楽しく行われ、作り手と買う側のコミュニケーションが益々広がり、パンを作るということが単なる労働では無くなっていくような事があれば、この業界もきっと夢のある業界になっていくでしょう。

これからのパン作りをになう若者の、創意工夫に心から期待したい気持ちです。

そんな中、独立したいと言う方は相変わらずたくさんいらっしゃるのですね・・・・

充分に経験を積んで独立された方、あるいは思い切って踏み切った方、残念ながら完全なる思い違いで独立に踏み切る方とも何度か接してきました。

いずれにしても、それなりの自信はお持ちでの独立のはずですよね。

しかし不思議な事に、そのような本来ならプロの域に入っているはずの方々からの質問は、至ってシンプルな場合が多いのです。

これは解っていないな~????

そう思うのです。

何が解っていないのか????

経験は積んできたはずです。

ですから何となくの自信はある。

ただし、全てが解っていたかと言うと、そう言う事ではないようなのです。

つまり、パン屋さんでの経験というのは、全てを自分で組み立ててきたパン作りではありませんので、流れに沿ってパンを作っては来ました。

しかし、どうしてその様な作り方をしていたのかは知らずにいる事が多いのです。

流れが出来ている中で何かに疑問を持ち、他の工程を試してみたり原材料を変えてみたりと言う事は、実際にはなかなか出来ません。

責任者か、あるいはオーナーでない限りは難しいと言えるでしょう。

つまり、ある程度の量産経験があり、レシピや原材料に対する知識もそこそこなら知る事が出来た。

もっと自分なりの何か違う方法で、パンを作り提供してみたい・・・・

その様な思いから独立する人が多いのではないでしょうか。

ですが、実際に自分ですべてを組み立てようとしても、そこまで踏み込んだ製パン理論も技術も持ち合わせていなかった・・・

この場合はいったいどうするのが最良でしょうか・・・・と言う質問が来る事になる訳です。


あれ????本題からの脱線度200%かなこりゃ・・・・


そんな不安を抱えるパン屋さんからも、ホームベーキングの方からも、実に多く登場する質問がこちらです。

フィンガーチェックについて、その意味や見極め方への質問なのです。

フィンガーチェックというのは、当然ご存知ですよね。

発酵したパン生地に指を指し、穴が戻るようならば発酵不十分、穴がそのまま開いた状態なら丁度良い、穴の周りがしぼんでしまったりすると完全なる過発酵という目安の事ですね。

このフィンガーチェックに意味があるのか??、または正しい判断基準なのかと言う質問が多いのです。

私が当時パンを習った諸先輩方は・・・・やっていましたよ、指を指していました確かに・・・・

私個人としては、一度もと言っていいほどやった事はありません。

では、フィンガーチェックは意味が無いのかと言いますと、とんでもありません。

とても大切な手法であると思いますし、誰にでも解り易く説明する為の工夫なのだと思いますから、先人の知恵には改めて敬意を表します。

ではなぜお前はやらないのだ??? と言われる前に説明すると、別に指を指さなくても解るからだとしか言いようがありません。

生地の発酵状態と言うのは、色々な判断基準が存在します。

例えば、レシピと捏ね上げ温度、発酵環境が一定であれば、一定の時間で毎回必ず同じ状態になります。

そうならば、チェックする意味がそもそもありませんよね。

それから、生地の表面の状態を見れば、生地の発酵度合いは解りますし、解らないといけないと思います。

また、捏ね上げた時の生地の大きさから判断すれば、それが充分なのか、不十分なのかは解るはずです。

つまり、指を指してどうなる事が良いのかと言う事なのではなく、解らない人は指を指す以外に判断しようが無いと言う事なのです。

解れば必要はない・・・・そう言えると思いませんか?

では、お前はそんなに正確に解るのか、解ったつもりでいるだけなのではないか・・・・そう言われないうちにこれまた付け加えておきますが、別にそこが正確であるかどうかと言う事は、あまりパンの善し悪しに関係が無いと思います。

どう言う事か?? ややこしくなってきましたね(笑)

パン作りというのは、捏ねるから焼くまでトータルで管理出来て初めて納得のいくものが出来るのです。

何が言いたいのかと言いますと、例えば多少発酵不十分で次の工程に向かわなければならない場合があったとしても、それが理解出来ていてのことであれば、その後に多く時間を取るとか、成形時に多少強めに締める事で生地に力を与える工夫をするとか、保管温度を上げるとかの修正は可能だと言う事なのです。

また当然逆もしかりですね。

いくら分割前の生地状態が最良であったとしても、その後に時間がかかり過ぎる事もあるでしょうし、成形技術そのものが未熟な場合も当然あるでしょう。

なのに、分割前のその部分だけ極めようとしても、何の意味もないと思うのです。

子供は、どのような環境で生まれ育とうとも、それで一生が決まってしまう訳ではありませんよね。

自らも将来を考えて努力するでしょうし、周りにも応援してくれる人がいれば、育ちに関係なく立派に成長していくはずです。

人生の一部分だけを見て判断するというのは、あり得ませんね。

パンも同じで、工程をトータルで把握しながら、この場合はこうして、その場合はそうしてと言う事が出来るかどうかが大切なのです。

ですので、フィンガーチェックでは大丈夫だったのに、変なパンになってしまったのはなぜか?

と言うような質問は、ほんの一面を見て全てを決めている事と変わりありませんので、あくまでその前後がどうであったのかというトータル的な問題なのだと認識していただくしかないのです。

フィンガーチェックは必要かどうか? と言えば、見て判断できないのであれば必要だと言う事です。

お解りいただけますか(~_~;)

そして、これだけでは説明が不十分ですので、もう少しだけ付け加えます。

同じ量の生地が目の前に二つあるとします。

一つはとても大きな入れ物に入れ、もう一つは発酵したらすぐに一杯になってしまいそうな小さな入れ物に入れます。

さて、この二つの生地は同じように発酵していくと思いますか?

正解は、大きな入れ物の生地は横にいくらでも膨らむ事が出来ます。

したがいまして上にはあまり膨らみ様がありません。

他方小さな入れ物の中の生地は、終始窮屈な思いをしながら、横にも上にも伸びたくても伸びれないと言うような状態にあります。

この二つの生地が、同じ時間発酵を行った場合、大きい入れ物の生地は内部摩擦が少なく、小さい入れ物の生地は内部摩擦が激しくなり、生地温度が上昇してしまいます。

つまり、同じ時間を発酵させたとしても、入れ物によっては大きく生地の状態は変わってくるのだと言う事なのです。

細かくは難しくなりますのでここでは触れませんが、これを手法として考えて欲しいのです。

捏ね上げ温度が低くなってしまった、あるいは生地がダレぎみになってしまったと言うよな場合は、やや立体的な入れ物に生地を入れて発酵させれば、温度上昇が期待できると言う事になりますよね。

逆の場合は、広めの入れ物に入れれば、生地に摩擦を与えることなく発酵させる事ができますので、時間の経過による摩擦上昇温度を抑える事が出来るのです。

このように考えると、先のフィンガーチェックは、どの入れ物で発酵させたかによっても、指を指した時の戻り状態は変わってきてしまうのだということがお解りいただけると思うのです。

生地は、膨らんでいく過程において内部的に摩擦が生じています。

入れ物をわざと小さくする事で、この内部摩擦を増やし、生地をあまりミキシングしなくても、発酵中に捏ねているのと同じような効果が得られるのだと言う事を知っておいてほしいと思います。

発酵はゆるやかなミキシングなのです。

この言葉を理解することは、とても大切であると言っておきましょう。

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