ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

改めて知る小麦粉の違い・・・・

ホームベーキングの方々にはあまり知られていないとは思いますが、大手製粉会社では、実に多くの種類の小麦粉が作られています。

パン用、麺用、菓子用などと用途に分かれてはいるのですが、その中でもパン用の小麦粉というのは、実に多品種が揃えられています。

パン用と言えば、通常は強力粉がメインとなる訳ですが、その強力粉だけでいったいどれだけの種類があることか??

あんなにたくさん作る必要が果たしてあるのか??・・・・そう言いたくなるほどの種類があるのです。

その違いと言うのは、グルテンの力とか量が微妙に違っていたり、原料の産地が違っていたり、はたまた製粉する際の部位(麦のどの部分を粉にするのか?)などによって味や色などが微妙に違っていたりと言う事で、とにかく使いきれないほどの種類が存在しているのです。

しかも製粉会社の数だけ・・・・・

色々な小麦粉をブレンドして、またはパンによって小麦粉を数種類使い分けているというパン屋さんも多いとは思いますが、どこのパン屋さんにも、メインとして使っている小麦粉というものがあると思います。

小麦粉にこだわるパン職人と、別に安ければ良いと言うパン職人と、特に違いには興味が無く、良いパンが出来ればそれでいいと言うパン職人もいる事でしょう。

何でメインを決めているのか・・・・

それこそ職人の数だけ、お店の数だけの考え方があると思います。

しかしです・・・

数え切れないほどの種類が存在している小麦粉ではありますが、ほとんどの場合メインの小麦粉を変更すると言う事はあまり行われないのではないでしょうか?

特別気に入らないと言う場合は別として、何かのきっかけが無い限り、そう簡単には変えたくないのがメインの小麦粉だと思うのです。

なぜなら、その小麦粉で作ってきたパンがお店を支えてきた訳ですから、愛着もありますし、相棒でもあるからだと思うのです。

かく言う私は、現在までに使用した事のある小麦粉の種類と言えば、試作を除けば10種類程度だと思います。

それが多いのか少ないのかは、まったく解りませんが・・・・

そして、別の記事で触れたとは思いますが、使用する小麦粉の、いわゆるランクが同等の物であるならば、製パン性や味にそれ程の違いは感じていませんでした。

総じて大手の小麦粉は美味しいもの、そして製パン性は絶対であるという思いがあったからです。

そんな私が、とある事がきっかけで出会ったのが、岐阜県の小さな製粉会社であるサンミールの前田社長であり、その出会いから現在に至るまでの約12年間にわたり、シェルエイトという強力粉を使用しているのです。

当初は、正直言ってあまりの安さに手を出した・・・というふらちな動機からの出会いではあったのですが、シェルエイトで作るシンプルなパンというのが、思いのほか美味しいと言う事に気が付いたのです。

それから数十年の歳月が過ぎたつい最近、ふと、過去に今まで一番長く使用してきた大手の小麦粉と比べてみたいと言う思いがよぎり、取り寄せて違いを見てみる事となったのです。

すると、改めて大きな違いをはっきりと確認する事が出来ました。

その一つは手触りです。

シェルエイトを使い馴れている私にとっては、大手の小麦粉は中力粉?・・・いやいや薄力粉か???

と言う位ベトベトと手にくっつくのでした。

サンミールの小麦粉は粒度が粗いというのは十分認識して使ってはいたのですが、これほどまでに違うとは今まで感じていませんでした。

ちなみに社長いわく、大手のように細かくする機械は中小では手が出ないとの事。

そしてそれが、かえってパンを美味しくするのだと言う事。

サンミールには研究室はありません。

ですので、パンが美味しくなるというのはお客様からの情報なのです。

そして客である私もその意見には同感で、とにかく食パンの耳が美味しいのです。

私は、パンの美味しさはクラストで決まると考えています。

つまり、味と香りを両方味わえるのが表皮であるクラストだからです。

そして私が感じるもう一つの違いは、ミキシング時のピークが早い事、更に完成した生地が滑らかである事でした。

私には大手の小麦粉の小麦原産地や、挽き方などは知る由もありません。

ただただ信頼して使用してきました。

もちろん今でも信頼はしています。

ただし、当時からミキシングの加減が掴みづらいと言う事は感じていましたし、なかなか納得のいく生地が完成出来ないでいたのを思い出します。

それはもしかしたら、技術が未熟だったからなのかもしれませんが、とにかく今はピークがはっきりと解るのです。

これは、科学的に表現すると、サラサラしているのは粒度が粗いからであり、ミキシングのピークが早いのも粒度の粗さに起因していると考えられるのです。

また、一般的な粒度の大手強力粉ではピークが長く保たれるのに対して、シェルエイトはピーク時間が短い為に、ピークの前後との見分けがつきやすいのではないかと考えられるのです。

つまり、”ここだ”という捏ね具合の完成度を見つけやすいのではないかと思うのです。

しかしこの部分は、悪く考えればピーク時間が短い訳ですから、そこを逃すと生地は急速にダレてしまう事になります。

それに対して大手の強力粉はピークが長い為に、多少大目に捏ねたとしても、完成品に悪影響を及ぼすようなことはまずありません。

そういう使いやすさ・・・・と言う部分が、一般的にはとても大切なのではないかと思いますし、もしかしたら大手ではそのあたりを重視しているのかもしれませんよね。

いづれにしても、粉としての手触り、そして完成した生地の分割成形の時の手触りの違いに、大きくうなずいたのでした。

何となく毎日使っている小麦粉ではありますが、まさにその存在があってこそのパン作りなのだな~

改めて違いが解る男になれたような気がして(笑)

それから最後にもう一つ・・・・

皆様手粉には強力粉を使用していると思いますが、手粉は多過ぎても少な過ぎても駄目ですよね。

多いと焼き色がまだらになりますし、艶も失われてしまいます。

逆に少ないと使う意味がありませんよね。

ベタベタと手にくっつきながらでは、綺麗な成形は出来ません。

と言う事で、手粉をふる際には霧のように細かく生地や作業台に向かってふりかけていらっしゃると思われます。

生地を丸める際の優しさと、手粉のふり方にだけは、どうしても口を出してしまう私なのですが、今回使用した大手の小麦粉では、霧のようには撒く事が出来ませんでした。

ボトボト・・・と落ちる感じで、その粉が生地に付着しているのを見ていると、大福餅に付いている粉を連想してしまいました。

つまり、非常に細かいということなのでしょうね。

過去にあんなにお世話になった粉なのに・・・・

しかしさすがにクラムの出来は最高の物でした・・って、今更か(ー_ー)!!


追記:2013年11月29日

サンミールの社長より、ご指摘を受けましたので訂正いたします。

弊社も基本的には大手と同じ機械を使用しています。

但し、ロールの目立て方、加水の方法、ふるいの粗さ等その他もろもろにより変化します・・・・


との事でしたので、訂正しておきます。

また、同じ原料なのに違いが出るのか・・・?と質問した所、

同じ小麦原料で品質の違いがあるかという事ですが当然あります!

粒度から色の白度、その他もろもろ丸きり違います。

なぜ違うのかは100%挽き方が違うからです。


との事でした。

これからも、お世話になります(*^_^*)

捏ね上げ温度は確かに大切だが・・・・

こんな質問をいただきました。

質問ですが、仕込みで生地が途中で冷たくなってしまったと感じた時の対処法について。

今、他店との掛け持ちでバイトしているスタッフがいるのですが、仕込みの際に、ミキシングの途中で生地温を測って、生地の温度が低い場合は、ミキサーを高速にして、生地温を上げてから出していました。

その時に、「生地が出来上がっていても、温度を合わせるためにミキサーを回すの?」と聞くと「はい、そうしてます。なので、なるべく生地を傷めないように、高速で生地をまわしています。」

僕は「生地を優先するのか、温度を優先するのかどっちがよいのだろう?」と意味がわからなくなってしまいました。

もし生地温が低い場合は、自分の場合は生地が出来上がったらミキサーから取り出して、生地がだれ気味だったら、生地を何度か折り畳んで番重に入れ、暖かい所に置くのが良いと思いました。

しかし、もう一方のお店は僕が以前に働いていた所なので、仕込み場所の周辺に暖かい所が無かったのもあり、その方法しか無いのかなとも思いましたが、実際にはどう対応するのが良いのでしょうか?



生地のこね上げ温度がとても大切であると言うことは、ことあるごとに説明させていただいてきました。

パンを作るに当たっての失敗の原因は、このこね上げ温度を守らなかった場合に起因していることがとても多いのです。

パンを膨らませてくれる酵母菌というのは、温度にとても敏感です。

いくら製パンの技術があったとしても、このこね上げ温度をないがしろにしては、美味しいパンを完成させることはできないのです。

それほどに大切な生地の捏ね上げ温度なのですが、お店や会社によっては、生地のミキシング途中で温度を測ることを常としている場合があります。

それはなぜかと申しますと、途中で気がつけばその後に修正していくことが可能だからですね。

通常あまりこね上げ温度に厳しい目を持たないパン屋さんの場合は、低い・高いということに無頓着になりがちですが、品質にこだわるパン屋さんでは、当たり前のように行われている光景だと言えるかもしれません。

このように、ミキシング途中で温度を測ると言うことは、それなりに時間がかかりますよね。

ですから、そんな無駄な時間は必要ないと言うことで、はじめからすべての材料の温度を把握し、水や粉を暖めたり冷やしたりすることで、計画的に理想のこね上げ温度にもっていくという場合もあるでしょう。

毎日の仕込み時の気温や粉温や水温を書き留めておき、そのときに生地が何度に捏ね上がったかを記録しておけば、同じような状況のデータを探して活用することができます。

この部分をもう少し詳しく説明しておきましょう。

ノートなどに、生地の名称・仕込み数・室温・粉温・水温・こね上げ温度をそれぞれ記録していきます。一年を通してこれらを記録しておけば、もうたいていの場合はそれで活用できるはずです。

昨年の同じような時期の、同じような仕込量の時のデータを見れば、何度の水温で何度に捏ね上がったかが書かれているはずです。

それに基づいて水温を調整すれば、ほぼ希望の温度に捏ね上がることになるわけです。

ただし、配合に変更がない場合に限りますよ。

このようにして、こね上げ温度の重要性を認識しているパン屋さんでは、様々な工夫で適正な温度に持っていく為に努力していると思われます。

さて、ご質問の内容ですが、今回の場合はミキシングの途中で生地の温度を測る場合についての質問となります。

ミキシング担当者というのは、ほぼ毎日変わることなく仕込みを担当しているものであると考えられますので、おおむね昨日までのデータが頭に入っているはずです。

あくまで勘であることが多いとは思いますが、昨日までのデータ+経験値によって、水温などを調整して、ほぼ予定通りのこね上げ温度になっていることとは思うのですが、忙しいパン屋さんの場合は、同じ生地を何度も仕込むことが多いのと、そのたびに仕込量が変わったりする事があります。

そうすると、どうしても希望通りに捏ね上がらない場合がでてきてしまうのです。

そして問題はここからです。

ミキシング途中で温度が低いと解ったときには、その後の対処として温度が上がるような工夫をしなければなりません。

また、そのようにするために途中で温度を測っているわけですから、なんとしても希望通りの温度にするために手を施す必要があるのです。

ご質問の内容に寄れば、この方は温度が希望の温度まで上がるまで、ミキサーを回し続けると言うことになります。

それは何よりも、摩擦によって生地の温度を上げようとしているのだと思われますが、はたしてそれで良いのでしょうか?

この場合は、ミキシング時間というものを守らないわけですから、ミキシング過多により、生地に何かしらのダメージを与えてしまうのではないか・・・そのような質問だと考えます。

さてパンを毎日のように作っていらっしゃる方々にしてみれば、この質問は人ごとではありませんよね。

そもそもこね上げ温度が希望通りでない場合に行う対処法というのも、パン屋さんそれぞれで違う手法を行っていると思いますし、考え方も違うかもしれません。

結論から申し上げますと、それは自分なりに解釈していただくしかないと思われます。

なぜかと申しますと、どのような手法を行ったかによって完成品は様々な顔に仕上がりますが、その善し悪しは人間と同じで、好みの問題だからです。

ミキシング時間をとってみてもそうだと思いますが、パン屋さんによって実に様々のはずです。

皆自分が納得したミキシング時間で行っているに過ぎないのです。

ですので極論から言ってしまえば自由ではあるのですが、問題はこうすれば結果がこうなるとわかって行っているのかどうかということであろうと思うのです。

若干ややこしいかもしれませんが、その当たりを考えてみましょう。

まず、いつも通りのミキシング時間で終了した場合、生地の温度がいつもよりも低かったとします。

このときの生地の捏ね加減というのは、いつもに比べて同じだと言えるでしょうか?

確かに時間は同じく捏ねたはずですよね。しかし、いつものような温度に到達していないのですから、摩擦が足りなかった・・・・つまり捏ね不足なのではないかと言うことにはならないでしょうか?

だとするならば、いつもより余計にミキシングしたとしても、時間はオーバーしていますが捏ね加減はいつも通りになるはずですし、摩擦もいつも通りになったということになりますよね。

そして結論として温度がいつも通りになったのだとすれば、万々歳なのではないでしょうか。

しかし待ってください・・・・いつも通りの時間でミキシングしたものが、いつも通りの温度にならなかったと言うことは、スタート時点の温度が低かったと考えられますから、もしももっと低くスタートしたら、相当な時間ミキシングを追加しなければならないと言うことになりますよね。

それってさすがに捏ねすぎになりはしないでしょうか????ややこしいですね。

更にご質問の内容に寄れば、生地に負担を掛けないために高速で捏ねていると書かれています。

高速で捏ねる・・・・つまり早く捏ねると負担は軽くなると言うよりも重くなるような気もしますよね。

だって高速で捏ねられている生地というのは、相当摩擦しているように見えますし、ダメージはかなりあるように見えます。

むしろここは低速でじっくりと揉み込むようにしていった方が生地への負担は軽くなるのではないでしょうか?・・・・そうも思えますよね。

では逆の場合を少し考えてみましょう。

もしもスタート時点の温度を高くした場合、ミキシング途中で温度を測るともう予定の温度に達していることになります。

この場合は、だからといってここで終了してしまって良いでしょうか?

そうはいきませんよね。

そうなのです、何事にも限度というものがあるのですね。

ややこしいので少しまとめましょう。

生地を捏ねると言うことは、科学的には摩擦が発生してしまうことになります。

しかし、例えばボールを冷やしながら捏ねた場合、摩擦があっても温度は上昇していかないということになりますし、ならば全く捏ねられていないのかと言いますと、生地はしっかりと捏ねられていくのです。

と言うことは、捏ねて生地を作っていくということと、摩擦が発生して温度が上がっていくと言うことは、どうやら分けて考えなければならないと言うことになりそうですね。

そう考えますと、今回の質問にある摩擦を発生させるためにミキシングを余計に行うと言う考え方は、いささか乱暴な考え方になりはしないでしょうか。

いつもより余計に捏ねる・そしていつもより摩擦させるということは、捏ねすぎを生むことは間違いありません。

このような場合は、本来はボールを温めながら残りの通常ミキシングを行うことで、希望通りの温度にすることができるはずです。

ただ単に長くミキシングを行うことで温度を上げるというのは、明らかにオーバーミキシングを生む可能性があると言えると思うのです。

なぜ可能性なのかと申しますと、先に述べたように多少のミキシングオーバーは、職人の好みの範疇でどうとでもなるからです。

生地の配合や柔らかさにも寄りますが、例えば数分間いつもよりも多く捏ねたからと言って、それが即オーバーミキシングとなり、完成品に悪影響を及ぼすと言うほどのことではないと言うことを付け加えておきます。

他にも、私ならこうするというようなご意見もあるはずです。

生地を捏ねると言うことは、その捏ね方からすでに完成品のイメージが浮かんでいる方もいらっしゃれば、あまり意味を考えていない人まで様々だと思います。

ただ、私個人としては質問者様の対処法である、こね上げ時点で織り込んだり揉み込んだりするという意見に大賛成です。

生地温度が低いと判断された場合、体重をかけて数十回折り畳むように揉み込むと、空気を多く抱き込み、予想以上に生地が力を持ちます。

温度が摩擦で上がると言うこととは違い、生地の力、つまりグルテンが非常に強化されるのです。

そうすることで、温度が多少低くても生地がだれるようなことがなく、内部摩擦を生みだし、ボリューム感のあるパンになるのです。

ただし、あまり量が多ければ、そうはいかない場合もあると思います。

また、肝心なのは、捏ね上げ温度を適正にもっていく・・・・と言う事だけではありません。

低ければ高い場所へ、高ければ低い場所へと保存場所を考慮するなどして、発酵環境で調整していくと言う事も非常に重要なのです。

しかしこれには設備が必要であったり、置き場所があるかどうかという問題もあるでしょう。

ですので、出来る事ならしっかりとしたデータをとり、ほぼ適正に捏ね上げる事が重要になりますし、そうはいかない場合が発生したら、ボールをお湯で温めたり、氷水で冷やしたりしながら通常ミキシングを行うというのが理想なのではないでしょうか?

様々な質問を頂く中、色々な工房の状況を目の当たりにする訳ですが、夏場は工房が40℃以上になる・・・と言う所もあれば、真冬は逆に5℃の場所で作業をしている・・・なんてこともあるようなのです。

皆様それを楽しんでいるかのように報告してくださるのですが、それは大きな間違いですよ。

その様な温度帯でパンを作ると言う時点で、捏ね上げがどうであるとか、配合がどうであるというようなレベルの話では無くなってきてしまうからです。

酵母の活動と言う観点からも、グルテンの結合という観点からも、熱過ぎる場所や寒過ぎる場所での製パンと言うのは、あってはならないのです。

製パンは運動とは違います。

耐えてどうなる・・・と言うものではないと言う事を、どうか解って欲しいと思います。


パン職人が心がけなければならない大切な事とは

昨年のいつ頃であったか・・・・?

たいしたやり取りも行っていない状況の中、とにかくすぐにでも来てほしいとの要望を受け、はるばる名古屋まで伺った時の事である。

依頼者は年配の男性で、一人で店を切り盛りしていた。

長年お店を続けてはいるが、自分の作ったパンがこのままではいけないのだと感じているのだと言う。

年齢から判断するに、好きなように好きなものを作っていればよいのではとアドバイスはしたのだが、本格的なパンも作れるようになって花道を飾りたいと強く希望され、ならばと伺った訳である。

前泊して早朝より工房へお邪魔したのだが、お会いしてすぐに出発前から感じていた違和感が現実のものとなった。 

自分で呼んでおきながら、面倒くさそうな顔をしているではないか。

しかも、どうでもいいような話ばかりを繰り返し、いったいこの人は何を学ぼうとしているのかが、さっぱりつかめないで数時間が経過した。

製パン経験で言っても私よりも大先輩のこの人は、確実にどこか変わっているな・・・そう感じてはいたが、時間がたてばやがて本題に入るであろうと、しょうもない話にしばらくは付き合っていた。

その間彼は仕込みや分割などをしているのだが、これまたひどいものであった。

ミキシングに時間など無く、分割はいい加減で、生地の取り扱いに至っては、自分の部下なら張り倒したい位ひどいものであった。

しかし彼は恐らくいつも通りなのだろう、まったく気にしている様子もない。

そんな時である・・・・

作業台の上に生イーストが出しっぱなしになっており、表面はすでに乾燥し始めているのを見つけた私は、イーストは冷蔵庫に入れて置いた方がいいのではないですか????・・・・そう申し上げた。

すると次の瞬間、そんな事くらいお前みたいな若造に言われなくても解っているよ!!!くだらない事を言ってないで、かっこいい成形の仕方だけ教えてればいいんだよ。

ふざけんじゃねえぞこのやろう!!頭に来るなっ!!という感じでどなり散らされてしまった。

私もいい加減短気だが、今回はかなりビックリした。 

そしてジエンド・・・・結局、大きくため息をついてその場を出た。

その後時間が余ったので地元の温泉に入り、ゆっくり時間をかけて帰路についた。

こんな場合は、交通費も宿泊代も請求できないので丸損である。

私は、言い方や表現の仕方で他人を怒らせる事がよくある。

あまり面と向かって言われる事はないが、何となく気まずい空気が流れる事があり、そんな時に事情を聴くとどうやら私の一言が原因で不信感をいだいてしまっているようなのだ。

あの言い方はないんじゃないですか・・・・とか、ああ言われたら落ち込むのは当たり前・・・と言うような事を何度か言われてきた。

人が何をどのように感じようと自由であるはずなのだから、その人たちの言い分は間違ってはいないと思うし、恐らくそう感じるような内容を私が口にしたのは事実なのかもしれない。

なのかもしれない・・・とはずいぶんと無責任だと思われるかもしれないが、正直いちいち憶えていないのである。

なので今回の件も、憶えてはいないがイーストの件に触れる以前に、気を悪くするような事を言ってしまっていた可能性は無いとは言えない。

というか、常識的に考えれば、そうでなければこの態度は通常ありえないだろう。

そうやって私は、人の勘所にさわるようなひどい言い方を無意識のうちにしているのかもしれない。

するとである。

私と長く付き合っているパン職人たち、あるいは部下達や仕事を依頼してくださっている方達というのは、それを長々と我慢して付き合ってくれていると言う事なのであろうか?

それとも私は相手によって指導方法をころころと変える事が出来る名人なのであろうか?

しかし名人であるかどうかは別として、基本的に私は相手が例え誰であろうとも指導方針を変えるような事は絶対に無いのである。

明らかに自分よりも技術が優れている・名声がある・大先輩であるなどの場合も、逆に主婦の方・趣味の方・若い方であっても、言う事はいつも同じ、パン生地の取り扱いを第一に考えてほしいという思いから発する言葉なのである。 

相手が誰であろうと、生地を荒らす人には優しく丸めなさいと教え、いい加減な人にはきちんと取り組むように教える、ただそれだけなのだ。

教えてほしいと言うから教えているのであって、教え方にどうこう言われる筋合いはないのである。

また、今まで関係してきた製パン関係者の中で、すぐに仕事を辞めてしまう人や、ああだからこうだからと言い訳ばかりしては、最終的にはこの業界を離れて行く人と言うのが、皆そのような人たちであった気がする。 

ブログの数少ない写真のなかの、フランスパンのクープが非常にきれいだというお褒めのメールをたくさんいただく。

そして、どうしたらそのようにできるようになるのか?という質問も実に多い。

実際に指導に来てほしいという依頼も少なくはない。

褒めていただく事は誠に恐縮するが、教えてほしいという人達とのやり取りでは、本気を感じた事は今だかつて一度もない。 

なぜなら、教えてもらえば上手になると心から思っているようだからである。

時折触れてきた事だとは思うが、技術は教えてもらうものではなく、盗むもの、感じ取るものだからである。

何年も何年も悩み、そして長い歳月をかけて磨きあげてきたものを、どう教えろと言うのか?

教え方などある訳がない。

何回来てもらえれば出来るようになるかと言う問い合わせもあるが、正に愚の骨頂であろう。

本当に学ぶ気がある人だったら、自分から来ている。

皆そのようにして師匠を見つけ、何があっても学びきるまで愚痴をはかないのが、本当に学ぶという事なのではないだろうか?

フランスパンに限らず、良いパン、美しいパンを作ろうと思ったら、まず考えてほしい事がある。

それは、高品質のパンを作るにあたっては、最高の気配りが出来なければ無理だと言う事である。

どういうことか? 

それは、例えばたくさんの量のパン生地がホイロに入っていたとする。 

温度と湿度だけは調整してあるので、後は入れておくだけ・・・・と言うのがほとんどの場合であろう。 

しかし、実際にはホイロの中と言っても場所によって温度も湿度も大きく違うものである。 

どの生地をどこへ入れるか、または時にローテーションをして全体が安定的に発酵するように気配りしているか、そこが非常に大切な部分なのであるが、それを実行している人を私は見た事がない。

すると、結果としては大小大きさの違うパンが出来上がる事になるのだ。

また、分割時に生地が乾かないように配慮したり、分割はじめと最後の方では力加減を変えたり、成形に合わせて形を作っておいたり、数えやすいように並べて置いたりと、とにかく配慮しなければならない事は山ほどあるにもかかわらず、まったくの無造作に作業されている光景が多く、どうでもいいおしゃべりが多い工房もある。

良いパンを作る事、毎日品質を安定させる事・・・と言うのは、実はそんなに技術を要するものではない。

ただ必要なのは、生地を乾かしてはいけないとか、時間を守らなければならないとか、実に基本的な事を忠実に実行できるかどうかという事だけなのである。

そして何より、イーストを常温放置してはいけないというようなごく当たり前の基本中の基本を、知っているのではなく実行すること、そしてそのような基本に常に思いがいくかどうかという事なのである。

私の知る限りでは、家庭レベルのパン作りでは、基本に忠実にされている場合が多い気がする。

それなのに、それを商売として行っているパン屋さんが、基本を無視していては本末転倒であろう。

技術が上達すればするほど、熟練してくればしてくるほど、基本は大切なはずだ。

そして、どれだけの技術者になったとしても、基本を省略してのパン作りはあり得ないのである。

要するにどれだけパン作りに没頭出来ているかと言う事なのかもしれない。

小規模のお店というのは、店主が王様になりがちである。

すべてを自分で決める事が出来て、誰も文句を言う人がいないからであろう。

大きい組織では人間関係が煩わしく感じる事が多いと思うが、チームプレイであるがゆえに基本を大切にしていると思われるし、それなりのマニュアルのようなものがあると思う。

しかし個人店では、すべてがオーナーの人となりにより決まるのである。

キャリア・・・・と言うものが、傲慢へと向かうのか、それとも謙虚へと向かうのか・・・・

大いに自問自答したいところである。

フランスパンのクープが毎日同じように割れないというパン屋さんからの質問が多い。

私の場合、クープが綺麗に割れない事は一年を通して恐らく一度も無い。

しかし、逆に言うと今すぐにでも割れないクープを作る事が出来る。

それには、ほんの少しだけ・・・ほんの数分間だけ生地を放置しておけば、表面が乾燥して見られたものではないフランスパンになるからである。

つまり、確かに成形などの技術は必要ではあるが、ほんの少し油断しただけで、ほんの少し生地から気持ちが離れただけで、クープは美しくならないのである。

その、ほんの少しに気持ちが行くかどうか・・・・

そんな些細な気配りだけが、繊細さを生むのだと思う。

あらためて考えたいと思う・・・・

小さい事・細かい事・基本中の基本からしか本筋はつかめないのだと言う事を・・・・


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