ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

焼き立てを提供する為に必要なのは、発酵のコントロールと・・・・・

今回は、前回紹介した焼き回数を増やしてほしいパンの、それぞれの製法について考えていきたいと思います。

必ずしも、このパンでなければならないと言う訳ではありませんが、焼き立ての特徴を出しやすいという点と、ピザパンとカレーパンはそもそもが人気商品の一つであるはずだと言う点と、そしてフランスパンについては、特に別の意味も含めてお勧めしていきたいと思います。

まず、ピザパンですが、提供の仕方や生地については、お店によりそれぞれ違うとは思います。

丸や三角、又は四角い小物として販売している所や、天板で大きく焼いて、カットしたものをそのまま天板ごと店頭に並べている場合もあるでしょう。

今回取り上げるピザパンに関しては、クロワッサン生地やフランスなどの生地を使ったものではなく、一般的なバターロール生地か、あるいは食パンに近いシンプルで、ソフト感のあるピザパンを作る場合で考えていきます。

一日に最低でも三回、同じものを焼くと言う事は、焼くという手間だけを考えても、今までよりは時間がかかってしまうでしょう。

ですので、成形の段階と、具のせの段階までは一度に行っておきたいものです。

そんな時は、いつも通り生地を分割し、ベンチタイムの後成形を行うと思いますが、その成形後の段階で具をのせてしまいます。

初めに焼くピザは通常通りの作り方でよいのですが、2回目3回目の分は、成形して具を乗せた状態で冷蔵庫で保管しておきます。

その間ゆっくりと発酵してくるとは思いますが、途中で発酵は止まってしまいます。

その状態で保存してある生地と言うのは、その後時間差でホイロに入れる事で、残りの発酵時間はかなり早まりますので、約一時間ごとに発酵するように、順次ホイロへ入れていきます。

ピザソースが生地に染み込んでしまうような緩い物の場合、ピザソースを塗る前にバターを塗っておくと染み込みずらくなります。

とは言え、あくまでピザソースを塗ってから半日以上は置かないようにしてください。

どうせ乗せるなら、具は後でも構わないと言う人もいると思いますが、その場合は、成形後の生地を、つまり麺棒などで薄く伸ばした生地を冷蔵庫で保管することになります。

そうすると、具が乗っていない生地と言うのは、不規則に膨らむことになり、後から具を乗せて焼く事で、焼成後に大きな気泡が出来てしまう事があります。

ですので、具材を乗せないで生地のみを冷蔵するような場合は、生地玉の状態で保存し、その後成形から始めるのが良いと思います。

ピザパンだけではなく、このように生地を分割後に冷蔵庫で保存する製法を、一般的には生地玉冷蔵法と言います。

生地玉冷蔵法の利点は、冷蔵庫で最大2日程度は生地の状態が安定的に保てるという点と、発酵風味とソフト感を強調したパンが完成すると言う点があります。

実際には、配合によって1日しか安定しない生地や、4日程度安定する生地もありますが、どの生地も当日以内であれば全く問題なく保存できると思います。

イーストフードやBBJなどの改良材をお使いであれば、前日に仕込んで分割した生地を、冷蔵保存して翌日成形から行う事が出来るのがこの製法の利点ですが、冷蔵スペースにはそれぞれ限りがあると思いますので、焼き回数を増やしたい生地のみ、この製法を試されることをお勧めします。

なお、この製法の欠点も当然ありますので、それはこちらを参照してみてください。


生地玉冷蔵法

チーズが固まっていない状態のピザパンに出合えた時、その感動は必ずお店の武器になるはずです。

焼き込み調理パン全般に、この生地玉冷蔵法は効果を発揮しますが、冷蔵する間に生地の内部には複数の不規則な気泡が出来、それが完成品に出てしまう事があります。

また、フィッシュアイも成形によっては出やすくなりますので、ここではその現象が一番出にくく、しかも売れ筋であるピザパンを紹介しました。

ピザパンに限らず、色々と試して焼き回数アップにつなげてみてほしいと考えます。

次にカレーパンについて考えていきます。

カレーパンと言うのは、ほぼ全国的に人気商品でもあります。

それは、日本人のカレー好きが原因である事は間違いありませんが、そのカレーパンが大人気のお店と言うのは、間違いなく揚げたてを提供していると言えます。

だとするならば、カレーパンを人気商品にしたいのなら、揚げたてをどうしたら提供する事が出来るのかを考える必要があります。

どうしてもパン屋さんと言うのは、一日に最大でも何回・・・というように、回数を決めてしまう傾向があります。

もちろんそれでも、一回よりはましだと思いますが、人気店のカレーパンは一日中揚げ続けていることになります。

そうでないと間に合わないと言う好循環のなせる技でもあり、逆に言うと一日20個も揚げないお店では、揚げたてに巡り会える事はまず不可能でしょう。

するとパン屋さんでは、カレーそのものにこだわってみたり、生地を色々と変えてみたりする事が多いと思うのですが、結果としてはあまり売上にはつながっていないと実感されている方が多いのではないでしょうか。

確かに具が美味しいに越した事はありませんし、色々な種類があるのも魅力ではあります。

しかしそれも、好みの分かれるところでもあり、数種類のカレーパンを作っても、売れ方はあまり変わらないのではないでしょうか。

そこで、私がお勧めしたいのは、カレーパンは注文を受けてから揚げるという手法なのです。

このお店のカレーパンは、注文したら揚げたてを出してくれると言う事を浸透させれば、これも確実に武器になると思うのです。

慣れるまでは何かと大変だと思います。

年がら年中フライヤーの前に立たなければならない訳ですから、そのたびに作業が中断してしまう。

ですから、紹介しても、誰もがやれるようなことではないのです。

しかしここが重要なのです。

その誰もがやりたがらない事だからこそ、やってみる価値があると言えますし、その為の努力が必ず成果につながるはずだからです。

もし、それが評判になって、しょっちゅう揚げていなければならなくなり、その為にパートさんを採用したとしたら、その時点で大成功だと言えると思いませんか?

パン屋を始めた人と言うのは、どうしても店づくりや品揃えを気にして、体裁よく構えようとしてしまう傾向があると思うのです。

しかしそれは、ある意味お客様からすれば、どこも同じようなものなのではないでしょうか?

似たようなお店と似たようなパン・・・・そして運営方法そのものも大した変りはない。

難しい成形の欧風パンや、見たこともないような綺麗なデニッシュも店格を上げるかもしれませんが、誰でもが郷愁を感じるであろう、揚げたてのコロッケ・・・それに匹敵する魅力があるのが、揚げたてのカレーパンだと私は思うのです。

もしこの方法で、注文を受けてからカレーパンを揚げるとすれば、発酵時間でお待たせする訳にはいきません。

ですので、粗方発酵済みのカレーパンを、冷蔵保存して発酵をコントロールしておく必要があります。

ある程度のコツは当然必要ですが、パン屋さんにとっては、その部分はそう問題ではないでしょう。

また、カレーパンにはほぼ間違いなくパン粉が使われていると思いますが、パン粉を付けた生地と言うのは、冷蔵耐性が非常によく、数時間はそのままの状態を維持できると考えます。

そのように冷蔵庫内で発酵した状態で保存してあるカレーパンを、注文を受けてからすぐフライヤーに入れれば、お買い物の間にアツアツが完成する事になります。

これが武器にならないと思う人は誰もいないと思います。

ただ、実行する勇気があるかどうか、それだけです。

「カレーパンは、注文をいただいてから揚げますので、スタッフにお声かけください。3分でアツアツが出来上がります。」

このように大きく書いたポップを、カレーパンのプライスの隣に立てかけてください。

揚げたてを保温器で保存したり、オーブントースターで温めて提供しているお店はいくらでもあります。

しかし、それらと本当に揚げたてのカレーパンでは、比べ物になりません。

それが出来るのが、焼き立てパン屋さんなのであり、売上がそこそこだからこそ出来る、真心のサービスなのです。

人気店での買い物では、何となく慌ただしく処理される感を持つ人もいるのです。

人と人のぬくもりが感じられるお店というのも、今後益々必要とされてくる時代であると、私は感じてなりません。

この方法を実行すると、フライヤーを一日中加熱している事になります。

そうすると酸化も早まり、小まめにカスを取る事と、油の交換を小まめにする必要が出てきます。

せっかく揚げたてを提供しているのに、黒くなった油で苦いカレーパンを出したのでは、かえってマイナスになってしまいます。

出来る事なら、軌道に乗ってきた後、卓上のフライヤーを購入し、少ない油と少しの光熱費で済むようにしたいものです。

このように、なにをやるにしても、何のリスクも負わないと言う訳にはいきません。

何かを実行しようとすると、その工夫をさえぎるかのごとく、出来ない理由が浮かんでくるものです。

やった方が良いのは解るんだけど・・・でもな~

もうちょっと良い方法もあるかもしれないし、じっくり調べて考えよう・・・・

と、普通はこうなるものです。

ところが、人気店のオーナーと言うのは、私の知る限り皆突っ走りタイプです。

良いも悪いもない・・・・

閃いたら即動く人がとても多いのです。

もしかしたら、そのあたりが大きなカギなのかもしれませんよね。

では次回、フランスパンの焼き回数を増やす為の製法について考えていきたいと思います。

焼き立てパンの香りは、人を幸せな気持ちにさせてくれる・・・

オーブンフレッシュベーカリーの本当の力とは何でしょう?

それは、焼き立てのパンの魅力で、お客様を感動させる事が出来るということです。

焼き立てパンの店・・・・こんなフレーズが、看板やのぼり、あるいはリーフレットや包装紙などに書かれているお店は多いですよね。

お店に入ると、パンを焼いている香りが漂っていて、それだけで幸せな気分になりますし、購買意欲をかき立てる事でしょう。

出来立て、作りたて、焼き立てと言うような表現には、いわゆる鮮度というものが表現されていますし、そこに香りが加わる事で、お客様は確実にその魅力に取りつかれることになるのです。

パンが焼ける香りというのは、お客様だけではなく、そこに働く人や通行人にまでも幸せを与えてくれます。

言うなれば、これ以上の販促ツールは無いと言えるでしょう。

しかしです・・・

今現在売上の低下に頭を悩ませているお店と言うのは、ほぼ例外なく、この焼き立てパン屋最大の武器である焼き立ての香りというものが、お店に漂っている時間が非常に短いのです。

それはなぜなのでしょう・・・・

それは、あまり焼きたくないから・・・なんていうはずはありませんよね。

焼きたくても焼けないのであり、もっと言うなら、焼きようがないのです。

なぜなら、お客様があまり来ないからですね。

逆に、人気店と言うのは、焼いても焼いても間に合わない位お客様が来ますので、一日中焼き立ての香りが漂っている訳です。

焼いても焼いても足りない位お客様が来るので、早朝から閉店ギリギリまで焼きまくる事になる。

結果として常に出来立て、焼き立てですので、お客様は最高鮮度のパンが手に入る事になり、最高の状態で食べてもらえることにもなる。

そして何より、いつお店に行っても、パンの焼かれる香りに包まれ、幸せな気分でお買い物ができる訳です。

これは、作る側の思いと、買う側の思いが、実にマッチした状態だと言えますし、まさに好循環とはこの事ですよね。

他方、お客様が少ないお店では、午前中には焼き立ての香りが途絶えてしまう事が多く、早朝に焼き上がったパンを夕刻に購入する際には、かなり鮮度は落ちている場合が多いと思うのです。

つまり、お店でも焼き立ての香りを楽しむ事が出来ず、さらには鮮度の落ちた状態のパンを提供されている事になりますから、食べた時の感動も半減してしまうでしょう。

お客様が減ってしまうという現実は、焼き立てパン屋さんから焼き回数を奪ってしまうという結果に至る事になり、ひいてはお店から焼き立ての香りまで奪ってしまう事になるのです。

作り手の思いがお客様の思いと結び付かない状態というのは、まさに悪循環を生むことになるのです。

今現在そのような状態で悩んでいらっしゃるパン屋さんのオーナーは、出来る事ならリセットしたい・・・・オープンの頃に戻って、もう一度やり直したい・・・・そう思っているのではないでしょうか。

あの時ああしておけば、きっとこのようにはならなかったはずだ・・・色々とやってきた事に対する反省もおありでしょうし、何がいけなかったのかが解らないでいるオーナーも少なくないでしょう。

すべて周辺環境の変化が原因だ・・・・自分は間違ってはいなかった・・・・そのように思われているオーナーもいるでしょう。

しかしいずれの場合も、今現在の状況が現実そのものなのであり、過去に戻る事は出来ないこの現実を、まずは受け入れるしかないのです。

残酷なようですが、この現実から復活するには、並大抵の努力ではかないません。

お金があるのであれば、別な場所でお店を出せれば、今度は成功するかもしれない・・・

しかし実際にはそうはいかないでしょう。

今以上に頑張るか、辞めるかの二択をせまられることになるはずです。

辞めようとお考えのオーナーには、本当に今までお疲れさまでしたと言わせていただきます。

どれほど悩まれ、どれほど人一倍努力と勉強をしてきたことか。

そして、なんとなく負け犬になってしまったかのような気持ちをぬぐいきれないまま、別の道を探さなくてはならないせつなさ・・・私には良~く解ります。

しかしある意味、パン屋を経験してきた人と言うのは、とても体力があり精神的に強い。

人生に負けた訳ではないのですから、大いに今後も活躍してほしいものです。

そして、頑張って継続していこうとお考えのオーナーには、正直別の道を選択する事は出来ないのかを聞きたいところです。

なぜなら、一度落ちた売上を上げていく事ほど、大変なことはないと言う事を身をもって体験してきたからです。

本当にやるのですか?もう辞めませんか?その方がどれだけ気が楽か。

これは、安易に戦いを放棄することをお勧めしているのではないのです。

そもそも商売は、戦いではありませんしね。

どれだけ今後、しんどい思いをしたとしても、お客様が戻ってくる保証がある訳ではありません。

もしかしたら、続ける事で気持ちも身体も参ってしまうかもしれません。

それほど辛く険しい道のりだと思うのです。

しかし、それでも負けずに頑張っていこうというオーナーは、その時点ですでに凄いことだと思いますし、敬意を表します。

そんな方々のきっかけになるかもしれないと思われる、集客アップの第一の方策として提案したいのが、焼き回数を3倍に増やす為の方法です。

焼き立てのパンが多くお店に並ぶ事で、お客様の満足度はかなりアップするということは、誰でもが知る所だと思います。

しかしそうは思っていても、実際には出来ないでいる。

出来ない理由には大きく二つがあって、一つはもともと一つのパンが6個とか8個しか売れないものを、何度かに分けで焼くなどと言う事は、不効率極まりない行為であり、そもそもパン棚が寂しくなってしまうから。

もう一つは、一人でやらなければならない仕事が多すぎて、オーブンの前でちまちま焼いている事など不可能に近いから・・・ではないでしょうか。

もし安易に焼き回数を増やしたりしたら、逆に欠品が多くなる場合があり、チャンスロスにもつながり、作業時間も大幅に増えることになる。

もしかしたら、閉店後に売れ残るパンも増えてしまう事になるかもしれない・・・・

やるべきなのは解るけど、実際には無理だと思ってしまう、この悪循環スパイラルから逃れられないでいると言う方は多いのではないでしょうか。

かく言う私も、そのような思いを体感して参りました。

皆さまの思いも、今までやられてきたであろう手法も、すべて理解しているつもりです。

しかしそれでも、そこを何とかしなければ、焼き立ての香りをお店に漂わせる事は確実に不可能になります。

そこが魅力だと解っているのに、やれないなんてことはあるはずがないし、あってはいけないのです。

ですから、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

自分が買う側の立場だったら、お店のパンの何に感動し、何がガッカリかを考えるのです。

私の場合は、パン屋さんで感動するのは、揚げたてのカレーパンに出合った時とか、ソーセージが好きなので、焼き立てでホカホカの焼き込み調理パンに出合った時とか、皮がパリパリで、明らかに出来立てのフランスパンや、フランス系の小物に出合えた時です。

揚げたての、特にカレーなどの甘くない具材が入ったドーナツと言うのは、揚げたての天ぷら同様、何とも言えない美味しさがあるものです。

焼き込み調理パンも、マヨネーズやチーズの表面が、まだトロトロの状態の時に食べると、これまたたまらなく美味しく感じます。

ソーセージをそのままボイルして食べても、この感動には味わえません。パンになって初めて、マヨネーズやチーズと合わさる事によって、そしてそれを香ばしいパン生地と一緒に食べることによってしか得られない美味しさだと言えると思います。

フランスパン系は、これら2種類のパンよりは時間が経っても美味しいと感じますが、それでも焼き上がってから3時間以内には食べたいですね。

これらのパンを、もし翌日の朝、または昼に食べたとしたら、その美味しさは恐らく半分では済まないでしょう。

私の場合は、よく自分の作るパンを様々な時間帯で食べまくります。

作ってすぐから、半日経過後、翌朝、翌昼、翌夕、翌々日の朝・・・・と言う具合に、どのパンがどれくらい鮮度を保てるかを試すのです。

これはなぜそうするのかと言いますと、焼き立てをせっかく買っても、それを数日後に食べたのでは、焼き立てを買った意味がなくなってしまうからです。

どのパンの食べ時がいつ頃なのか、いつ食べてもらう事が最善なのかを知っておきたいのです。

そうすることで、もしも日にちが経過してしまっても、こう食べれば美味しく食べられると言う事を、実体験からお客様に伝える事が出来るとともに、翌日には確実に味が落ちて美味しくなくなると言う事をも、はっきりとお客様に宣言できるからです。

食べるのが明日になるなら、買わないでください・・・・間違いなくガッカリしますから・・・・そのようにお伝えする商品もあるのです。

以上から解るように、私が思うには、けして全てのパンの焼き回数を増やさなければならないと言う事ではないのです。

焼き立てが特に際立って美味しいパンだけを厳選して、それを何回も焼けるように工夫するのです。

逆に言うと、冷蔵販売した方がいいようなパン、例えばチョコレートがコーティングされているデニッシュや、生クリームがサンドされているような商品は、焼き立てとは縁遠いと思いますし、フルーツなどがトッピングされたデニッシュも、焼き回数は今までと同じで構わないと思います。

その代わり、ナパージュで表面の乾燥を防いだり、フルーツの色あせを防いだり、生クリームが生地に染み込まないような工夫は必要ですよ。

改めて、今さらと思われるかもしれませんが、ご自分の作るパンの一つ一つの食べ頃と、鮮度が保てる時間がどれ位までなのかを知る為に、徹底的に食べてほしいのです。

そして、このパンは焼き立てを絶対に提供したい・・・・そう思えるパンはどれなのかをまずは決めてほしいのです。

例えば私がお勧めしたいのは、カレーパン・フランスパン・ピザパンの三種類です。

しかし、この三種類のパンの焼き回数を増やす為に、やってはならない事があります。

それは、今までそれぞれ最大でも10個程度しか売れていなかったとしたら、それを三回に分けて提供すると言う考え方では駄目なのです。

それぞれ三倍の数を焼いて欲しいのです。

でもそんなことをしたら、売れ残ってしまうのではないか・・・・

もちろん、その様な場合も絶対にないとは言いません。

しかし、今までと同じ個数を三回に分けても、今まで以上に売る事は不可能です。

今までよりも作るからこそ、今までよりも売れる可能性があるのです。

まずはその点を理解していただきたいのです。

無いものは買いようが無い・・・当たり前の事なのです。

ですので、まずはそれぞれを三倍作る事を目標にして欲しいのです。

次に、そのパン出すタイミングですが、一番お客様が多く来る時間帯にぶつけて欲しいのです。

大抵の場合、午前10時から午後1時くらいまでがピークだと思うのです。

ですので、10時に一回、11時に一回、12時に一回と言う具合に、その時間帯をめがけて三連続で提供して欲しいのです。

そうする事で、比較的多くのお客様に、今まで以上に焼き立てを提供出来る事になる訳です。

10時以前の時間帯というのは、ほぼすべての鮮度が良い状態だと思います。

この時間帯にいらっしゃるお客様と言うのは、鮮度の良さと品数の多さを求め、すでに焼き立ての魅力を充分解っているお客様達だと言えます。

問題は、その焼き立ての魅力を伝えられる時間帯を広げる事が出来るかどうかなのです。

昼時になると、もう翌日の成形などの準備を行っているパン屋さんがあります。

この状態と言うのは、お客様が一番多く来店している時間帯なのにもかかわらず、焼き立てパン屋の最大の魅力を出し切れていない状態にあると言えます。

最低でも午後1時位までは、出来たてのパンの試食をオーナー自らがお客様に配りながら、お客様と会話する時間にして欲しいものです。

レジに並んで会計を待っている時、工房から ”只今焼き上がりました~” と、オーナーがパンを運んできたら、ほとんどのお客様はそちらを見ます。

その時、オーナーがすかさず ”いかがですか (*^_^*)”と勧めた場合、確実に ”それ一つ下さい ”となると思いませんか?

そのようにして、プラスワン効果を狙う事で、三種類を三倍焼いたとしても、確実に売れてしまうと私は確信します。

ここで肝心なのは、ただ漠然と焼く回数を増やしたり、製造数を増やす事が本来の目的なのでは無いと言う所です。

焼き立てのパンを持ってお店に出る・・・・そしてお客様に焼き立てをアピールする・・・・お客様と感動を共有する・・・・この流れが重要なのです。

お客様とスムーズに会話できるようにする為の、ツールとして焼き立てパンを使うのです。

私の場合ですが、焼き立てを持ってお店に行った場合でも、お客様があまり反応しない時がありました。

”お客様、いかがですか?” と聞くと、 ”そのパン食べた事無いから・・・”との事。

そんな時は、一つ袋に入れて、”お勧めですから、是非食べてみてください ”と言って差し上げます。

そんな事をしていると、必ずそのお客様は次回来店した際にお礼と感想を言って下さいます。

たった一つのパンを差し上げた事から生まれる、作り手とお客様の会話。

この時差し上げたパンを、ロスだと言えるでしょうか?

私は、パン屋の武器はパンしかないと常日頃から思っています。

自分の思いをお客様に伝えるには、パンを通して伝えるべきであると・・・

ですので、やたらと試食を勧めますし、断られたら袋に入れて、”あとで召し上がってみてください” と言って差し上げています。

なぜ食べて欲しいのか・・・・

何を思って作っているのか・・・・

このパンの魅力は何なのか・・・・

そんな作り手の思いを、焼き立てのパンを通して、お客様に直接伝える事が出来る・・・・

それが、焼き立てパン屋の最大の武器なのだと私は思うのです。

チラシをまいたり、値引きをしたり、金券や割引券を配ることよりも、一見面倒なように思うかもしれませんが、一日に何度もお客様と会話をしたり、試食を勧める事の方が、どれだけ情報収集にもなり、商品のアピールにもなり、固定客作りが出来る事か。

大手にも、大人気店にも出来ない事だと思いませんか?

地域に根差したお店になるというのは、そういうことではないかと考えています。

さて、提供の仕方は解ったとして、どのようにして無理なく焼き回数を増やすことができるか・・・・

次回、商品別に製法などを考えていきたいと思います。


売上が下がってきたなと感じたら、まずはここを見直そう

そこそこの人気店にお邪魔すると、残念ながらそうではないお店との、大きな違いというものを感じます。

それはまず、人気店には常にお客さまがたくさんいて、賑やかである事。

当たり前の事を言っているようですが、店舗内にたくさんのお客様がいる・・・・と言うだけで、それはそれは賑やかになりますし、様々な会話は飛び交いますし、躍動感ある雰囲気を出してくれるものです。

いかなる商売であれ、この姿は最良の喜びであり、モチベーションも上がりますよね。

ところが相反して今一のお店と言うのは、お客様がいない時間帯が多く、あれれ???という雰囲気を出してしまう事になります。

人は、例えば同じようなお店が2件、目の前にあるような場合、一方に行列ができているとしたら、どうしてもそちらを選びたくなる習性と言うものがあります。

もちろんそれは、そのお店を以前から知っていれば選択は変わってくるかもしれませんが、初めてだとしたら、間違いなく行列の方を選ぶでしょうし、そうしないと何か心配になってきますよね。

駐車場に一台も車が無いラーメン屋さんには入りづらいですし、飲食店に限らず、例えば歯医者さんなども、駐車場がいっぱいだと何となく腕が良いのかな?と思ってしまうものです。

いつでもお客様がいっぱいのお店と言うのは、それだけで通行人に与えるイメージが違ってきますし、なにがそんなに凄いのか一度行ってみたい、そして確かめてみたいと言う気持ちになりますよね。

ご近所の方の印象も、あのお店はいつで流行っているから、きっと美味しいに違いない・・・・

そんなイメージを持って、知り合いに勧めたり、友人に教えたりしていると思います。

自分は一度も行っていなくても、お客様がたくさんいるお店=お勧め出来るお店だと判断してしまうのだと思います。

それほどに、店内が客で賑わうと言う事の魅力と言うのは、計りしれないほどの戦略的演出になり、買う側に安心感を与え、地域の人々の購買意欲をかき立てる役割を果たしていると言えるのです。

オープン当初というのは、ほぼすべてのお店に多くのお客様が来店すると思います。

しかしそれが5年10年と経つうちに、どう言う訳か大きく減ってしまうのが現実だと言えます。

そのままの勢いを保ち続けているお店というのは、むしろまれで、実に素晴らしい運営をされていると思いますし、ロケーションに助けられている場合もあるでしょう。

いずれにしても、継続年数に比例して、売上が下がっていくお店の方が圧倒的に多いのは事実であると思うのです。

今回は、そんな現実的に数十年の店舗運営の末、非常に売上が下がってしまっているお店をターゲットとして、これから何を行っていけば、多くのお客様が戻って来てくれるのか?

そんな大それたことをテーマに、色々と考えていきたいと思います。

この大それたテーマを考えるにあたり、はじめに言っておきたい事があります。

それは、起死回生の一発と言うようなものを期待してはいけないと言う事です。

私は常々、商売とはギャンブルの様なものであると考えています。

であるならば、奇跡の大勝ちもあるのではないか? そう思ってもおかしくありませんよね。

確かに奇跡のような話も、大勝ちもあるにはあります。

しかし所詮長続きはしないのです。

数年経つと、結果としては以前よりも更に業績が悪化していた・・・なんてことになるものなのです。

ですから、美味しい話もなければ、楽してお客様が来るようになる秘策のようなものは絶対にないのだと申し上げたいのです。

もっともらしい方策や、データや専門用語がぎっしりの専門家が作る改善策も、行うのは私達自身です。

今まで出来なかった事が、いきなり出来るようになる訳ではないのです。

つまり、自分に出来るような方策でなければ、どんなに偉い方の講習を受けても、有名店のシェフの話を聞いても、所詮絵に描いた餅で終わってしまうのです。

私が紹介する程度の改善策などと言うものは、技術が必要な訳でもなく、お金がかかるようなものでもありません。

しかしそれでも、実際に実行して下さる方は非常に少ない・・・・

私はそれが何故なのかを、常に考えるようにしているのですが、結局はやる気が湧かないとか、別の事を自分なりに考えてみます・・・と言う方々が多い事に気がつくのでした。

言うは易く、行うは難しで、万の方策を持っていても、実行しなければ何の意味もないのです。

しっかりと目的を決め、着実に実行している人には、必ずと言っていいほど成果が付いてきています。

それは、方策が素晴らしいからではないのです。

その方策を求めていた頃の自分の新鮮な気持ち、そして今現在の現実を作ってしまった自分への反省、それらを真摯に受け止め、堅実に何かを進めようとしている姿に、知恵というものは宿るのではないでしょうか。

所詮、他人の意見や情報から得る事が出来るものなど、大した事ではなく、どこにでもあるような事が多いものです。

私達はそこになにを求めるべきなのか?

それは、きっかけだけだと思うのです。

そのきっかけを足硬めとして、とにかく今まで出来なかった事、そして本当はやらなければならなかった事、そんな解ってはいたけれども、出来ないできた自分を打破する為のきっかけを、もらえれば良いのではないでしょうか。

売上が下がってしまったお店と言うのは、ならば忙しいお店に比べて暇なのか?時間に余裕があるのかといいますと、けしてそうではないでしょう。

売上低下に伴い、従業員の数が減り、一人でやらなければならない事は、逆に増えているはずなのです。

そんなお店が行える方策というのは、企業や有名店が行っているような、お金をかけた販売戦略ではないのです。

今は、空前の焼き立てパンブームでもあります。

店舗に工房を併設しているお店だからこそできる、最大の武器が焼き立てです。

この武器を、何故か使えずにいるお店は多いのではないですか?

旧態依然の考え方を打破し、既成概念にとらわれないアイデアと製法を駆使して、今までの3倍焼き回数を増やす事が出来るようになれば、確実に焼き立てに出逢えるチャンスが増えるのです。

上記の意見に加えて、もう一つ言っておきたい事があります。

それは、そのパンだけで商売が成り立つほどに美味しい、絶対的なパン・・・・

そんなものは存在しないと言う事を知ってほしいのです。

食べものと言うものは、地域や文化によってもそれぞれあり、年代や環境によっても大きく好みが分かれるものなのです。

ですから、お店が繁盛して行く為には、店舗全体の魅力である総合力を高める事、それ以外には無いのです。

小規模経営と言う記事を書いてから、何かと圧倒的に美味しいと言えるようなパンを教えて欲しいというメールが来るようになりました。

しかしあえて言わせていただきますが、それはどこかにあるというものではないのです。

お住まいの地域やターゲット、そして自分の技術力や設備、それらを総合して考えながら、作り上げていくものなのです。

この街で売れている商品が、隣町に行くとあまり売れないとか、同じ町であっても、同じコンビニであっても、売れ筋は違うということを感じた事はありませんか。

だからこそ、自分の店の自分だけのパンが完成するのであり、それが地域に根差す事が出来れば、成功の一端を見る事が出来るのだと思うのです。

次回より、具体的な方策を考えていきますが、それをどう受け止めるかによって、またどのように実行して行くかによって、成果は大きく変わってくるのだと言う事を、どうか知って頂きたいと思います。

あなたのきっかけになる事を祈りながら、精一杯考えていくつもりです。


油脂投入のタイミングで、何が変わるのか・・・・

パン生地をこねる際に、油脂をどの段階で入れるかという事に関しては、パンを作るのが仕事の人も、趣味で作られる人も、特に疑う事もなくミキシングの中盤に入れている事と思います。

それは、レシピに低速何分中速何分、油脂を入れて何分・・・・というように書かれているからであり、それがなぜそうなのか?と言うところまでは別に考えて作ってはいないと思うのです。

しかし現実には、油脂をどの段階で入れるべきかという点には、若干の意見の違いがパン職人の間にもあるのです。

それは、具体的に言うと、初めから投入しても構わないと言う人、中盤で入れるべきだと言う人、そして、生地が出来上がる寸前で投入すべきだと言う人に分かれるのです。

もちろんこの事により、ある程度生地の完成度合いが違ってくるという事は、パン職人であれば承知しているはずです。

それを承知したうえで、自分はこのようにしているし、そうするように指導している・・・・と言う方は多いと思います。

しかし、なぜそうするのかを理解しないまま年月が経過したパン職人が、次の職場に行ったら、まったく今までと違っていて困惑してしまった・・・・という話も実に多いのです。

そうすると、良いも悪いもなく現状のやり方に従う以外に無い訳ですから、尚更訳が解らなくなってしまうようです。

職人によって、様々なやり方があるのは至極当然の事だから、その点は逆らわずに従わざるを得ないという話をよく聞くのですが、理解することをせずに、言われたからやるというスタンスは、正直いかがなものだろうと思うのです。

油脂をどの段階で入れるかによって、完成品はどう変わっていくのかということは、実は製パンにとってはかなり重要な事だと思われます。

あからさまに完成度が違ってくる訳ではない・・・と言う配合も勿論ある訳ですが、逆に言うと相当違うものになってしまう事も実はあるのです。

今回は、そのあたりについて、少し説明しておきたいと思います。

油脂と言うのは油分ですから、当然ミキシングの際に生地のグルテン形成に影響を及ぼします。

具体的には、ミキシング中は摩擦などによって、小麦粉中のたん白が押されたり、伸ばされたり、叩きつけられたりすることで、より強い風船ゴムを作っている訳ですが、そこに油分が入れられることにより、お互いがツルツル滑ってしまい、風船作りの邪魔になってしまいます。

と言う事は、ミキシングの初めの段階からこれらの油脂分が投入されてしまうと、グルテンの形成に時間がかかることになり、油脂量が多い場合などは、その量と比例してミキサーの中の生地は滑り続け、なかなか生地が完成してこないという状況になります。

そのように考えると、油脂を初めの段階から入れるという行為は、そもそもミキシングの意味を台無しにしてしまう行為であるとも考えられます。

しかしそれが明らかにミキシングを阻害してしまうと感じられるには、約8%以上の配合の場合であり、それ以下であれば、ややミキシングに時間がかかってしまうという程度でしかないかもしれません。

では、相反して、ミキシングの最終段階、つまりほとんどのミキシングが終了した頃に油脂を投入するという場合はどうでしょう。

この場合、ミキシングそのものにとっては、油脂を入れると言う行為は少なからず捏ねる事を阻害する訳ですから、油脂投入のタイミングは、遅ければ遅いほど生地の完成は早くなるはずですし、グルテン形成についても、最良の形で行われることになると思います。

であるならば、なぜほとんどのレシピには、油脂が中盤で入るようになっているのでしょうか?

それは、一つ考えられる事は、特に油脂量が多い時には顕著だと思われますが、油脂を最終段階で入れると言う事は、その後に生地にきちんと入りこむのに時間がかかる場合がある事、もしくは、きちんと混ざらずに油脂が残ってしまう場合があり得るということが考えられるのではないでしょうか。

また一方では、グルテン形成が非常に強固に完成してしまっている生地というのは、非常に弾力があり、そこに油分である油脂を混ぜ込むと言う場合には、弾かれてしまって、なかなか油脂が混ざり合ってくれないという事も起こり得るでしょう。

そうなると、むしろ余計にミキシングの時間がかかることになり、本末転倒となる可能性が大きくなります。

また、別の考え方としては、せっかくグルテン形成が最良の状態に仕上がった生地を、その後に低速で長時間捏ねると言う行為が、はたして生地にとって良い事なのかどうかという問題があります。

これは、例えて考えるならば、ミキシングを終了した生地を、その後に数分間に渡っていじくり回している行為と同じだと考えられはしないでしょうか?

すると、結果としてはどうなるかと考えてみますと、せっかく弾力がMAX状態で、張りがあった生地で、しかも風船の数と質も程良い状態の生地なのに、それをいじくり回していくということは、まるでプチプチを潰していくが如く、生地にダメージを与え、張りもコシも台無しにしてしまっている可能性があると言う事になります。

これでは、総合的に考えると、とてもよいミキシングであるとは判断しがたい結果になってしまいますよね。

そのようなことから、油脂を生地中に出来る限り効率よく浸透させる為には、ある程度はグルテン形成を行った後の、しかし混ざりやすい状態で投入できるタイミングは、と言う事で考えだされた答えが、中盤くらいで投入するのが良いのではないかと言う事なのではないでしょうか。

そのように考えていくと、油脂をミキシングの前半・あるいは後半に入れる行為は、不適切なだけだと考えられてしまいがちですが、パン生地と言うものは、そこに個性を持たせるという考え方もできる所が面白いところなのです。

つまり、それらの利点と欠点を知った上で、あえて戦略的に行おうと言う考え方があるのです。

そのあたりを少し説明しておきましょう。

ミキシングにおいて、グルテン形成を行うという目的だけを考えた場合、確かに油脂は邪魔なだけの存在であると言えます。

しかし、パンの香りを向上させ、しっとり感やソフト感を得たいからこそ油脂は必要不可欠なのであり、むしろ油脂なしの生地の方が少ないのが現状のはずです。

そして、同じ油脂を入れるパンであっても、その全てがしっとりソフトである必要もないのです。

より油脂らしさを強調させたり、食味をコントロールするというのも、油脂の大きな役割だと言えるのです。

油脂を初めの段階から投入した生地と言うのは、上記の説明の通りグルテン形成が遅くなります。

つまり、お互いが滑ってしまってうまく風船が作れないと言う事になるのですが、そのようにして完成した生地と言うのは、油脂分が風船の中に完全には浸透しきれていません。

つまり、悪く言えば混ざりが悪い状態であり、良く言えば油脂分が表面に出てきている事で非常に強調されている状態であると言えます。

このような状態の生地と言うのは、常に表皮を油脂で覆われている為に、分割成形などの摩擦に強く、形が整いやすくなります。

そして、焼成したパンの食感は内層がソフトで、クラストはもろく、歯切れのよいパンになります。

この現象は、油脂を溶かして入れた場合の状態に似ており、液状の油を投入した場合にも同じような効果になります。

解りやすく言うと、歯切れが良く、弾力が出過ぎないおとなしい食べ口の、油脂の香りが前面に出たパンになるということです。

その効果を利用して、あえて香りの強い油脂を選択し、食味を改善するというのも一つの手段になると思うのです。

また、溶かした油脂をあえて後半に投入することで、少ない油脂量でも風味を最大限に発揮させることも出来ます。

この場合、量が多いとどうしても分離が付きまとう事になりますから、注意は必要です。

以上のように考えていきますと、基本はあくまで中盤で油脂を混ぜる事が、一般的かつ合理的だとは言えるものの、それを逆手にとって個性として生かすと言うのも、製パンとしてはありなのだと言えるのではないでしょうか。

要は、それぞれの意味合いを理解し、目的と手法が噛み合っているのかどうか、もしかしたらもっと個性を出せる投入法があるのではないか、そのあたりを見極めていく事が大切なのであり、何よりもまず、何度も何度も自分のパンを食べる事だと思います。

パン生地中の風船の質とか量というものは、どの小麦粉を使うかによっても大きく変わってきますよね。

同じように、油脂も生地に混ざり易いものもあれば、なかなか混ざらないものもあります。

どんな油脂を使い、どのタイミングで投入するかというのも、その時点から個性づくりが始まる事になります。

ちなみに、油脂の量が多い場合は、初めの段階で少しだけ投入しておき、残りは中盤で入れた方が、全体的には早く混ざります。

このように、何度かに分けて投入するということも可能なのですね。

ある程度油脂が初めから入る事によって、風船がより滑らかになるという考え方もあります。

様々な科学がそこにはある訳ですが、その結果がどうであるかと言う事に関しては、科学よりも自分の好みや判断が優先されるのが、製パンであると言えるのかもしれませんね。


バターとマーガリン、似ているようでも随分違う・・・・

さて今回は、固形油脂の代表であるバター・マーガリン・ショートニングの、それぞれの特徴を、やや詳しく見ていきたいと思います。

まずは、誰でもが知る油脂の王様バター。

バターに関して皆さまが一番良く知っている事と言えば、無塩と有塩があること、そして生産地または原産地によって品質が違ってくる事ではないでしょうか。

バターは動物性脂肪、つまり牛の乳から作られていますので、当然どのような餌を食べ、どのように育てられたのかによって、その乳の品質に違いが出るであろうと言う事は想像がつくはずです。

とはいえ、私達が日頃良く使ったり、食べたりしているバターというのは、ほぼ大手油脂メーカーの物が多いと思いますので、その違いに気がつくと言う事はあまりないかもしれません。

人間社会も、国が違えば風習も言葉も生活環境も全く違うのと同様に、牛の乳にも国ごとの特徴があるようです。

しかし、私達がバターを使ったり食べたりする場合には、メーカーは気にしますが、その生産地、つまりどこの牛から取れたバターなのかと言う事までは、あまり考えないと思います。

その事は、現在の私達の食生活の実態を、かいま見れる状況であるとも言えるのではないでしょうか。

そういう意味では、特にパン屋さんでは、毎日相当量の油脂を使ってパンを作っている訳ですが、あまり油脂そのものについて、どう作られているのか、原料は何なのか、そのような事を考える余裕というか、機会が少ないのは残念なことですよね。

まあしかし、今となってはいったいいつ頃からこんなに種類が増えたのか、それぞれの専門分野で、それぞれが良く言えば分担で、悪く言えば任せっきりのような状況で、もの作りが行われているというこの現状が、はたして食品製造の本来の姿なのかどうかは、私達が考えなければいけない問題なのかもしれませんよね。

おっと脱線だ!修正修正・・・・バターの特徴と言えば、何といっても天然の乳フレーバーでしょう。

相反してマーガリンは香料を使って香りを着けている訳ですが、何とかこのバターのような天然フレーバーに近づけようと必死に取り組んでいる訳です。

それでもなかなか追いつけないと言うほどの素晴らしいフレーバーがバターにはあるのです。

ですので、パンの味を良くしたい、風味を良くしたいと思えば、バターを使っておけば間違いないと言えるのです。

しかし、味や風味が抜群に良いとはいえ、若干の欠点もあります。

それゆえに、製パン性を重視する配合の場合は、バターではちょっと作りづらいと言う事になるのかもしれません。

また、当然ながら価格面の問題も大きいでしょう。

更に、あくまで自然の物ですので、時には物不足で手に入らない、なんてことも起こります。

実際パン屋さんでは、バターが無くて困ると言う状況が、ここ数年続いているのです。

そんな品不足の状況の時だけ、マーガリンに代替えするということは、パンの味そのものがコロコロ変わってしまう事にもなる訳ですから、バターの使用に関しては、慎重にならざるを得ないというのも現実問題でしょう。

さて、味と風味では圧倒的有利なバターですが、製パン性という点ではどういう評価になるでしょうか。

一番多い意見で言うと、使いづらいという意見は多いと思います。

それはなぜかと言いますと、バターは真夏には溶けだし、真冬にはカチカチで、ミキシングに困るという点だと思います。

パンに限らず、お菓子作りの際にはもっと使いづらさを実感できると思います。

この、すぐに溶けるし、すぐに硬まるというのはなぜなのかと言いますと、バターが丁度良い柔らかさを保っていられる温度帯というのが、だいたい13℃~18℃までと非常に狭いからなのです。

この温度帯よりも低くなると、すぐに硬まってきますし、この温度帯を越えてしまうと、すぐに柔らかくなってくるのです。

18℃と言えば、私達にとっては、とても過ごしやすい温度ですよね。

しかしそれを越えると、柔らかくなるどころか、どんどん表面が溶けだしてきます。

夏場などは、手で少し長く持っていただけで、指から体温が伝わり、すぐに溶けてベトベトになりますよね。

そしてそれは、生地に練り込む前の状態に限った事ではありません。

パンとして焼きあげた後でも、バターの配合量によっては、夏場はパンが異常に柔らかくなったり、陽にあたると表面がベターっとしてきたり、逆に冬場ではパンがすぐに硬くなってしまいます。

このように、ミキシング時に使いづらいという面と、焼いた後のパンの保存状態にも影響を与えるという難点があるのです。

ただし、この事を逆に考えると、バターと言うのは、そのまま食べても、パンにしても、口溶けは良いということになります。

利点と欠点を理解したうえで、どのパンに使うかを決めてほしいものです。

それ以外でパンへの向き不向きを考えるとすれば、乳フレーバーが邪魔になるか、あるいはバッティングしてしまうような食材を配合する場合でしょうか。

例えば、小麦の風味を最大限に生かしたいと言う時に、乳フレーバーはどうなのか?であるとか、野菜や果物などをジュースにして、水の代わりに生地を作った場合などに、乳フレーバーはどうなのか?と言うような具合に、考えていけばよいのではないでしょうか。

では次にマーガリンを見ていきましょう。

バターが牛の乳であったのとは大きく違い、マーガリンは、解りやすく言えばサラダ油です。

それを、製パンに適した状態、つまりバターのような状態の塊にし、尚且つ同じような香りを付けたサラダ油なのです。

ならば、さぞかしヘルシーなのでしょう・・・・と言いたいところですが、あながちそうとばかりは言えないのです。

なぜなら、バターと言うのはあくまで牛の乳だけで作られた純粋な油脂であるのに対して、マーガリンと言うのは、形状こそバターのようになっていますが、その原料は多品種に及んでいるからなのです。

つまり、単一の植物から作られるマーガリンはほとんどなく、様々な植物、あるいは動物の脂も使われているのです。

ですので、これだけは押さえておいていただきたいのは、マーガリンには考えられないような安価なものが存在していると言う点です。

しかしそれらの正体は、ほとんどが魚や豚です。

つまり、魚油とラードがほとんどで、そうなるととても香りが悪く、しかも品質が安定しない為に、多くの香料と乳化剤でごまかすことになる訳です。

この点、食品添加物が多い事での安心安全はどうなのか、という観点はさておき、確実にパンの品質劣化を招くことになるのです。

ですから、バターが高騰すればするほど、このようなマーガリンが出回るのだと言う事だけは覚えておいてください。

原価を下げたい、少しでもお手頃な価格で提供したい、そんな思いから安易に安い油脂に手を出すと、パンの味は最悪なものになってしまうでしょう。

それでは、質の良いマーガリンの特徴を見ていきましょう。

マーガリンの特徴の一つとしては、香りを選べるという利点が大きいでしょう。

乳フレーバーだけをこよなく愛する人には大きなお世話だとは思いますが、マーガリンには、実に様々な香料が使われているのです。

ですので、ご自分の作るパンにあった香りを選択できるという利点がありますし、それはある意味、そのパンの個性として、オリジナリティーを出すことにも貢献するのです。

次に、バターと大きく違う点として、使いやすいということが言えると思います。

なぜかと言いますと、実際に使われている方はすでに体感済みだとは思いますが、マーガリンは真冬でも硬くなり過ぎず、真夏でも溶けにくいからです。

これは、バターの時に適度な柔らかさを保てる温度帯が13℃~18℃であったのに対して、マーガリンでは大体10℃~30℃に設定されているからです。

と言う事は、バターよりも低い温度でも柔らかい状態を保つ事が出来、高い温度でも溶けないと言う事になる訳です。

これは、実際に毎日使う側にとってはとても重要なことですよね。

さらにもっと助かるのは、夏場は更に溶けにくく、冬場は更に低温でも硬くならないように、季節に合わせて調整されているという点なのです。

なぜそのような事が出来るのかと言いますと、そもそも塊にするという時点から、調整されているということの証ですので、作り方の時点で溶けたり硬くなったりする温度帯を、季節に合わせて調整することができるのが、マーガリンの特性でもあるのです。

また、バターと同様、焼き上がったパンに対してもマーガリンの効果はある訳ですが、それはバターのように温度に敏感ではなく、ある程度緩慢であることから、パンの保存にそれほど神経を使う必要はなくなるでしょう。

また、マーガリンには乳化剤が配合されている事が多い為、イメージとしては良くはないかもしれませんが、パンのソフト感を維持させることに大きく貢献すると思います。

もちろんそれは、配合量が多くなればなるほど、ソフトなパンになるということになるのです。

と言う事で、マーガリンを使う際のポイントは、香りが完成品のイメージに合っているか?素材の香りを邪魔してはいないか?ソフト感やしっとり感を求めたパンであるか?というようなことを考慮してお使いいただけたらと思います。

実に多くの種類と、用途に合わせて調整されたものが多いマーガリンですが、高価なものになると、バターと大して値段の変わらないものもあります。

それは、コンパウンドタイプのマーガリンと言うもので、様々な植物油のほかに、バターが加えられているものがあります。

その際、バターの含有量が多ければ多いほど、当然価格も高くなる訳ですが、バターの美味しさはどうしてもはずせない・・・しかし使いづらいのは困る・・・そうお考えの方は、両方の良さを兼ね備えたコンパウンドマーガリンを使うのが良いと思います。

バターにも、発酵バターと言うものがあり、乳酸菌を主体としたもので、フレーバーを通常とは別の香りにしたものがありますが、全体的にはそれほど多い種類は存在しません。

しかしマーガリンは、植物油の配合量やバターの配合量、そして融点や可塑性(粘土のように、押しても戻ってこないが、溶けたりもしないという丁度良い状態を保つ性質)の調整、さらには香料の違いによって、まさに数え切れないほどの種類が存在しています。

そんな中で、ご自分の好みを探すのは大変なことではありますが、原価の許す限り高品質のマーガリンを使われる事をお勧めいたします。

では最後にショートニングですが、このショートニングという油脂は、色が白いという事と、どうやら香りが無いということぐらいしか知られてはいないのではないでしょうか?

と言う割には、意外と種類が多いのにも驚きます。

香りが無く、味もない。同じように植物由来のマーガリンは、トーストしたパンに塗っても美味しくいただけます。

つまり、パン生地に練り込む事によって効果を発揮するだけではなく、生食しても美味しい油脂だと言えますよね。

なのに、生い立ちは同じなのにショートニングは生食は出来ません。

それはなぜなのでしょうか?

それは、そもそもショートニングの役割と言うのは、バターやマーガリンとは違い、生食して単体の美味しさを出す為なのではなく、食品に添加されることによって、その効果を発揮するという役割があるからなのです。

パンの製造現場で言うならば、硬過ぎず柔らか過ぎず、扱いやすく、固形油脂としての効果を最大限に得る事が出来ると言えるでしょう。

ただし、風味や味に貢献する事はありません。

このように、油脂としての効果は欲しいが、余計なフレーバーはいらないというような場合には、ショートニングは欠かせないでしょう。

そして何よりうれしいのは、味や風味を付けない代わりに、バターやマーガリンよりは価格が安く設定されていると言うところです。

がしかし、ショートニングも基本的にはマーガリンと作られ方は同じですので、安いものになればなるほど、魚油や豚脂が多く配合されます。

見た目はほとんどが同じように白いショートニングでは、その品質は非常に見分けずらいという難点がありますが、パンにして食べてみると、その違いはすぐにわかるはずです。

もともと、ショートニングと言うのはラード(豚脂)の代用品としてこの世に誕生しました。

私がパン屋になりたての頃は、ラードも意外と多く使われていたのですが、ラードは品質が劣化しやすく、ザラザラと舌に残ると言う事で、ラードに代わる固形油脂が開発されたのです。

それは、バターやマーガリンとは用途が違い、あるものは製パン用として重要な役割である、ショートニング性、クリーミング性、可塑性などを重視して作られ、あるものはフライ用として、何度もの温度変化にも耐えるように作られ、あるものは製菓用としてふんわりしっとりとしたケーキが作れるように気胞性を重視して作られたりしています。

このように、ショートニングというのは、食品製造を陰で支える大きな役割をになっているのです。

それはもはや製パン製菓以外の分野でも同じ事です。

パン屋さんがショートニングを選ぶときのポイントがあるとすれば、油脂としての効果は最大限生かしたいが、フレーバーは必要ないという場面だと思います。

また、価格が比較的安いことから、バターと併用して使うと言うのも選択肢の一つだと思います。

ショートニングがバターやマーガリンと大きく違う点は他にもあります。

その一つは、ショートニングは常温保存がきくと言う所でしょう。

それでいて常温でも品質の劣化が起こらないというのが大きな特徴だと思います。

また、バターやマーガリンには約15%の水分がありますが、ショートニングには水分が全くありません。

そのお陰で腐りにくく、純粋な油としてパン生地に入りこむ事が出来るのです。

単に製パン性というものを重要視する場合、ショートニングで作られた生地は、とても扱いやすく、パンの完成度も上がる事でしょう。

味重視なのか、香り重視なのか、個性を出したいのか、製パン性にこだわるのか・・・・どうかそれぞれの油脂の特性を生かして、より美味しいパンを作り上げて頂きたいと思います。


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