ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

冷蔵生地をもっとよく知ろう

多くいただく質問の中には、ホームベーキングとパン屋さんとでは全く違う内容のものがよくあります。

それは、家庭でパンを作る場合には、ほぼその全てを当日中に行うことが多いのに対して、パン屋さんでは生地を一旦冷蔵して翌日に作業を行うことが非常に多いという点です。

その手法を冷蔵法と呼ぶのかどうかは別として、生地そのもの、あるいは生地を分割した状態で一旦冷蔵庫へ保存し、翌日成形から行うという製パン法を行っているパン屋さんというのはとても多いことに気が付きました。

そう言われてみれば、伺わせていただくパン屋さんもほとんどがそうですし、パン屋さんからの質問の内容もほぼ冷蔵が絡んでいました。

ではなぜパン屋さんでは生地を一旦冷蔵するのでしょうか?

そのように逆に質問してみると、返ってくる返答は皆さんほぼ同じで、

朝仕込から行っていると開店に間に合わないから・・・・・

という事でした。

前日の午後は生地を仕込んで分割し、翌日に成形から行うことで時間短縮を図っている訳ですね。

考えてみれば、今時のパン屋さんで全てを当日の朝から行っているというほうがむしろ少ないのかもしれませんね。

他店との差別化を図るために、早朝からお店を開店させている方もおおくいらっしゃいますし、そうでなくても少しでも出勤時間を遅らせたいという工夫の現れでもあると思います。

低温発酵させた生地による風味の改善などにも貢献するという意味もあることから、皆さん冷蔵法を取り入れているのであろう・・・・・

そう思いながら質問されてくる方々とやり取りを行っていると、以外にもそうではないことが解ってきたりします。

それは、冷蔵された生地の特性というものをほとんど理解していないで行っている方が多いという事実なのでした。

つまり、ただ単に朝からミキサーを回している時間がないから前日に行っているのであって、冷蔵することでなぜパンが美味しくなるのかということには全く興味が無い、あるいは全く冷蔵生地の知識がないという方が意外と多いのでした。

パン生地というのは、確かに冷蔵することで発酵時間をコントロールすることはできます。

しかし、なぜそうなるのかを知らずに行っていると、結果としてとてもおかしなパンが完成することにもなるのです。

質問してくる方の殆どは現役のパン屋さんなのですが、日々不安定なパンが完成してしまう事に冷蔵が絡んでいることに気が付かないでいる方があまりにも多いのでした。

そしてさらに恐るべき冷蔵の実態を知ることになるのでした・・・・・

それは、冷蔵設備といってもそんなに大型の冷蔵庫を完備しているパン屋さんなどある訳もなく、しかし現実には詰め込めるだけ詰め込んでいるというお店が多い事への驚きでした。

忙しいお店では、冷蔵用天板にこれでもかというほど生地がたくさん詰め込まれており、丸めた境目すら見当たらないほど膨らんでしまっている事が多く、逆にあまりお忙しくないようなお店ではまったく生地が冷蔵発酵していない状況でした。

冷蔵された生地が一体どうなっているのが正しくて、どうなっているとおかしなパンになってしまうのか????

その辺りについて今回は詳しく説明しておきたいと思います。

まず、基本的には生地を分割して丸めてから冷蔵天板にのせ、袋で閉じて冷蔵庫へ・・・・・というのが冷蔵生地であることはご理解いただけると思います。

しかしです。

現実にはこれから冷蔵発酵させるのだからということで、捏ね上げ後にまったく発酵を取らずに分割を行っている方がいます。

そうなりますと、イーストが元気に活動する以前に冷えていってしまいますので、冷蔵発酵というよりは捏上温度が異常に低い生地・・・・・ということになってしまうのです。

ですので、冷蔵中も終始イーストは元気がなく、いざ成形して・・・・・という時にも未だに発酵不十分な状態で進行していきますし、完成するパンそのものもボリュームがなく、焼色が強く、イースト臭の残る最悪のパンとなる訳です。

また真逆で、捏上温度が異常に高いにも関わらず、しっかりと発酵時間を取った後に分割丸めを行っているお店があります。

こうなりますと、先程も書きましたが全てが一体化してしまうほどふくらんだ状態になっている・・・・・・なんてことになる訳です。

生地を冷蔵して翌日まで元気な状態を保ちたいと考えるならば、もう少しイーストの働きというものに注視しなければなりません。

まったく活動していないうちに冷蔵したり、爆発的に元気になってしまっているような状態で冷蔵しても、すぐにはイーストは元気に活動してくれませんし、元気すぎる発酵もすぐには止まらないからですね。

ストレートで作る、つまり当日仕込から行う通常の製パンでも捏上温度というのはとても大切なはずですし、その温度によって発酵時間をコントロールしたり、生地の取り扱いに気をつけたりしているものと思います。

それが冷蔵するとなると、尚更捏上温度や分割時間を見極める必要がある訳です。

温度も丁度良し、分割時間も丁度良しの場合にのみ、次の日にしっかりと冷蔵発酵された生地になるということですね。

捏上温度が低い場合には、当然分割までの時間を少し長めに調整してから冷蔵しなくてはなりませんし、捏上温度が高くなってしまった場合には、早めに分割を行う、あるいは低い温度帯の場所で発酵を取るなどの対策が当然必要となります。

分割時に生地が元気ですと、その後もすんなりとは冷えていってくれないものです。

ですので、設備が許すのであればあまり沢山の生地を詰め込まないことが望ましいのですが、そうはいかないという場合には、せめて一度冷凍庫などで生地を締めて発酵を止めてから、再び冷蔵するなどの工夫を行って頂きたいと思います。

次に、いざ当日に生地の状態がどうなっているかによって、取り扱い方法を変えて欲しいというお話をしておきましょう。

まず、生地がお互いに膨らんでしまってかなり大きくなっているような場合、この場合は通常行わなければならない復温(生地の温度を16℃以上に戻すこと)をあえて行わないで欲しいのです。

冷蔵庫内であっても、生地はおしくらまんじゅうのごとく隣同士が押し合いへし合いしてかなりクタクタになっています。

このクタクタというのは、見た目には元気いっぱいの生地なのですが、実際には発酵力そのものは衰えてしまっている状態のことを指しています。

ですので、ここでまた復温をおこなってしまうことで、更に発酵力を使い果たしてしまい、オーブンでは伸びきることができなくなってしまいますので、復温はせずに冷たいまま成形に入って欲しいのです。

ただしです。

パン屋さんによっては、冷蔵する生地だからということで沢山の改良剤などを添加されている場合があります。

その場合には、イーストの働きということよりも、生地そのもののグルテンが敗れてしまうほど膨らんでいるはずですから、復温をしないことは勿論のこと、生地の取り扱いには十分きをつけながら、優しく優しく行う必要があります。

間違ってももう一度丸め直してしまうとか、折りたたんでしまうなどはやめて欲しいと思います。

冷蔵庫にて過発酵となった生地というのは、その後もかなりの勢いで膨らんではきますが、すっかり糖分を失っていて焼色はほぼつかないはずです。

いつまでたってもなかなか焼けないな~・・・・みたいな感じです。

また、どんなに丁寧に成形を行ったにしても、完成品は超立体的で、例えばバターロールのように巻いたような成形では、剥がれてかたつむりのようになったり、カレーパンなどは油の中で閉じ口が開いてしまい、カレーがジュワ~みたいな感じです。

逆に、あまり発酵をとらないで冷蔵してしまった、あるいは捏上温度が低い生地を冷蔵してしまったというような場合には、完成品はみな焼色が強く、皮が厚く、梨肌も出てくると思いますし、キメが粗く味としては最悪のパンとなるでしょう。

ただ、明らかに元気の無い生地だと思ったならば、一度丸め直すなどしてしっかりと復温を取ることで元気にはなりますが、過発酵してしまった冷蔵生地だけはどうにもなりません。

ですので、常に過発酵だけは気をつけながら管理することで、2日くらいは日持ちする生地にすることも可能となるでしょう。

生地を捏ねてから一定の発酵時間を取り、その後に分割して丸めて冷蔵用天板で冷蔵する・・・・・そうすることにより、イーストが適度に活動を始めてから徐々に冷蔵されて活動が緩やかになり、時間をかけながら発酵熟成が進んでいく・・・・次の日に冷蔵で冷えてしまっている生地の温度を16℃以上に戻している間に、再びイーストは目を覚まして元気を取り戻し、その後も良い発酵状態を維持し続ける・・・・・・その一連の冷蔵時間の中で熟成が進み、より良い風味や甘みが生まれる・・・・・これが正常な冷蔵発酵のプロセスなのです。

その間に、いわゆる ”過” や ”未” の状態に陥ってしまうと、冷蔵発酵としての良さは発揮できなくなってしまうのです。

また、同じ生地でも、多く入れすぎた場合やなかなか冷えないような場所に入れてしまった場合、更には分割に異常に時間がかかってしまった場合などなど、不安定要素は他にもたくさん存在していますし、そうなることで冷蔵天板の中央部分だけが膨らんでしまっていて、端の方はあまり膨らんでいないというような現象も多いはずです。

こうなりますと、同じグラムの生地であっても、完成品は違う大きさになりますし、焼色もバラバラになるでしょう。

不安定を無くすには、どうすれば全てが同じような状態で冷えてくれるかをしっかりと工夫する必要がある訳です。

また、数十キロの仕込数量なのにもかかわらず、一人で50g程度の分割丸めを行っている方が沢山います。

こうなりますと、もう物理的に最初と最後の発酵時間が全く違ってきますので、発酵状態及び冷蔵状態を同じに保つなどということは不可能となります。

数人で分割する、あるいは仕込キロ数そのものを減らして数回に分けるなどの工夫を行わないかぎり、どうしたって不安定は避けられません。

しかし皆様の話を伺っていると、どうしても人が足りなくてとか、一度に仕込まないと間に合わないので仕方がないという方々がいます。

それでいながらなんとかしたいという矛盾を抱えているようなのです。

このあたりはホームベーキングの方には理解できないような状況でしょうが、むしろパン屋さんの現実はこうなのです。

”理屈じゃね~んだよ” 

”そうしたいのは解っているけど、無理なんだよ~”


ですので最後に一言だけ言わせていただきます。

このようなパン屋さんが大きな組織であるならば、その程度の現場の苦悩を本部が解っていないようなら、将来はないでしょう。

組織に血が通っていないのです。

個人のパン屋さんであれば、オーナーもしくは工場長がその不安定に本気で向き合わなければ、競合店が喜ぶ結果となるでしょう。

いずれの場合も現場で働く人はとても不幸です。

誰でも良いパンを提供したいと思って働いているはずなのですから・・・・

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