ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

成形はマジックだ・・・・・

色々な質問を戴く中で、どうしても多い傾向にあるのが

なぜこうなってしまうのか?? というものです。 

それはそうですよね、みなさん日頃パンを作られていくなかで、中には書籍により、あるいはネットで検索してサイトを探し、あるいは地元のパン教室などに通ったりしながら、それぞれ得た情報を元に作っているはずですが、実際にはなかなか思うようにはいかない、サイトで紹介しているようには出来ない、教室では出来てもうちに帰るとだんだん問題が出てくる、そして色々と調べていく中でまたしてもどんどん解らなくなっていく・・・・

パン作りとはそういう意味では非常に難しいと感じてしまっている方も多いのではないでしょうか。

パン作りは本当に難しいのか???、それともなにかコツさえ掴めばそうでもないのか???

それはどこを目標においているかにもよりますし、作る量にもよる訳ですが、簡単に言えばこう言えると思うのです。

それは、「自分が納得した時点がゴール」 だという事です。 

そもそも、どんなに自信作でもご主人やお子さんが食べてはくれない・・・・では、結果納得はできないでしょうし、お店ではお客様がどんどん減っていくのに自信作だと言い切ることも出来ないでしょう。 

食べてくれる人の評価があって、はじめて満足できるかどうかが決まるわけですね。 

そう考えると、意外と自分勝手にただただ悩んでいる・・・・なんてこともあるのがパン作りだとも言えると思うのです。 

食べてくれる人の気持や好みを考えた上で作ってこそ評価に値するのであって、自分が挑戦したことへの満足感を押し付けるようなパン作りでは家族は喜びませんし、お店も繁盛しないと思うのです。 

そう考えますと、家庭であっても、お店であっても、何をどう作ることが食べる人の喜びにつながるのかを常に分析する柔軟さとセンスが必要なのではないかと感じています。

事実、私個人としましても、技術力を見せつけるような自信作が出来たとしても、それが評価され売れ筋になるということは経験したことがありません。 

むしろ、とりあえず作ってみた・・・

流行りを追ってみた・・・みたいなものの方が売れたりする事が多く、「要するにまだまだ押し付けなんだな」と反省することしばしばなのです。 

た・だ・しですよ、あくまで私個人の場合ですが、どんなに売れるパンが完成したとしても、自分がそのパンに美しさを感じない限りは商品化はしません。 それが例え売れそうなパンであったり、お客様の要望通りのパンであったとしても、作りたくないものは作らない、それだけが私の唯一のこだわりなのです。 

このこだわりは私の製パン人生においてプラスに働いているのか、それともマイナスに働いているのか・・・それは解りません。 

ただ、嫌なものは嫌だというだけで、そこには何の理屈も道理も存在していないというなんとも無責任な考え方なのですが、これだけは曲げられないのでした。 

そんな、売れ筋とか流行とかとは真逆に、己の満足を主体としたパン作りとも言える私の自己満パンの主体は、「とにかく美しいパンであるということ」になろうかと思います。 

人が何かを食べて美味しいと感じるのには、いろいろな要素があると思います。 それは ”香り”であったり、”盛り付けやデザイン” であったり、”喉越しや口溶け” であったり、時には食べ物よりもロケーションが優先されるなんてこともあるでしょう。 

事パンに関しては、意外とデザイン重視というよりも、価格や流行がメインになっているような気がしますが、いかなるパンを作るにしても、どうしてもそこに最高の美しさを求めてしまう自分がいるのです。  

パンの美しさといっても、何を持って美しいと感じるかは人それぞれだと思うのですが、私の場合は全体的なバランスと肌の美しさに重きをおきます。

バランスと言うのは、例えば生地と具の量がどうかとか、長さや高さがどうかというものですが、生地に余計な負荷がかかってボリュームが出過ぎてしまうとか、逆に生地の特性を活かしきれずにボリュームが出ていないとか、具の多さで生地の特性が活かされていないとか、単にかっこわるい形だなと感じるとか、クープの開き具合が今ひとつであるとか・・・・う~ん、やはり書いていながらすでにこの表現は難しいですね。 もう少し解りやすく表現するならば、丁度良い発酵具合と丁度良い力加減で成形された、ハリのあるパンとでも言ったほうが良いかな??

尚更わかりずらいかも・・・・^^;

とまあ、どうでもよい自分のこだわりはさておいて本題に戻りますと、パン生地それぞれによって、その生地に適した最適な成形を行ったかどうかで、全く違う顔を見せるのがパンなのです。

冒頭の ”なぜこうなってしまうのか” の答えは、「あなたがそうなるようにしてしまっているから」となり、解決策としては 「そうならないようにしてあげること」 にほかならないのです。

つまり、どこが悪かったかに気づいて修正すれば治るということですね。

成形という行為は、パン作りにおいて必ず必要な行為であるわけですが、皆様もご存知の大手のパンというのはほぼ機械で作られています。

その機械が何を手本として作られているかといいますと、それは人間の手にいかに近づけるかということなのです。

様々な食品が機械で作られていると思いますが、その中でもパン生地というのはとても難しく、未だに手でしか作れない成形というものがあるくらい、取扱が難しいのがパン生地なのです。

ですので、その取扱が難しいパン生地を成形するという行為をマスターすることが、すなわちパンの完成度を決めるもっとも重要なポイントとなるわけですね。

では、一体パン生地というのはどうして取扱が難しいのでしょうか??

パン生地あるあるを少し紹介しておきますと・・・

少しずつ膨らんでいくことにより、ベタベタしていた肌がやがては徐々に乾燥していく所。

プリプリとしていたのに、時間の経過により少しずつ緩んでくる所。

伸ばそうと思っても戻ってしまう所。

力を入れると切れ、入れないとガスが抜けない所。

手粉を使うと滑ってしまい、使わないと手にベタベタとくっつく所。

丸く伸ばすのが非常に困難な所。

かと言って四角く伸ばすのはほぼ不可能な所。

麺棒で伸ばしても同じ厚さにはならない所。

いかがでしょうか、確かに扱いづらいですよねパン生地というのは・・・・

しかし、だからこそ面白い、そして手作りの技が活かせるのもハンドメイドだからこその特権なのだと思えば、チャレンジしたくなるのもパン作りなのではないでしょうか。

ということで、このカテゴリでは、

”なぜこうなってしまうのか”

そして ”どうすれば治るのか” を、頂いた質問の中から成形という視点で見ていきたいと思います。

パンの成形には、大きく分けるとこのような手法が必要になります。

それは、”丸める” ”伸ばす” ”包む” になりますが、”丸める” は日頃どのようなパンを作るにしても、必ず行う手法ですよね。

そして、手であれ麺棒であれ、時には平たく、時には長く、”伸ばす” ことにより、様々な形に変化させることができ、何かを ”包む” ことでパンのバリエーションは無限に広がっていきます。

この他にも ”巻き込む” とか、 ”混ぜ込む” とか、 ”たたむ” などもありますが、いずれにしてもこれら一連の手法を生地にとって ”最適な” 方法で行えば、必ず美しいパンになることが約束されるのです。

さらに、成形というものを理解していく上で忘れてはならないとても重要なポイントがあります。

それは、”発酵状態を見極める” ということと、”手粉” の使い方をマスターするということです。

特に手粉の使い方と言うのはとても重要で、例えば手粉を一切使えなかったとしたらどうなるかと言いますと、少なくとも私には成形できるパンは存在しないことになりますし、完成品はそれはそれはひどいものになると思います。

成形が上手か下手かというのは、実は手粉の使い方が上手か下手かということに他ならないのです。

それくらい ”手粉” というのは重要なのです。

そんなことくらい知ってるよっ!!・・・・・と軽んじるなかれ、次回からケースバイケースで見ていきたいと思います。

最後に私はこう思っています。

成形はマジックだ・・・・・


なぜ成形が重要なのか・・・・

パンの成形に関しては、実に多くの質問を頂きます。


パンを作る上で、一番難しく、かつ一番難解な理論を秘めた技、それがすなわち成形です。

この成形を如何にスピーディーに、そしていかに美しく行うことが出来るか、それが製パン技術なのだと言っても過言ではないでしょう。

毎日のパン作りの現場において、常に厳しい目を向け、そして激を飛ばさずにはいられないのも、成形という作業にほかなりません。

多くいただく質問の中で多いフレーズなのが

どうしてこのようにムラになってしまうのでしょうか・・・・

どうして同じグラムなのに大きさがまちまちになってしまうのでしょうか・・・

どうして山が三つ揃わないのでしょうか・・・

どうして側面が切れてしまうのでしょうか・・・

どうして具が飛び出してしまうのでしょうか・・・

どうしてクープが割れないのでしょうか・・・

どうして艶が出ないのでしょうか・・・

というものですが、やはりパン作りにおいてはプロであろうとアマであろうと、常に疑問点が浮かび上がるのが成形の難解さだと言えますね。

成形に関しては、実際に見てもらって憶えていただくしか無い、文章では伝わらない、そんな思いがありながらも、しかし実際には直接逢うことは難しい訳で、ビデオに撮っていただいたものを見ながら解説するということが多いわけですが、これがパン作りの現場においては、なんとか綺麗に作れるようになった・・・ということだけでは済まないことが多々ありますよね。

どういう事かといいますと、いくら綺麗に作れるようになったと言っても、それが超時間がかかっていたのでは、何の役にも立たないという現実なのです。

「何の役にも立たない・・・とは言い過ぎなのでは・・・」そんな気持にもなりますが、実際には本当にそれでは役には立たないのです。

なぜなら、私達がパンを作って売るという行為には時間制限があるからなのです。

お店が開店するまでには、ある程度の品揃えをしなければならない・・・・

これがかりに、全60品目のパンアイテムがあるお店だとして、開店と同時に40品並んでいるお店と10品しか並んでいないお店があったとしたら、あなたは客としてどう思いますか?

どの時間帯に行ったとしても、ある程度の品揃えがないと、その時点で店格が見定められてしまうでしょう。

売れる時間帯、来客数が多い時間帯がどんどん狭くなっていくことにつながる行為と、とらえることもできます。

開店時間はまちまちですが、いずれにしてもそのタイミングに合わせて作業を急ぐ、それがパン屋の日常なのであり、より多くの品揃えをと思えば思うほど、作業時間は前倒しされてより早朝勤務へと向かっていくのです。

そう考えると、やはり如何に早く成形できるかということが、とても重要であるということはお分かりいただけると思います。

この、如何に早くというのが何かとキーワードになることが多く、急げば急ぐほど成形は雑になる、ゆっくりなら綺麗に作れる自信があるにも関わらず、急げ急げと言われるから綺麗には出来ない、そして仕方なく雑になるという意見もよく耳にします。

極端な言い方かもしれませんが、「形なんかどうでもいいんだよ・・・早く早く」 そんな言い方をするというオーナーも多いのが実情ではないでしょうか。

もちろん綺麗に作って欲しいのは誰でもが望んでいることではありますが、それを十分わかった上で、それでもスピードを優先せざるを得ない事情というのがあるわけですね。

従業員がそのことを十分理解していないと、またオーナーがそのことを十分説明できていないと、そこには必ず不満が溜まっていきます。

「綺麗に作れと言うからそうしているのに、形なんか良いから急げってどっちなんだよ・・・」

「急がせておいて、雑すぎるとはどういうことだよ、こちとら機械じゃないんだよ・・・」

こんな風に思って不満タラタラの人、多いのではないですか。

しかしかりに、そんな不満を持って退職し、自分のお店を開業する、あるいはどこかの責任者になった時に気がつくのが、自分が今度は急げ急げと言わなければならない側に回っているという現実です。

そう、要するにこの事実はオーブンフレッシュベーカリーで仕事をしている以上、より多くのお客様に満足を提供したいと考えている以上、クリアーしなければならない最大の壁なのです。

私自身、過去数十年に渡ってず~っとず~っとず~っと、この問題と取り組んできましたし、まさに今現在においても日々そのことで悩み苦しんでいるのです。

問題とか悩み苦しむなんて、パン作りはもっと楽しいものではないのか・・・・仕事というのはもっと楽しく行うものではないのか・・・そう言われそうですが、勿論それはその通りです。

一人で全てを行っていれば、言い訳もできませんし、自分の実力以上のことは無理と認識できますので、反省することはあるにしても、人間関係がどうのということで悩む心配はないでしょう。

しかし、パン屋というのはほぼチームで仕事を行いますし、そこに人間関係が存在することは誰でもが経験してきたことと思うのです。

若かりし日を除けば、やはり常に人の上に立つリーダーとしてチームをまとめながら作業を円滑にこなさなければならない立場であることが多かった毎日の中で、人間関係がギクシャクする原因になるのは決まって成形がらみでした。

毎日毎日朝から晩まで同じ顔ぶれで仕事をしていると、それはもう家族以上の関係であるかのごとく思う時間もあるくらい、様々な会話をするものですよね。

数年経てばお互いの家族構成や生い立ちなどにも会話が及ぶこともあるでしょうし、特に大忙しの現場の場合にはそこに戦友としての特別な感情すら湧いてきたりするものです。

しかし、そんな中にも必ず作業よりも会話が優先してしまう人、手元よりも口元が優先してしまう人というのが存在します。

フォローできるうちは良いのですが、売上が上がり製造数がどんどん増えてくると、その楽しい会話が無駄話に変わってくることが多々あります。

会話に花が咲けば、どうしても手元が疎かになり、段取りがどんどん遅れてきます。

そういう人というのは、来客数はどうか、欠品はないかなど、品揃えに気持が向くことはなく、単に作業をしている人へと成り下がってしまうのです。

それを注意すると、必ずこんな目で見られることになります。

「自分だっていつもは楽しそうに話しているのに、どうして私だけ注意するの・・・」

「自分なりに精一杯やっているのに、一体何様のつもりなの・・・・」

そして、少しずつ職場がギクシャクしてきて、とどめは

「その言い方が気に入らない・・・」となって退職。

または、成形の仕方で注意をすると

「教わった通りにやっている、教え方が悪いんじゃないの・・・・」

「以前言っていた事と違う、コロコロとやり方を変えないで・・・」

などと言われ、生地の状態に合わせて成形の仕方も変えなくてはいけないこと、数によっては途中で冷蔵したり冷凍したりと、段取りを組み替える手法が常に必要なのだということを説明しようとしても、

「何様のつもりなの、偉そうに・・・」 となって退職。

そんなことを数多く経験していくと、「そんなに自分は言い方が悪いのか・・・」「そんなに偉そうにしているのか・・・」 と心が折れることばかりでした。

職場の雰囲気が悪い、上司への不満が多い、そんな状態を良くしようと試みると、おのずと会話ははずみ、皆と打ち解けていくのが解り嬉しくなります。

皆毎日が楽しいと言ってくれるようになり、進んで色々な作業に協力してくれるようにもなり、数カ月は有意義な日々が続くのですが、なぜか徐々に無駄話が多くなりだし、作業が雑になりだし、楽しみがメインになっているような気がしてくる・・・

すると、以前はあれほど素直に従ってくれていた人達が、顔色を変えるようになる・・・

そんな悪循環を繰り返すことが多かったような気がします。

何度も、「言いたいことがあっても言わずにおけば済むかもしれない・・・」

「そもそも自分がそんなに偉いのか、言えるような立場なのか・・・」

「人間的魅力がないから聞き入れてもらえないのかもしれない、だとしたら一番改善が必要なのは自分なのではないか」

そのような気持になりましたが、それでもやはり、目の前で正しい成形が行われていないとつい注意してしまう自分がいるのでした。

何故黙っていられないのか・・・・

性格でしょうねもちろん。

ただ、その性格に輪をかけるような出来事が若かりし日に多くありました。

それは、大勢のパートさんと仕事をしていた頃のことですが、とにかく皆影で他人の悪口を言っていたのでした。

若かった私などは、特にそのはけ口にされていて、皆一様に私の前では他人の悪口を言うのです。

そんな時、「なぜ本人に言わないのか、言えば平和ではいられなくなる気持ちも解らないではないが、そんなに嫌なら戦うしか無いのではないか」 という気持ちが芽生え、愚痴ばかり言ってないで、仕事のことなのだから本人か上司に進言すべきではないかというと、必ずこう諭されるのでした。

「長いものにはまかれろと言うのよ」 「言えば角が立つでしょ」

そう言いながらも、来る日も来る日も私の前では誰かの悪口を言うのでした。

自分はそんな生き方をしたくない、そう強く感じるきっかけとなった時期でしたね。

それからというもの、如何に仲良くなろうとも、如何に自分よりも偉い役職の人であろうとも、もっと綺麗に成形して欲しいと言うようになり、そのことでこの仕事をやめてしまった人は数え切れず、例えそれが講習会であっても、講師に対してミキシングオーバーだと思うとか、生地を痛めすぎているなどと言ってしまうこともしばしばあり、会社に招いたど偉い高名な先生に対しても、「その丸め方はちょっと・・・」 とか、「もう少し丁寧に包餡してください」 などと言ってしまうようになりました。

こりゃ友達も減るはなぁ~

”要するに自分が満足したいだけなんじゃないの” そう言われたこともありました。

年を重ねてきて、色々なことに対して丸くなったと感じますが、今も相変わらず他人の成形へのダメ出しだけはしてしまいます。

成形という製パン技術の先に、どうしてもお客様との信頼を繋ぐ鍵であるという一面、そして妥協したところから信用は崩れていくのではないかという一面を見てしまうのです。

パンという食べ物で、まずいものなんてほとんどありません。

そんな大して差のないパンの中から、自分のパンを選んでもらえる為に出来ることがあるとすれば、それはとにかく真面目に、一生懸命に、たとえお客様には見えない作業でも、ごまかしなくベストを尽くすこと、それしかないのではないかと地味ながら思うのです。

どう成形したかによって、同じ配合でも全く違うパンになる。

成形の仕方一つで、品質を大きく左右させることが出来る。

だからこそ、そこに重きを置く人たちには是非解って欲しい。

あなたのその成形こそが、手作りの最大の武器なのだと・・・・



納得できない正解・・・・も時にはある

以前にこのような画像を紹介したと思います。


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このパンは、多少の砂糖と油脂を含むいわゆるソフトフランスパンなのですが、ご覧のように割れないクープもあれば裂けてしまっているものもあるという状態なのでした。

オーブンはラックオーブンというラックごと焼くタイプの大型のもので、日頃はフランスパン専用窯か、あるいは性能の良い平釜でフランスパンを焼いている私としては、ごく単純にこのオーブンではキレイなフランスパンは焼けないだろうと感じていました。

この画像のパン5本は、同じ天板で横に5本並んで焼かれているものなのですが、クープの開き具合だけではなく、焼き色や表皮の状態にいたるまで全く別の焼け方になっているのがわかります。

クープの仕方がメチャクチャであることは勿論そうなのですが、ここまで顔の違うパンに焼けてしまうというのは、正直びっくりしました。

簡単に言ってしまえば、蒸気の質が悪いということと、熱伝導が悪すぎるということに尽きるわけですが、だからと言って全てのパンがおかしく焼けるわけでもないのでした。

菓子パンやラスク、そして同じくハード系の小物なども焼いてみたのですが、これだけ温度帯の違うパンを焼いても、そこそこの完成度があるのです。

しかも、上部と下部、そして外側と内側などでも、若干の焼きムラはあるにしても、想定内の結果で焼けるのでした。

一本420グラムのこのフランスパンは、大きすぎて間隔が狭くなり、上手く熱が伝わらないのではないか・・・というのが先方の結論のようでしたが、上手く焼けるパンがある以上、何らかの手立てはありそうだということで解決のお手伝いをすることになったわけです。

パンの完成度には、ある条件がありました。

それは、パンの高さと長さを揃えたいということです。

どういう事かといいますと、ほとんどのパンが焼成後にこの画像のように中央部がへこんでしまうからでした。

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横から見たところですが、中央部が激しく沈み込んでしまっていて、しかも下部側面が激しく裂けてしまっています。

成形はけしてうまいとは言えないものの、ほぼ太さも長さも合格でしたので、中央部のみここまで沈んでしまうというのは、恐らくはやはり中央部に火が届きにくいのでないかと考えたりしました。

また、まったくクープが開かずに表面がテカテカになっているものの隣りにあるパンなのに、このように裂けまくっているというものも数多く出来てしまいます。

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「・・・ということは、蒸気も全体に行き渡っていないということか・・・・」
と思いきや、段によっては中心部の方が蒸気のかかり過ぎの状態のものがあったりして、けして行き渡っていないというわけでもないという、なんとも不可思議な焼け方になっていたのでした。

とにもかくにも、他の小物パンはほぼうまく焼けているということは、このフランスパンの大きさと重さ、そしてスチームを必要とするという点がネックになっていることは間違い無さそうでした。

もともとこのフランスパンは、配合と製法を指導して欲しいという依頼を受けて私が提供したもので、二日間限定ということで指導を行った経緯があり、その後数年間はうまくいっているものと思っていたのですが、売り先が多くなり、今のままの状態では量産するのに躊躇してしまうということで、再度依頼があったのでした。

担当者も当時とは違っていたりして、作り方もややアレンジされていたりという状況で、しかしながらもっと生産量を上げたいという完成度待ちの状況の中での依頼に、「乗りかかった船を途中で降りるのも・・・」という思いもあり、とにかくチャレンジしてみようということになったのでした。

指導した当時とは比べ物にならないくらいの量を作っている現在では、やはりミキシングや発酵時間についてツッコミどころは沢山ありましたが、それらは今回のこの画像のようなパンになってしまう直接原因と言えるものではありません。

色々と細部に渡って一通り見直しながら作ったとしても、結局最後には画像のようなパンになってしまうのでした。

「クープはこうしなければいけない・・・・」そんな指導をしながらも、私のクープしたパンの方が裂けてしまうと言うことも何度かあり、「これは今までの基本は全く通用しないな・・・」ということを思い知らされるのでした。

以下簡単にその経緯をまとめてみました。


小麦粉の割合を変えてみる・・・

2種類の小麦粉をブレンドして作っており、一つは強い小麦粉でもう一つは力は弱いが風味が良いものを使っていましたので、強い小麦粉の割合を増やしてみたが駄目、ならばと逆に弱い方を増やしてみても全く効果なし・・・・

ミキシングを見直してみる・・・

もともとあまり捏ねない派の私でしたが、焼成後に落ちるというのはやはりコシ持ちが悪いからではないかということで、あえてある程度しっかり捏ねてみたところ、とてもボリュームがあり表面の滑らかさが際立ってきていて成形も行いやすく、これはどうやら行けそうだとウキウキしながら焼成するも、やはり残り10分というところでどんどん沈んでいくのが見えて結果は撃沈・・・

バイタルグルテンを添加してみる・・・

小麦粉だけは変えたくないということで、ならば味に影響がなくボリュームを出すにはということで小麦グルテンを添加するも、しっかりと窯の中で伸びた分、落ち方も激しくなり撃沈・・・

イースト量、改良材の変更及び量の調整・・・

オーブンで伸びすぎてしまうから自らを支えきれずに落ちてしまうのではないか・・・そんな考えから様々調整するも、発酵時間には影響を及ぼすものの、完成品に違いはみられず撃沈・・・

天板を変えてみる・・・

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このような細長い、円形にくぼんだ天板を使っていましたので、ある一定の大きさに膨らんだ後下部がはみ出してしまい、そこが裂けることでコシが落ちてしまうのではないかと考え、フラットの天板で焼いてみた所、若干の下部の裂けは解消したものの、やはり落ちてしまい撃沈・・・

その後もベンチタイムを調整してみたり、ホイロの温度や湿度を変えてみたりと、細かい部分にまで目を向けてみましたが、やはり最終的には非常に不安定で、しかもどうしても落ちてしまうのでした。

「これはどうやら何をやっても駄目だな・・・」

そもそも上記の画像のようにパンの間隔が狭すぎて、しかもこのパンよりも遥かに太くて長いパンなので、どう考えてもこのオーブンでは無理なのではないか・・・

そんな思いがよぎりながらも、「しかし何か手があるような気がする・・・」そんな漠然とした思いだけがあり、今まで行ってきたこととは全く違う視点で見てみようと考え直しました。

「こりゃ焼き方だな・・・」

こうなったら色々と焼き方を変えてみようということになり、それ以後も数十回に及ぶ調整を試みてみました。

スタートの温度を高くする、あるいは低くする・・・

高温で焼くことでパンの骨格を早めに形成し、コシ落ちを防止できるのではないか、また弱めにスタートすることでクープが裂けるという現象や、下部が裂けるという現象が減るのではないか、また
焼成温度を途中で変えてみたりしましたが、すぐに下げたり上げたりすることは難しく、いずれの場合も最終製品にさほど違いは見られず撃沈・・・

前蒸気をかけて室内の気流を安定させておく・・・

あらかじめ蒸気をふんだんにオーブン内に充満させておき、一気に生地を投入することでクープが安定して滑らかに伸びていくのではないかと考えましたが、さほど変化は見られず撃沈・・・

後半はダンパーを使って蒸気を逃がす・・・

ならばと庫内の蒸気を逃しながら焼くことで、クラストに火が入りやすくなり、コシ持ちが良くなるのではないかと考えましたが、あえなく撃沈・・・

フラットの天板を使い、製造能力は落ちるが横4本で焼成・・・

そもそも火の通りが悪いからいけない訳なので、基本に立ち返りとりあえず4本、次には3本で焼成するも、下部の裂けは改善されたが、やはり焼成後には落ちてしまい撃沈・・・

蒸気の量を色々と変えてみる・・・

少なめにスターすると裂けるものが多くなり、多めにスタートすると全く開かないものが多くなり、途中でスチームを追加してみたり、焼き上がり5分ほど前にも入れてみたりと、ありとあらゆる入れ方を試みるも撃沈・・・

そんな中、かなり大量に仕込まなければならなかった日があり、最終製品はすっかりホイロオーバーとなってしまったために、「これはスチームをかなり多くして、膨らみ過ぎを抑えなければ・・・」そう考えていつもの3倍量を入れたときのことでした。

「お・・・おおおおっ・・・」

なんと完成度が上がっているではありませんか・・・

コシ落ちしているものもあるものの、元気なものも多数あるという偶然に出会ったのでした。

「ヒントはやはりスチームの量とタイミングか・・・」

このスチーム3倍というのを通常のホイロの大きさの時に試しましたが、全てのクープが開きませんでした。

という事は、生地の力加減に応じてスチームの量を調整しないと行けないということで、当然のことながらホイロの状態が同じになるように一度に捏ねる量を減らして、均一なホイロ後状態のなかで様々なスチーム量と、その回数とタイミングを試みました。

そして長きに渡って苦しませてもらったこのオーブンで、ようやくこんなパンが焼けるようになったのでした。

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安定的に高さが出て、しかもコシ落ちがなくなっています。


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そしてクープもすべての場所で安定的に開くようになり、艶もきれいに出るようになりました。

全てのパンが完全にという訳にはいきませんが、ほぼ90%はこのように焼けるようになったのでした。

日頃は人の手、そして取り組む姿勢や基本というものを大切にパンを作っているつもりでしたが、今回はこのオーブンで、このレシピと原材料でという限定の中でのチャレンジでしたので、逆に今までの経験が邪魔をしていた部分も多々あり、かなりの時間を要したように感じています。

正直「新しいオーブン買えよ~^^;」そう思っていましたので、とても勉強になりました。

一日に10回位焼いても、全てが駄目なんて日がずっと続き、私でなければもっと早く改善できる人がいるかもしれないとか、一緒に作業をしてくれたスタッフの目からは ”無理無理” みたいなオーラを感じ、正直毎回心が折れていましたが、やはり最後に力になるのは、「このパンを買った人はどう思うだろう」ということでした。

”なんだこれは” とか ”まずそう” だときっと思うよな~

そう思うと何故か力が湧いてくるのでした・・・

「期待には答えたい」それが最後の砦なんだなと実感した次第です。


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