ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

パン作りは単なる作業なのか????

今回のケースは・・・・・

うちの店では、ホワイトボードを使って毎日生地捏ね上げ温度を書いています。

スタッフはチーフを含めて5人とパートが5人で行っており、一日に小麦粉8袋程を回しています。

一回の仕込み数は15キロがメインで、午前中はほぼ仕込みっぱなしの状態で大忙しです。

ホワイトボードへの生地温度の記入は自分が仕込みながら行っているのですが、何故これをしないといけないのかが解らないのです。

と言うのは、別に何度で捏ね上がろうと誰も見ている様子はありませんし、チーフから注意されたこともありません。

今日は何生地を何キロ回すのかを書いてあるのでそこは見ますが、温度に関しては別に誰も気にしていないと思います。

ご指摘のように、今日はなかなか膨らまないと言う事があったり、フィッシュアイができることもしょっちゅうでした。

膨らんでいてもいなくても時間通りに分割をはじめてしまうので、自分で判断して温度が低い時にはオーブンの上に置くなどして工夫しているのですが、先輩達は別におかまいなしに分割してしまいます。

毎日の焼き立て時間が同じでないといけないからだと思うのですが、これで良いのかという思いは常にあります。

自分がもっとしっかりと温度を守れれば良いと思うのですが、もし温度が高くなってしまうと一斉に発酵してしまうので分割が間に合わなくなってしまい、かえっておかしなパンになってしまうのでどうしても温度は低めにしてしまいます。

それとどうしても気になっているのが、ベンチタイムを取らない事です。

分割が終わるとすぐに成形をしています。

今分割したばかりですがと言うと、どんどんやらないと量が多い時はかえって発酵過多になるから、すぐにはじめないといけないと言われました。

レシピには一様ベンチタイム30分と書いてあるのですが、誰もそれをまもっていません。

自分としてはこのまま毎日が過ぎて行く事が不安で、どうすれば・・・・・・・・


と言うような内容なのですが、これがいわゆる忙しいお店の実態だと言えると思うのです。

パン屋さんでないと理解できないような量の仕込みですが、小麦粉が15キロと言う事は総重量としては約27キロの生地を一度に仕込む訳です。

これを食パンに換算すると一度に三斤の食パンが約20本、1個当たり50g程度の小物パンなら約540個出来る訳です。

この量を分割して、ましてや成形するとなると、どれほどの人数でどれほどのスピードで作業しなければならないかは皆さんにもおおよそ想像できますね。

売上的には誠にうらやましい事ですが、その内情は常に戦場です。

戦場においては、いかなる理屈も理論も通用せず、ただただマシンのごとく作業をこなす以外にないと言うのが実情でしょう。

だからこそやがて落ちて行ってしまうのです。

そして機械化に負けてしまう。

ミキサーで一度に捏ねられる生地の量と、分割成形にかかる時間、そしてそれを発酵させる場所、さらには焼成能力。

それらを十分把握した上での人員配置と作業場所の広さがないと、結局全てに無理が生じ、毎日毎日をこなすだけの単なる作業になってしまうのです。

ベンチタイムが30分と言った所で、例えば540個の生地を分割するとしたら恐らく30分近くかかるでしょう。

すると、必然的に初めに丸めた生地はすでに30分経過していると言う事になりますから、すぐに成形に取り掛かってもおかしくないどころか、逆にすぐに始めなければ膨らみ過ぎてしまいますよね。

この場合、分割に3人位で取りかかれれば20分で終わるでしょうが、皆それぞれに作業を抱えているはずで、そこまで人員を配置している事の方が珍しいと考えられます。

分割機という機械があり、それを使っているパン屋さんも多いと思いますが、だからと言って10分で終わると言うものではありません。

結論から先に言えば、要するに人員が足りていないのです。

また、設備の容量もそうだと思います。

仮に売上が予想以上であったからといって、すぐに新しいオーブンを入れると言うのは不可能に近いですし、将来的に別の工房を増設すると言う事はあると思いますが、大抵の場合その日が来る前に売上が下がってくると言うのが定番です。

ならば今すぐに人員確保を・・・・と言っても、すぐに職人が見つかる訳でもない。

パートさんだと仕事を憶えるのに時間がかかってしまい、すぐに戦力にはならない。

と言う事で仕方なく現状維持で頑張っている・・・・そんなパン屋さんは多いと思います。

機械化の場合、機械と言うのは容量以上の仕事は出来ません。

ですので容量をオーバーした発注に対しては回数でカバーします。

機械はタフですから、休憩も睡眠もいりません。

いつでも淡々と安定したパンを作り続けます。

しかし人は休憩も睡眠も必要ですし、製造量が増えればそれは即不安定へと発展してしまいます。

余談ですが、私の友人のコックは一人でお店を切り盛りしていましたが、とても評判が良くいつも満席でした。

厨房を手伝った事があるのですが、特にランチ時などは右手に二つのフライパン、左手には二つのなべ、足でオーブンの扉を開けて中身をチェック。口にはパスタを入れて硬さをチェックと言った感じで、それはそれはすさまじい光景でした。

がしかし、すぐに病気で入院してしまいました。

人間は頑張れる動物です・・・・・

みんな色々な無理をかかえて頑張っている・・・・・

しかし、その無理は必ず不安定につながると言う事を、解っているようで解っていない。

質問者様のようなお店では、今一度自分達のキャパシティーを見つめ直し、オープン時間や閉店時間を変えてでも、さらには売上低下を招くとしても、長期的に見た安定的な製造計画を立てなくてはなりません。

このようなお店は、部分的な対処法では何も良くなりません。

創業は易く守成は難し

今こそ創業時の気持ちを思い返し、おおいなる立て直しを図るべきだとご提案いたします。

ホワイトボードに捏ね上げ温度などを記入していると言う事は、当初は理論に基づいた素晴らしいパンを提供していたものと推測されます。

売上が上がっていく喜びを感じているのがオーナーだけで、お客様やスタッフの心情を察する事が出来ないでいると、競合店が出来た時にすぐに負けてしまうでしょう。

すでに他社がお店を視察して、不安定な商品に目を付けているかもしれませんよ。

また、質問者様におかれましては、理屈と噛み合わぬ現状に心を痛めている事でしょう。

しかし、それ程の経験はそう出来る物ではありませんよ。

一流のベーカーに必要な資質の一つに、作業スピードがあります。

どんなに理屈が通っても、作業がトロければ誰も相手にしてくれません。

今はスピードを磨く絶好のチャンスです。

また、戦場の中にいるからこそ見えて来る、通常の作業の中では味わえない実践の理論と言うものがあります。

どうかそれを掴んで欲しいと祈っています。

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

trackbackURL:http://sizuasa.blog44.fc2.com/tb.php/256-36692373
該当の記事は見つかりませんでした。