ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

生地を発酵させることの大切さとは

発酵というプロセスは、私達の生活の中において、様々な影響をもたらしてくれています。

お漬物やパンが美味しく食べられるのは、発酵というプロセスから生まれる様々な旨味成分のおかげです。

逆に、生ゴミなどが発酵して、とんでもない香りを部屋中にまき散らしたりもしますよね(~_~;)

発酵というプロセスを使って、それをいかに味方につけて旨味成分だけを残し、味を阻害するような成分の繁殖をコントロールして行くかが重要だと言えますよね。

パンという私達が作る食品も、発酵と言うプロセスがとても重要なのですが、パンの中にはあまり発酵と言う工程をとらないパンが存在したりします。

簡便法でイースト菌の量を増やし、発酵時間を出来るだけ短時間で済まそうとする製法のパンや、冷凍生地全般がその代表だと言えますが、そもそも発酵させたパンと、発酵させないパン、あるいは発酵時間を短縮したパンなどは、それぞれどのような違いが生じてくるものなのでしょうか?

そもそもパン作りを商売にされている方と、趣味で作られている方とでは、大きく考え方は違うと思います。

それは、ご商売の方々は、経験的に発酵時間の長さがそのまま美味しさに比例すると言う事を知っているからです。

他方ご趣味の方々には、膨らむ喜びや焼き立ての感動が優先される為に、そこまで発酵と言うものに興味は無いと言えると思うのです。

発酵時間の長さが美味しさに比例するとは言え、それはあくまで総発酵時間が3時間から5時間位までの事であり、数日間も発酵させるパンと言うものは通常はありませんよね。

数日かけて発酵させるものがあるとすれば、それは天然酵母そのものであったり、発酵種のようなものであったり、つまりパン生地そのものではなく、プラスアルファーで添加する旨味調味料的な素材だと思われます。

そんな、ほとんどが約3時間程度でパンとして完成してしまう食べ物に、発酵させる・させないと言う事がそんなに製品に優劣をもたらすものなのでしょうか?

今回はそのあたりを考えていきたいと思います。

イースト菌の量を通常よりもやや増やしたとします。

すると、いつもよりも早い時間で、しかもどんどん大きくなっていきます。

菌の量が多いと言う事は、ご飯を食べている人数が多いと言う事ですから、ご飯である砂糖がどんどんなくなっていってしまいます。

いつまでも食べさせていると、そのうちに全てを食べられてしまいますので、いつもよりも早い時間に食事を中止させて、次の工程に移らなければなりません。

そうでないと、全員が超デブになってしまい、パンはスカスカのお化けになってしまうからです。

と言う事で、イースト菌を増やすと言う事は、全ての工程において、いつもよりも早い時間で作業を行って行かないと、へんてこりんなパンが出来上がってしまうと言う事になる訳です。

ではこの時には、発酵というプロセスは行われている事になるのでしょうか?

短時間であれパンが膨らんでいるのですから、それは発酵しているのは当然ですよね。

ならば、膨らんでさえいれば発酵と言えるのなら、もっとイースト菌を増やして、より短時間で膨らましても、それはやはり発酵していると言える訳ですから、短時間であれ長時間であれ、美味しさに違いが出てくるのはおかしいのではないでしょうか?

そう考えると、膨らむと言う事と発酵すると言う事の違いが解らなくなってきます。

冷凍生地で作った食パンを想像してみてください。

イースト菌とたくさんの改良剤を入れて捏ねた生地を、すぐさま分割して冷凍します。

その生地を数日後に常温で解凍します。

解凍するのには数時間かかりますが、その間に少しずつですがイーストが活動を開始し、発酵が始まっていきます。

充分に解凍した生地を成形し、型に入れて最終発酵させ、オーブンで焼きます。

通常の工程で作った食パンは、生地を捏ねる所から焼成完了まで約4時間位だと思いますが、冷凍生地の場合も、その日に解凍を行うと、結局同じ位かそれい以上の時間がかかってしまいます。

だとすると、仮に冷凍生地の方が通常の製法の食パンよりも長い時間かかったとしたら、それは冷凍生地の方が発酵時間が長かった訳ですから、冷凍生地の食パンの方が美味しいと言うことになるのでしょうか???

う~ん、ややこしいですね(~_~;)

同じ発酵というプロセスにも、イースト菌の量によるものや、時間による考え方や、冷凍などの温度の違いによる考え方など、実に様々なとらえ方があるのだということが解りますね。

では少し整理して行きましょう。

他のカテゴリでも紹介していますが、ベーキングパウダーというのを皆様はご存知ですよね。

パウンドケーキを作ろうと考えたら、それを膨らます為のふくらし粉として必ずと言っていいほど使われていると思います。

パウンドケーキを作る際に、ベーキングパウダーの量を倍にしたらどうなると思いますか?

恐らくは、オーブンの中で型から具が飛び出してしまうと思います。

要するに膨らみ過ぎてしまう訳ですね(@_@;)

逆にベーキングパウダーを半分にしたらどうなるでしょう?

普通に作ったとしたら、あまり膨らまないケーキが完成する事になりますね。

膨らみ過ぎた方は、中の気泡が大き過ぎてスカスカでしょうし、膨らみの悪い方は目が詰まっていて重い感じの食感になると思います。

ここで解る事は、膨らます為に使用した膨らし粉は、適量入れる以外には、むしろ製品に悪影響を及ぼす事があると言う点です。

パンに入れるイースト菌も同じで、副材料の配合量と総発酵時間から割り出された適正配合量というものがあり、それを超えたり足りない場合は、それなりの現象が表れてしまいます。

ただし、ここで考えなければならないのは、”膨らます”と言う事のみだということなのです。

どう言う事かと言いますと、パウンドケーキもパンも、それぞれ適度に膨らむ事によって、理想的な食感や火通りが得られるものなのですが、決定的に違うのは、パウンドケーキは材料の美味しさを楽しむ為の食べ物であり、パンは膨らむと言う事だけではけして美味しい食べ物にはならないという部分なのです。

パウンドケーキと言うのは、膨らんでいる事であの独特なしっとり感が味わえる訳ですが、仮にそれを膨らまさなかった場合でも、薄く焼けばクッキーとして美味しく食べる事が出来ます。

つまり、膨らんでいるいないは、直接味とは関係が無いと言う事です。

しかしパンの場合はそうはいきません。

膨らんでいなければ火が通らずに、最悪の味と食感になりますし、膨らんでさえいれば全て美味しいと言う訳にもいきません。

なぜなら、パンの場合はパウンドケーキとは違って、バターや卵や砂糖の美味しさを味わう食べ物ではないからです。

小麦粉を中心として構成されるパンの配合には、原材料単体の美味しさはほとんど発見する事が出来ません。

イースト菌に脱脂粉乳にショートニング・・・・・

オェ~ですよね(ー_ー)!!

しかしそれらを捏ねて焼く事で、こんなにも多くの人に愛される食べ物に変身してしまうのですから、実に不思議だと言わざるを得ません。

そんなパンを膨らます為に必要なイースト菌ですが、実はイースト菌と言うのは、ベーキングパウダーのようにパンを膨らませる力があるのと同時に、膨らましながらも旨味成分をもせっせと生成してくれているという優れた働きを持っているのです。

パンを発酵させると言うプロセスにおいて最も大切な事は、膨らませるという外的要因と、熟成という旨味成分の生成を行う内的要因のバランスを取る事にあります。

パンは、熟成が進み過ぎても美味しいものにはなりません。

むしろアルコール臭が強くなってしまったり、酸味が出てきたりしてしまうからです。

かと言って、冷凍生地のように熟成が行われていない生地では、旨味とか味わいという部分ではかなり劣る事になります。

見た目には美味しそうなのに、食べたらそうでもなかった・・・・・

また、見た目は普通なのに、食べたら何とも言えない美味しさだった・・・・・

誰でも経験した事のある事だと思いますが、パンの場合はこの何とも言えない美味しさを出す為の発酵と熟成のバランスと言うものは、経験的に掴むしかありません。

しかも、この場合はこうするべきだと言うような定義も恐らく存在しません。

やってみなければ解らない・・・・そんな世界なのです。

いずれにしても、作り始めから完成に至るまでにはかなりの時間を要するパン。

常に時間と人件費との狭間で、それでも美味しさを追求することを止めないベーカー。

簡便・合理化では出せない ”忘れ得ぬ味” を求めて、ごまかしのない美味しさを追求したいものです。

7 Comments

うさびっち says..."勉強になります!"
( ´・ω・`)
記事上げ
お疲れ様ですと
ありがとうございます

先日、発酵に関して
天然酵母のパンなんですけれども
お店での規定の分数で焼いて
色がいつもより濃くなってしまって
チーフに聞いて見たところ
発酵し過ぎるとたまに色が
よくつくことがある。
と言われたのですが
そうなのでしょうか?

すいません、いまいちどう調べていいのか分からず、質問させていただきました。
2012.09.02 22:14 | URL | #- [edit]
しずかな朝 says..."うさびっちさん、おはようございます。"
それはちょっとばかり解釈が違うような気がしますね。

同じレシピで同じ作り方をしたパンが、時に色付きが良かったり悪かったりする。

普通の料理なら、それは火力が違うか砂糖などの量を間違えたかと言う事になる訳ですが、パンに関してだけは理屈がやや違うのです。

それは、生地の温度、そして発酵時間の微妙な違いによって、生地中の糖分量が変化してしまい、それによって色付きが変わって来てしまうという点なのです。

パン生地が発酵していく、膨らんでいくという現象には、必ず糖質が関係してきます。

つまり、何度で何分時間が経過したかによって、生地中の糖分量が明らかに変わってくると言う事なのです。

色付きがいつもよりも明らかに良い場合、それは理論的には糖質がいつもよりも失われていない状態であるということですから、生地の温度が低いか、あるいは生地が冷えてしまったか、あるいは発酵時間がいつもよりも短かったかのいずれかになるのです。

技術的にもっと細かい部分にも原因が無い訳ではありません。

しかし、ほとんどの場合は、捏ね上げ温度と発酵時間のバランスが悪い事で起こる現象だと言えると思います。

これは、イーストのパンであっても天然酵母であっても理屈は同じです。

仮に、砂糖を配合しないパンであったとしても、菌は生地中から糖質を探し出して、それを食べて成長していきます。

どの菌がどんな糖質を食べて成長するかは配合によって違うプロセスになる訳ですが、いずれにしてもそれは温度と時間に関係してくる事なのです。

お解りいただけましたか?
2012.09.03 04:24 | URL | #- [edit]
ニモ says..."ベーキングパウダーにつきまして"
しずかな朝さまこんにちは。記事中にパウンドケーキ、ベーキングパウダーの記述がありましたので、質問させていただきたく、よろしくお願いいたします。しずかな朝さまのお考えをお伺いできましたら幸いに存じます。

私はパウンドケーキにはベーキングパウダーは入れません。ベーキングパウダーは安全なものということは承知していますが、せっかく手づくりするのであれば、できるだけ添加物は使いたくないからです。同じ理由で最強力粉も使わないようにしています(ゴールデンヨット、美味しいのですけど)。

パウンドケーキに関しては、ベーキングパウダーが入らないので、パウンドケーキらしいトップがぱっくり割れて盛り上がった“あのかたち”にはなりません(食感は、私はバターケーキはしっとりが好みなので、バターや卵の泡立てだけで出せる程度のふんわりでもよいです)。

ベーキングパウダーを入れれば、カッコイイパウンドケーキが焼けるかな?とか(私の技術やオーブンの性能もあるので一概には言えないけれど)、ふっくらふわふわで美味しいかな?と思い、入れようかな。。。と思いますが、そうすると前述した、ぜっかく手づくりするなら無添加で、という気持ちが出てきて、ぐるぐる回って答えがでません。とりあえず、アルミニウムフリーのものを使ってみようかな?と、ちょっと考えているところです。

2012.09.03 09:35 | URL | #SVUff9GE [edit]
うさびっち says..."回答ありがとうございます!"
( ´・ω・`)
なるほど、
またチーフと話して見たいと思います。

ありがとうございました!
2012.09.03 11:22 | URL | #- [edit]
しずかな朝 says..."ニモさん、コメントありがとうございます。"
食品添加物であるベーキングパウダーについては、どこまでいっても論議は決着しません。

ご自分で判断するしかないと思います。

パウンドケーキは、私もほとんどベーキングパウダーは使いません。

しかしそれは、卵やバターをホイップすれば済むからであって、ベーキングパウダーが敵だからではありません。

ベーキングパウダーと言うものは、入れれば入れたなりの効果と味への影響があります。

効果を取るか、味への影響を考えて使用しないかはご自分の自由です。

ただ、私は毎日食品添加物入りの食品をたくさん食べていますが、今の所非常に元気です。

これ以上の人体実験は無いと私は考えています。

今後も、食品添加物の危険よりも、病気や怪我や事故に遭う危険の方が正直確率が高いと考えています。

しかし世の中には、様々な体質の人間がいます。

ですから、自分や自分の家族に合った食生活をご自分の意思で決定していくしかありません。

無責任なようで申し訳ありませんが、もっと勉強して、ご自分なりの意思を固める事をお勧めします。
2012.09.03 16:51 | URL | #- [edit]
ニモ says..."すっきりしました!"
>入れれば入れたなりの効果と味への影響

この一文を何度も読み返しました。
入れれば入れたなりのものが、入れなければ入れないなりのものが、で気持ちの折り合いがつきそうです。
すっきりしました!ありがとうございました。

2012.09.03 20:19 | URL | #SVUff9GE [edit]
パン職人見習いです says..."またお世話になります"
発酵と熟成の違いがいまいち分からないのですが…

簡単にいうとイーストはパンを膨らますガスと旨味を両方作っているって事ですか?

それを発酵と熟成と区別して呼んでいるのですか?

例えば冷蔵長時間発酵で生地を長時間熟成させたとかよく見かけますが膨らますガスは温度も低い、イーストも少なめな為ゆっくり進むけど旨味は温度もイースト量も関係なく作られていくのですか?


2013.10.23 20:29 | URL | #F9ckFCGU [edit]

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