ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

生地温度と発酵の不思議な関係

こんな質問をいただきました。

・・・・その様な中、生地の捏ね上げ温度について(正確には捏ね上げというよりも成形時ですが)ご質問したい事があるのですが、このサイトを拝見していると生地の捏ね上げ温度がとても大切であることは充分理解出来るのですが、理解すればするほど違う疑問が出てきてしまいます。

当方では、生地を分割した後トレーに乗せて、冷蔵庫で一時的に生地を冷やしております。

その生地を時間の間隔をおいて成形しております。

その方が何度も同じ生地を仕込む必要がありませんし、焼き立てを何回かに分けてお店に出す事ができるので、最良の方法であると確信しておりました。

しかし、こちらのサイトを拝見してからよ~くよ~くパンを観察していると、たまにフィッシュアイが出ていることがあったり、ボリュームがでないことがあったり、焼き色がまだらになることがあったりしていることに気が付き、私の方法は間違っていたのかと不安な気持ちになりました。

当方この業界で15年ほど経ちますが、今までいたお店でもすべてこのようなやりかたをしておりまして、何の疑問もいだかずにおりました。

考えてみれば、28℃で捏ね上げた生地を5℃まで下げることになる訳ですから、温度差はかなり発生する事でしょうし、やはり一度生地を冷蔵すると言うやり方は本来の製パンからすれば間違った作り方だということになりますよね。

もし、このやり方で・・・・・


なるほどなるほど・・・・どうして今までこの質問が来なかったのか??

・・・と言いたくなるほど実践的な、そして恐らくどの工房でも行われている製法の一つだと言える今回の疑問。

じ~つ~に良い質問だと思います。 (^0_0^)

いや、質問の良い悪いと言う表現は正しく無いかな・・・・

この疑問にたどり着いた事に拍手を送りたいですし、そのような日常の中にこそ、本当の製パン理論の活躍の場があるのだと私は思います。

確かに、パン生地の捏ね上げ温度はとても大切ですし、もしも捏ね上げ温度が予定よりも高ければ、製品は予想以上のボリューム感を出し、風味に欠け、焼き色が妙に薄くて表皮の硬いパンが完成してしまう可能性が高くなりますし、低ければボリュームと風味の欠けた、焼き色の濃い、表皮の厚いパサパサのパンが完成してしまう可能性が高くなる事でしょう。

つまり、その後にどのような保存方法をとるにしても、どのような成形をするにしても、捏ね上げ温度を適正に保つと言う事だけは守らなければならないのです。

しかし、質問にもあるように、いくら捏ね上げた時点で温度が適正であっても、その後に冷やしてしまったのでは捏ね上げ温度が低過ぎたり高過ぎたりすることに何の意味があるのか??と言う事になってしまいますよね。

現に生地を捏ね上げたら、すぐさま冷蔵庫へ入れて低温発酵させるというようなやり方をしている人も多いと思います。

では、これらはすべて本来は邪道と言うべき製法なのでしょうか??

結論から言えば、邪道であろうとなかろうと、結果に満足しているのであれば本人の自由ですね。

ただし、もしも満足していない、あるいは今回の質問のように自店の商品を良くチェックしてみたら自信が無くなってしまったと言うような場合は、今一度その製法を見直してみた方が良いかもしれませんよね。

そもそも自信が無いと言う時点で、見直しは必要でしょう。

でないと、お客様に失礼ではありませんか(>_<)

今回の質問者様のやり方と、概ね同じだと言う方はたくさんいらっしゃると思いますが、レシピは皆少しずつ違うはずです。

レシピによって、冷蔵が向いているのか向いていないのかと言う点は非常に大切な事なのですが、今回はごく一般的な菓子パンの生地を例に説明していきたいと思います。

ではまず初めに、今回の質問の核心ですが、分割した後の生地を冷蔵することは、何の問題もありません。

むしろ、冷蔵する事によって成形しやすくなる商品もあるでしょうし、一度生地温度を下げる事で成形時のいらぬ摩擦から生地を守るという効果もあるからです。

生地を冷蔵する事が悪いと言う事なのでは無く、それはそれで製法としてしっかりと理解して行わないと、時にフィッシュアイになったりボリュームに欠けたりする事になるのです。

では、生地の捏ね上げ温度はプラスマイナス1℃程度を目標に仕込まなければならないのに、なぜその後に冷蔵庫で冷やしても大丈夫だと言う理屈になるのでしょうか?

それは、イースト菌の活動と言いますか特性と言いますか、そのあたりを良く理解していかなければならないのです。

イースト菌と言うのは、成長する為の食事と環境、そして生活バランスがとても大切なのです。

解り易く人間に例えると、食べ過ぎれば太り、環境によっては良い風味になったり変な風味になったりしますし、生活のバランスが悪ければニートにもなります。

適度な食事が大切ですし、時には褒めら時には叱られることも必要、しっかりと働いたり、かといって休息も必要で、成人するまでは立派な菌に成長するように、しっかりと育てていかないとニートになってグレてしまうのです。

そんな親心のような気持ちで発酵というものと向き合うと、色々と見えてくるものがあると思いますよ。

イースト菌がパン生地として生まれ、その後の人生をまっとうしていく為のスタートが捏ね上げ温度になります。

その温度が低過ぎれば、それは環境としては極貧の家庭に生まれてしまった事を意味するでしょう。

叩かれて叩かれて、甘やかされる事もなく、見事に成人を迎える事が出来れば、立派な菌として巣立って行く事が出来るはずですが、あまりの貧しさに心が折れてしまう事もあるでしょう。

そして働く気持ちをなくし、イースト菌として生まれた責務を果たせないままに、ただただ生きていく・・・・

他方捏ね上げ温度が高過ぎた場合は、それは環境としては大富豪の家庭に生まれてしまった事を意味するでしょう。

甘やかされて何不自由無い環境で育った菌は、イースト菌としての教育を叩き込まれてはおらず、ただぶくぶくと膨らむしかない、打たれ弱い菌になり下がる事でしょう。

もはやイースト菌本来の風味を失った、膨らむだけの産物・・・・

どちらの場合も復活の道は無い訳ではありませんが、出来ればごく普通の家庭に生まれ、おだやかにその後の人生を歩ませてあげたい・・・それが親心ではありませんか。

そして適正温度に生まれてくる事が出来たイースト菌は、適度な環境と適度な教育を受け、着実に成長していきます。

父母の言いつけをしっかりと守って、その後に冷蔵されようが冷凍されようが、時にはホイロという灼熱の南国にいきなり飛ばされる事になったとしても、成人までしっかりと教育を受けている為に、環境に負けることなく役目をまっとうしていくのです。

こうしてイースト菌は、生まれる環境こそしっかりとしていれば、その後の様々な製法にも耐えるだけの忍耐力を身につけると言う事になる訳です・・・・めでたしめでたし。

と言う事で、捏ね上げ温度を適正に保つ事の理由と、その後の冷蔵の温度との関係はご理解いただけたでしょうか。

適正な捏ね上げ温度で、一定の時間健やかに育てられた生地であれば、発酵の基礎になる骨格がしっかりと出来上がっています。

要するに、分割するまでの間だけは温度を出来るだけ一定に保ってあげる事が大切なのですね。

その後の成人してからの人生では、当然のことながら波乱万丈色々とある事でしょう。

しかし、まずはイースト菌として巣立つまでの環境だけは親の責任だということなのです。

では次に進みます。

それでもやはり、時にはフィッシュアイが出てしまう事もあれば、時間の経過と共に生地のボリュームが無くなってくる事があるのは確かです。

その理由は、一つは環境のバランスが一定でないことが原因の場合、もう一つは不確定な要素が冷蔵温度帯には多い事。

この中で、不確定な要素と言うのは、そのレシピや原材料に何を使っているかによって変わってきますし、何よりも実際に試行錯誤することでしか解決の道はありません。

もう一方の環境のバランスだけは、今すぐにでも改善していく事が出来ますので、こちらを紹介しておきたいと思います。

生地を冷蔵する・・・・と言う行為は、ただ冷蔵庫へ入れれば良いというものではありません。

生地が冷えていくというプロセスを考えると、表面から徐々に中心部へ向かって冷えていく訳です。

と言う事は、冷蔵する生地が大きければ大きいほど中心まで冷えるのに時間がかかる事になります。

そうなりますと、中心部のイースト菌だけは一生懸命膨らもうと活動している事になりますから、一つの生地の中で余力を残した状態で冷えた部分と、かなり力を使い果たしてから冷えた部分が混在することになります。

これがバランスの悪い冷蔵となり、その後の発酵に悪影響をもたらすことになるのです。

ですから、それを防ぐために、まずは良く冷える鉄、あるいはアルミなどのトレーに生地を乗せる事。

けしてプラスチックを使用しない事です。

次に生地の大きさですが、一つの大きさは80g程度が限界だと思います。

もし食パンの生地を冷蔵している方がいらっしゃるようなら、小さい生地をいくつかまとめて成形するようにすると良いでしょう。

どうしても大きな生地を冷やす場合は、少しの間冷凍庫で冷やし、その後に冷蔵に戻すと良いでしょう。

いずれにしても、中心まで冷やすのに時間をかけてはいけないと言う事を念頭に考えてください。

またそのように考えると、生地と生地の間隔も大事である事はご理解いただけると思います。

そのようにして、どの位の大きさの生地をどのような入れ物で、どのような状態で冷蔵するのがベストかと言う事を考えた上で行えば、それだけで完成品はかなり安定してくるものです。

次に時間の経過です。

当然のことながら冷蔵されている生地とは言え発酵は行われていますので、その発酵力と言うのも時間の経過と共に衰えていくものです。

それがどの程度なのかはレシピや原材料により違いがあるはずですから、ここで詳しく書く事は出来ませんが、発酵力と言うのはだんだんと衰えていくものなのだと認識しておけば、後は体験的に掴んでいけるはずです。

生地を冷蔵してから、どの位の時間は安定的に発酵していけるのかと言う事を生地別に掴む事です。

今回は、冷蔵する生地の保管状態と時間に注意が必要であると言う説明をしました。

しかし、実際にはもう少し色々と見ていかないといけない部分があります。

そのあたりを次回説明していきたいと思います。


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