ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

パン屋は経験だけがすべてではない

ここのところ、小規模でお店を運営されている方からの質問がとても多くなりました。

小じんまりとしたパン屋さんや、自宅の一部を改装してお店にしている方など、以前には見られなかった形態でお店を始められる方が増えてきているのだと思います。

何かと言うとチェーン展開してきた今までのパン屋さんと比べ、買う側からすると作り手が見える、生産者の気持ちが伝わるお店と言うのは、とても安心できますし、そこにはパンの売り買いだけではない、温かみのようなものを感じますね。

ですが、やはり良い面だけではなさそうなのです。

と言うのは、このような小規模なお店をやられる方と言うのは、あまり専門的にパンを習った経験があるというのではなく、なんとなく趣味の延長でパンを作っていたら、意外とお客様に支持される事になり、本格的にとまではいかなくとも、そこそこ生活していける程度の売り上げと、趣味を両立させたいとの思いをもって始められる事が多いのです。

すると、ある程度年月が経過すると、ある不安に襲われるようなのです。

それは、私のパンは果たして本当に美味しいのだろうか・・・・?

このパンは、専門的に見ていったいどうなんだろうか・・・・・?

はたしてこのまま続けていって、大丈夫なのだろうか・・・・・?

本当は間違った作り方をしてしまっているのではないだろうか・・・・・?

そんな事を考えてしまう方が非常に多いようなのです。

真面目なのですね・・・・・基本的にこのような方々と言うのは(~_~;)

でも気持ちは解ります。

自分の歩んでいる道があって、このずっと先は本当は行き止まりなのではないか?

自分は間違った道を歩いているのではないか・・・そんな不安がよぎるのです。

私はパスタが大好きで、外食で食べるよりも自分で作った方がはるかに安く、しかもはるかに美味しいと常々思っています。

しかし、テレビなどでイタリアンの本格料理が紹介されたり、有名シェフのお店のパスタが紹介されているのを見るにつけ、一度きちんと教わると、もっと別の美味しさにめぐり会えるのかも知れない・・・・

そのように感じたり、実は自分の作り方はプロから見たら ”プッ ”なのかもしれない・・・・

そう思う事もあります。

つまり、何か確証を得ることで安心したいと言う気持ちなのかもしれませんね。

なので、本屋に言ってはパスタの本を見て、プロのパスタの作り方を見ては真似して作る訳ですが、やはり美味しいとは言え、一抹の不安はぬぐえない自分がいる・・・・

きっと小規模経営の方達は、そのような一抹の不安と闘いながらも、支持して下さるお客様と自分を信じて、毎日パンを作っていらっしゃるのではないでしょうか。

そのようにして、いつでも新鮮な気持ちで自分のパンと向き合うと言う事は、とても大切な事です。

むしろ、ただただ作業として黙々とパンを作り、善し悪しも考えずに生産されていく大量のパンに身を任せる生活の方が不幸なのではないかと私は感じています。

一日に大量のパンを作ると言う事は、ある意味技術が無いと出来ない技ではあります。

そこには、段取りや効率を重んじる考え方が無いと、とても時間内にさばききれないからです。

当然その様な生活をしていると、スピードと言うパン作りにはとても大切な能力が備わります。

ですが、その様な生活の中で、美味しさを求めたり、作る楽しさを味わったりすると言うのはとても難しい。

毎日毎日同じ作業を、ただひたすらに行い、数十年経ってもパンのレシピすら見た事が無い・・・・そんなパンの仕事をしている方も大勢いるはずです。

また、そこまで大量生産では無くとも、ある程度有名なお店で働くと解りますが、とにかく忙しいのです。

動きっ放しでトイレに行く時間も惜しい、全ての工程をマスターするまでに一体どれだけの時間がかかるか、そんな忙しさの中で自分なりのやりがいを持ってパンと向き合うと言うのは、これまた非常に難しい。

パン作りを納得のいくまで極めたいと思ったら、それはとてつもない根性が必要ですよ(笑)

実際にはほとんどの方が辞めてしまうのが現実なのです。

いったい何が言いたいのかと申しますと、今のままの環境がとても幸せなのだと考えていただきたいのです。

自分でレシピ作りから製造、接客までを行う事が出来る環境・・・・

最高の幸せであり、究極のパン作りだと私は思います。

足りない事は、後からでも補えば良いのです。

日々勉強している事と思いますから、その姿勢を貫く事です。

しったかぶりや、にわか経験をふりかざすより、よほど立派だと思います。

何より、その様なパンと向き合う姿勢がお客様を呼ぶのだと思いますよ。

そうは言っても不安はたくさんあるでしょうから、ここで少しだけアドバイスさせて下さい。

私自身がパンの焼成について、自分なりの確信を持った時の話を紹介します。

それは、ある時コッペパンを焼いていた部下が、5分以上オーブンから出すのを忘れてしまい、見事に焼き過ぎた時の事でした。

いざ捨てようという時、もったいないと思ってパクリとした瞬間に電撃が走ったのです。

うっ・・・うまい!!

そのコッペパンは皮がガリガリになり、明らかに焦げ色になっていたのですが、うまいと思えたのです。

この時私は、パンが焼かれると言う事は、パンの表面の焼け焦げた香りがとても大切なのだと言う事を改めて知ったのです。

次がフランスパンでの事。

捏ね上げ温度がいつもよりも6℃も低くなり、その後に色々と調整したのですが、とうとう成形の段階までベターとした生地となり、これはもはやどうにもならないな・・・・とあきらめて、とりあえず焼いたのです。

完成品は見事にペッタンコで、ガリガリのボツボツで焼き色は真っ黒、とてもお店に出せるようなものではありませんでした。

残念ながら捨てようと思って、やはりいつも通りパクリとした瞬間またもや電撃が走ったのでした。

うっ・・・うまい!!!

この時はさすがに困りました(~_~;)

間違いなくうまい・・・・でも売れるようなパンでは無い、つまり見た目があまりにもひどいのでした。

この時私は考えました。

旨いと見た目はどちらが大事なのだろうか????と。

そして、どこまで考えてもやはりどちらも大事なのだとしか思えませんでした。

だとしたら、味をこのままにして、どうしたら見栄えが良くなるかを考えようと決意し、格闘が始まったのです。

コッペパンの時と言い、今回のフランスパンと言い、ただ単に毎回同じ焼き方をして満足していたら、今回の発見はなかったなと思うのです。

結局、型にはまらない発想、想像力、創作意欲なるものが作り手にはとても武器になるのだと言う事を感じたのです。

そう考えて完成したフランスパンは、今まで私が長年かけて大切にしてきた、血と汗の結晶で出来た伝統的な製法を無視する結果となったのです。

つまり、自分が納得して旨いと思えれば、それ以上に強いものなんてないんだと言う事を私は悟ったのです。

それからと言うもの、とにかく焼くと言う事の重要性を重んじた商品構成を考えるようになりました。

白いパンの作り方を質問される事が多いのですが、作らないでくださいとお答えしています(笑)

あの、生焼けの消化に悪い物体を見るにつけ、潰してやりたくなります(笑)

売れるらしいですね・・・・あのようなふわふわと柔らかいイメージのパンと言うのは・・・・

それに変わって、どなたに聞いてもハード系のパンと言うのは売れないと言います。

がしかし、本当にそうなのでしょうか???

皆様が、白いパンを作るのを止めて、自信の持てるハード系のパンをもっとお店に並べたら、お客様はこなくなってしまうのでしょうか?

私がお客様から最も多く言われる言葉がこれです・・・・

どこに言っても柔らかいパンばっかりで、噛み締めるパンが売ってないのよね~

これって、これからは何を商品化すれば良いかのヒントになりはしませんか?

パン屋は具材を売る為のお店では無いはずです。

すぐに売れるパンというのは、どこにでもあるパンです。

売れないのではなく、ないものは買いようが無いのです。

何を売りたいのか・・・・

何を売りにしたいのか・・・・

それだけ明確にしておけば、あとは謙虚さがあれば大丈夫です。

3 Comments

ミヤシタ says..."力をもらいました。"
今回は勇気が持てる文をありがとうございます。自分で決めて、作って売るというのは小さなパン屋ならではの楽しさだと再確認できました。
2013.03.17 23:27 | URL | #kCTSxNgQ [edit]
モカ says..."元気をもらいました。"
自分の現状と重なり、涙が出ました。
もう少しがんばってみようと思います。ありがとうございました。
2014.01.16 10:43 | URL | #- [edit]
ぺぺ says...""
毎日パンが残り胃が痛いです。
どうしたら良いのかわかりません。
コメントに涙です。
2015.05.06 04:50 | URL | #- [edit]

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