ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

発酵状態を表現するのは、実は難しい・・・・

今回は、コメントで頂いた質問を紹介します。

【発酵につきまとう表現について】
発酵に関しては若い(未熟)過ぎた(過発酵)と表現が使われますし大体は若い=容積が小さい・ベチャっとしている、過発酵=ブクブクでもろいみたいな安易な説明解釈?が多いですが、腑に落ちないのが仕事場でチーフの仕込む食パン生地等は分割時にはブクブクで所謂過発酵な感じでありながら焼き上がりの製品は赤黒かったり底の角張ったものやせんべい肌という所謂若い傾向がでています。

これって「吹いている」ことが過発酵ではなく本来正しい生地ならこの程度のガスは保持できたけれどグルテン構造がしっかりできてないから?ガスが溢れてブクブクになってしまうとかそういうことなのでしょうか?

つまりは生地は過ぎているのではなく若いのだと…職場では分割の時に「過ぎてるなぁ」とか安易に言われていますがずっと違和感がありもやもやしています(・_・;)
ただこの考えがあっていたとして生地が若い場合しっかり力をつけてやるような丸め成形が必要というもののブクブクしょぼしょぼの生地を強くは扱えないような…この辺りは技量のみの問題なのでしょうか?いきなりの長文失礼しました。



製パンの現場においては、様々な表現方法を用いて、生地の状態及び発酵状況などを判断したりしていることと思います。

この表現方法には恐らく数多くの言い表し方が存在し、それは責任者の出身地によるものであったり、修行した会社やお店で身に付いたものであったり、あるいは自分自身で考えたものであったりと、とにかく多くの表現が使われていることと推測できます。

質問者様の職場の場合は、ごく一般的な言い表し方であると思いますし、一番多く使われている表現だと感じます。

それらは、つまり生地の発酵が全般的に不十分なときには ”若い”と言う表現が使われ、発酵が全般的に過多のときには ”過ぎている”という表現が使われている事が多いと思われます。

さて今回の質問の内容は、非常に解りづらいかもしれませんが、実はとても大切な要素を秘めた質問だと言えるのです。

一見何が聞きたいのか・・・・そう思ってしまうほどややこしい内容ですが、今回は私なりの解釈でその質問の真意をつかんでみたいと思います。

もしかすると質問の真をついていないかもしれませんが、その際はお許しをいただきたいと思います。

まずは質問の内容を要約すると、見た目にも手触りも明らかに過発酵の生地なのに、焼き上がりは発酵不十分な時に現れる現象が出ているのはなぜなのか?

本当はそもそもが過発酵ではないのか?

それとも、過発酵でも未発酵(未熟な発酵と言う意味)の時と同じような現象が現れることがあるのか?

と言うものだと私は受け止めました。

そしてまずはその答えですが、過発酵でも未発酵の時のような現象が現れる事はあるのです。

そしてややこしいのは、その反対に未発酵の生地でも過発酵の現象が出ることもあると言うことなのです。

綿密に考えると明らかに違いはあるのですが、要するに過多でも不足でも、何かしらの現象は出てしまうことがあり、それはいったいどちらが原因でのことなのかは非常に判断が難しいと言うことなのです。

解りづらいので、一つ一つを分けて考えてみましょう。

そもそも生地の温度が低いときや、室温が低い時などに生地が冷え込んでしまうと、イーストの動きが鈍くなります。

すると、定刻に作業を行おうとすると、これは明らかに発酵不十分な状態となり、生地内部には膨らみきれなかった風船がたくさん出来てしまうことになります。

また、本来なら小さな風船がたくさんなければならない配合だったはずなのに、ガスの発生が弱いためにそれぞれが独立して膨らむことが出来ずに、まとまってしまうのです。

そうなると、一つ一つの風船はゴムの厚いものになり、混合してしまったために全体的に数が少なくなっていることになります。

この事をイーストの活動と言う視点からだけ見ると、明らかに発酵しきれないまま焼成段階まで行くことになり、それはすなわち膨らみの悪いパン、気泡が詰まって粗い事による表皮の厚く色の濃いパンの完成となるのです。

ならば、イーストの視点から見て発酵時間を長くとった場合はどうなるのでしょう。

いずれは問題なく活発な活動が行われ、風船たちは数多く膨らんでいくことになるのでしょうか。

このあたりが実は非常に難しいところなのですが、理屈では冷蔵庫のような低温度帯でも生地は発酵を続けて行くわけですから、多少温度が低いくらいなら時間の経過と共にやがては活発に活動を再開するはずですよね。

しかし実際には質問にあるように良からぬ現象が出てしまうことがあるのです。

それはなぜかと申しますと、今度はイースト菌ではなく、生地のグルテン、つまり風船の視点で考えなければならないのです。

温度が低くなってしまった生地というのは、グルテンがゆるみやすくなっています。

ですので、ある程度の時間内に膨らませてもらわないと、膨らむスピードよりもゆるむスピードの方が勝ってしまうのです。

そうなると、せっかく時間を掛けてイーストはガスを発生させているにもかかわらず、結局は膨らみの悪いパンとなるのです。パン生地というのは、定刻に分割をしたり、丸めたり、成形をしたりすることで、ガス発生とグルテンの緊張感を相互に保ちながら完成へと導くものなのです。

ですから、ただ単に時間を余計におけば済むと言うことなのではなく、この場合は緊張感を持たせる事も必要であったということになるのです。

それがいわゆるパンチであったり、分割時に強めに丸めることであったり、成形を強めに行う事であるわけです。

さらに、イーストの視点から見ると、時間を長く置くことよりも、発酵中に温度を上げる工夫があれば、生地がゆるむ前に多くのガスを注入することが出来たかもしれません。

そのようにして、総合的にパン生地全体にとって良い環境を作り、イーストにも風船にも配慮しながらのパン作りでなくてはならないということなのです。

また、忘れてはならないのはイーストと風船のことだけでは済まないと言うことです。

そうです、副材料によっても色々と考え方が変わりますし、配合もそうなのです。

パン生地のすべてがいつも同じ現象を表すわけではありません。

さらに、捏ね方によっても違いがあります。

非常に解りづらいとは思いますが、ここは出来るだけ簡単に説明しておきたいと思います。

配合によって違いがあるというのは、たとえば油脂や砂糖が多い場合は、そうでない生地に比べて生地の伸展性そのものが非常に良くなります。

それはつまり延びが良いということなのですが、逆に言うとだらけやすいとも言えるのです。

これは生地の柔らかさ、つまり吸水量によっても差が生じますが、いわゆる延びやすい生地はだれやすいということになるのです。

また、小麦粉の強さによっても大きく違い、中力粉や薄力粉の配合が多くなるほど、いわゆるゆるみやすい生地になります。

それらの生地を生地温度が低い状態で長く放置すると、とてもだらけた生地になり、まさにガス発生よりもゆるむスピードが勝ってしまった状態だと言えるのです。

また、ミキシングが十分に行われていない場合、あるいはオーバーミキシングの場合もそうですが、風船のゴムそのものが弱くなっていて破けやすい状態になっているわけですから、いくらガスが注入されても、次々に割れてしまう訳です。

こうなると、生地の温度が低いとか高いとかと言うことではなく、風船の質そのものに膨らむ力がないということになってしまうのです。

そのようにして、完成したパンになにがしかのよからぬ現象が出た場合、これらの要因すべてを探らなければならないということになるのです。

つまり、この配合の場合のミキシングは妥当であったか、生地の温度、部屋の温度、保管場所の温度は適切であったか、それに適した発酵時間配分であったか、取り扱いは生地状態に適していたか、最終発酵の段階までにそれらを修復できていたか・・・・などなどがすべてコントロール出来て初めて、納得のいくパンを作ることが出来るのです。

ずいぶんとパン作りというものは面倒なものだ・・・

そんなに色々と考えないと出来ないものなのか??

と言うと、それは完成度合いの満足度によるのです。

様々な現象は、まるでそのパン生地の生い立ちを物語るようにはっきりと現れます。

それはごまかしようのない事実なのです。

しかし、そのほとんどは見て見ぬ振りをされて売られていると思います。

と言うよりも、気がつかないで売られてしまっていると言った方が正しいかもしれません。

特に具材の多いパンに関しては、パン生地の状態は極めて見極めずらいものです。

そして、ある種どうとでもごまかせるものでもあります。

だからこそ、質問者様のようにそのこと自体に気持ちが行き、どうしてなのかと考える姿勢というものが大切なのであり、そのなぜ?と言う気持ちを持てずにパンを作っている人に比べれば、格段に成長していくはずなのです。

企業にこのような人材がいると、まさにそれは宝だと思いますし、オーナーがそのような姿勢でいないお店は、やがては競合に負けていくことでしょう。

日頃の作業のなかで、これらの問題意識を持つか持たないかと言うことは、自分を成長させると言うことだけにとどまらず、結局企業の、そしてお店の繁栄にも必須なことであると私は思うのです。

色々な意味で、このパンは製パン的に問題ありだな・・・・その様に思えるパンが焼き立てパン屋さんではたくさん売られています。

逆に、製パン的には実に見事な完成度だと思えるのが、やはり大手のパンです。

大手のパンと言うのは、研究に研究を重ね、けして妥協などはありません。

まさに完成度100点満点のパンなのです。

それとは裏腹に、焼き立てパン屋さんのパンは、全般的には実にいい加減であり、適当であり、完成度はかなり低いと言えます。

しかし、だからと言って売れない訳ではないし、美味しく無い訳でもない。

このあたりがパンと言う食品の謎でもある訳です。

正しい作り方を指導しても、別に売れているんだからいいでしょ・・・・

そう返答された事は一度や二度ではありません。

学校じゃないんだから、売れる物を作ってなんぼでしょ・・・・

製パン的にってなに??? 

無理に難しく考えてるんじゃないの・・・・

答えは客が出すんだよ・・・あんたじゃない!

そんなやり取りも、懐かしく思い出します。

美味しいパン・・・・良いパン・・・・美しいパン・・・・正統派のパン・・・・伝統的なパン・・・・独創的なパン・・・・売れるパン・・・・

皆様はどんなパンを作りたいですか?

それによって、どの完成度を自分が目指すのかによって、考えなければならない事は変わってくるのです。

売れれば良いのか????

独創的なら良いのか????

それとも、パン生地の気持ちが解るようなパン職人になりたいのか?

道を決めるのは自分なのです・・・・

2 Comments

日々悶々 says..."スッキリです"
一つ一つ紐解いていくとなるほどなと非常にわかりやすかったです。理屈ばっかりの頭でっかちでまだまだ技術が伴いませんが意識してやるのとは全然違うと思うので励みに頑張ります。的確なご回答ありがとうございましたm(_ _)m
2013.10.16 22:04 | URL | #- [edit]
かなぱん says...""
はじめまして。
難しいお話ですが詳しく解説されていて、
パン作りの中核に迫るような記事でした。
発酵時のガスの状態だけでなく、こね方や材料や
温度など、すべてに明確なイメージを持って
作らなければと、頭が下がる思いでした。
どんなパンを焼くのか・・・決めているつもりでしたが
もっと具体的な考えを持って焼きたいと思います。
ありがとうございました。
2013.10.18 13:39 | URL | #weULMdc. [edit]

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