ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

パン職人が心がけなければならない大切な事とは

昨年のいつ頃であったか・・・・?

たいしたやり取りも行っていない状況の中、とにかくすぐにでも来てほしいとの要望を受け、はるばる名古屋まで伺った時の事である。

依頼者は年配の男性で、一人で店を切り盛りしていた。

長年お店を続けてはいるが、自分の作ったパンがこのままではいけないのだと感じているのだと言う。

年齢から判断するに、好きなように好きなものを作っていればよいのではとアドバイスはしたのだが、本格的なパンも作れるようになって花道を飾りたいと強く希望され、ならばと伺った訳である。

前泊して早朝より工房へお邪魔したのだが、お会いしてすぐに出発前から感じていた違和感が現実のものとなった。 

自分で呼んでおきながら、面倒くさそうな顔をしているではないか。

しかも、どうでもいいような話ばかりを繰り返し、いったいこの人は何を学ぼうとしているのかが、さっぱりつかめないで数時間が経過した。

製パン経験で言っても私よりも大先輩のこの人は、確実にどこか変わっているな・・・そう感じてはいたが、時間がたてばやがて本題に入るであろうと、しょうもない話にしばらくは付き合っていた。

その間彼は仕込みや分割などをしているのだが、これまたひどいものであった。

ミキシングに時間など無く、分割はいい加減で、生地の取り扱いに至っては、自分の部下なら張り倒したい位ひどいものであった。

しかし彼は恐らくいつも通りなのだろう、まったく気にしている様子もない。

そんな時である・・・・

作業台の上に生イーストが出しっぱなしになっており、表面はすでに乾燥し始めているのを見つけた私は、イーストは冷蔵庫に入れて置いた方がいいのではないですか????・・・・そう申し上げた。

すると次の瞬間、そんな事くらいお前みたいな若造に言われなくても解っているよ!!!くだらない事を言ってないで、かっこいい成形の仕方だけ教えてればいいんだよ。

ふざけんじゃねえぞこのやろう!!頭に来るなっ!!という感じでどなり散らされてしまった。

私もいい加減短気だが、今回はかなりビックリした。 

そしてジエンド・・・・結局、大きくため息をついてその場を出た。

その後時間が余ったので地元の温泉に入り、ゆっくり時間をかけて帰路についた。

こんな場合は、交通費も宿泊代も請求できないので丸損である。

私は、言い方や表現の仕方で他人を怒らせる事がよくある。

あまり面と向かって言われる事はないが、何となく気まずい空気が流れる事があり、そんな時に事情を聴くとどうやら私の一言が原因で不信感をいだいてしまっているようなのだ。

あの言い方はないんじゃないですか・・・・とか、ああ言われたら落ち込むのは当たり前・・・と言うような事を何度か言われてきた。

人が何をどのように感じようと自由であるはずなのだから、その人たちの言い分は間違ってはいないと思うし、恐らくそう感じるような内容を私が口にしたのは事実なのかもしれない。

なのかもしれない・・・とはずいぶんと無責任だと思われるかもしれないが、正直いちいち憶えていないのである。

なので今回の件も、憶えてはいないがイーストの件に触れる以前に、気を悪くするような事を言ってしまっていた可能性は無いとは言えない。

というか、常識的に考えれば、そうでなければこの態度は通常ありえないだろう。

そうやって私は、人の勘所にさわるようなひどい言い方を無意識のうちにしているのかもしれない。

するとである。

私と長く付き合っているパン職人たち、あるいは部下達や仕事を依頼してくださっている方達というのは、それを長々と我慢して付き合ってくれていると言う事なのであろうか?

それとも私は相手によって指導方法をころころと変える事が出来る名人なのであろうか?

しかし名人であるかどうかは別として、基本的に私は相手が例え誰であろうとも指導方針を変えるような事は絶対に無いのである。

明らかに自分よりも技術が優れている・名声がある・大先輩であるなどの場合も、逆に主婦の方・趣味の方・若い方であっても、言う事はいつも同じ、パン生地の取り扱いを第一に考えてほしいという思いから発する言葉なのである。 

相手が誰であろうと、生地を荒らす人には優しく丸めなさいと教え、いい加減な人にはきちんと取り組むように教える、ただそれだけなのだ。

教えてほしいと言うから教えているのであって、教え方にどうこう言われる筋合いはないのである。

また、今まで関係してきた製パン関係者の中で、すぐに仕事を辞めてしまう人や、ああだからこうだからと言い訳ばかりしては、最終的にはこの業界を離れて行く人と言うのが、皆そのような人たちであった気がする。 

ブログの数少ない写真のなかの、フランスパンのクープが非常にきれいだというお褒めのメールをたくさんいただく。

そして、どうしたらそのようにできるようになるのか?という質問も実に多い。

実際に指導に来てほしいという依頼も少なくはない。

褒めていただく事は誠に恐縮するが、教えてほしいという人達とのやり取りでは、本気を感じた事は今だかつて一度もない。 

なぜなら、教えてもらえば上手になると心から思っているようだからである。

時折触れてきた事だとは思うが、技術は教えてもらうものではなく、盗むもの、感じ取るものだからである。

何年も何年も悩み、そして長い歳月をかけて磨きあげてきたものを、どう教えろと言うのか?

教え方などある訳がない。

何回来てもらえれば出来るようになるかと言う問い合わせもあるが、正に愚の骨頂であろう。

本当に学ぶ気がある人だったら、自分から来ている。

皆そのようにして師匠を見つけ、何があっても学びきるまで愚痴をはかないのが、本当に学ぶという事なのではないだろうか?

フランスパンに限らず、良いパン、美しいパンを作ろうと思ったら、まず考えてほしい事がある。

それは、高品質のパンを作るにあたっては、最高の気配りが出来なければ無理だと言う事である。

どういうことか? 

それは、例えばたくさんの量のパン生地がホイロに入っていたとする。 

温度と湿度だけは調整してあるので、後は入れておくだけ・・・・と言うのがほとんどの場合であろう。 

しかし、実際にはホイロの中と言っても場所によって温度も湿度も大きく違うものである。 

どの生地をどこへ入れるか、または時にローテーションをして全体が安定的に発酵するように気配りしているか、そこが非常に大切な部分なのであるが、それを実行している人を私は見た事がない。

すると、結果としては大小大きさの違うパンが出来上がる事になるのだ。

また、分割時に生地が乾かないように配慮したり、分割はじめと最後の方では力加減を変えたり、成形に合わせて形を作っておいたり、数えやすいように並べて置いたりと、とにかく配慮しなければならない事は山ほどあるにもかかわらず、まったくの無造作に作業されている光景が多く、どうでもいいおしゃべりが多い工房もある。

良いパンを作る事、毎日品質を安定させる事・・・と言うのは、実はそんなに技術を要するものではない。

ただ必要なのは、生地を乾かしてはいけないとか、時間を守らなければならないとか、実に基本的な事を忠実に実行できるかどうかという事だけなのである。

そして何より、イーストを常温放置してはいけないというようなごく当たり前の基本中の基本を、知っているのではなく実行すること、そしてそのような基本に常に思いがいくかどうかという事なのである。

私の知る限りでは、家庭レベルのパン作りでは、基本に忠実にされている場合が多い気がする。

それなのに、それを商売として行っているパン屋さんが、基本を無視していては本末転倒であろう。

技術が上達すればするほど、熟練してくればしてくるほど、基本は大切なはずだ。

そして、どれだけの技術者になったとしても、基本を省略してのパン作りはあり得ないのである。

要するにどれだけパン作りに没頭出来ているかと言う事なのかもしれない。

小規模のお店というのは、店主が王様になりがちである。

すべてを自分で決める事が出来て、誰も文句を言う人がいないからであろう。

大きい組織では人間関係が煩わしく感じる事が多いと思うが、チームプレイであるがゆえに基本を大切にしていると思われるし、それなりのマニュアルのようなものがあると思う。

しかし個人店では、すべてがオーナーの人となりにより決まるのである。

キャリア・・・・と言うものが、傲慢へと向かうのか、それとも謙虚へと向かうのか・・・・

大いに自問自答したいところである。

フランスパンのクープが毎日同じように割れないというパン屋さんからの質問が多い。

私の場合、クープが綺麗に割れない事は一年を通して恐らく一度も無い。

しかし、逆に言うと今すぐにでも割れないクープを作る事が出来る。

それには、ほんの少しだけ・・・ほんの数分間だけ生地を放置しておけば、表面が乾燥して見られたものではないフランスパンになるからである。

つまり、確かに成形などの技術は必要ではあるが、ほんの少し油断しただけで、ほんの少し生地から気持ちが離れただけで、クープは美しくならないのである。

その、ほんの少しに気持ちが行くかどうか・・・・

そんな些細な気配りだけが、繊細さを生むのだと思う。

あらためて考えたいと思う・・・・

小さい事・細かい事・基本中の基本からしか本筋はつかめないのだと言う事を・・・・


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