ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

夏と冬で発酵時間が違ってくるのは何故??

こんな質問をいただきました。

パン屋に就職してから丁度2年が経過し、仕込み・成形・オーブンなどの一通りの工程を全て憶える事が出来ました。
お陰様で毎日充実したパン職人生活(まだまだ半人前ですが)を送っております。有り難うございます。

いつも色々と質問させて頂いているお陰で、一つ一つ納得しながらパンを作る事が出来ている事に大変感謝しております。

そこでまたしても疑問が湧きまして質問させて頂きたいのですが、今の時期になるとどうしても発酵が遅いと言いますかホイロに時間がかかると感じているのですが、それはやはり冬は寒いから生地が全般的に冷えてしまうと言う事なのでしょうか?

工房はある程度暖房がきいているとはいえ、当然夏よりは寒いのは解るのですが、ホイロの中の温度は夏でも冬でも同じはずなのにどうして発酵が遅くなるのでしょうか?

はじめは考え過ぎかとも思ったのですが、お店に掲示してある焼き上がり時間に間に合わない時が多々あり、どうしても冬場は少しはやめに出勤しなければならなくなっています。

夏場はイーストを減らしたりすると聞いた事があるのですが、逆に冬場はイーストを増やしたりして時間を調整する必要があるという事になるのでしょうか?

とてもアバウトな質問で、また先生に怒られる事になると思うと正直聞くのはやめようかと考えたのですが、勇気を出してお聞きしたいと決めました。

今現在はオーブンを担当しているのですが、今の自分に出来る事があるとすればどのような対策を行えば良いかアドバイスいただけないでしょうか・・・・


この質問者様は、独立を目指しパン屋で修業に励んでおられる方なのですが、とても細かい所に気が行くタイプの方で、そのお陰でこちらこそいつも基本に立ちかえる事が出来、有難い限りなのです。

そして今回のこの質問・・・・実に鋭い!!

ご本人はアバウトで・・・などと言っておられますが、これはパン屋の全ての工程を知り尽くした上でないと感じる事の出来ない、とても貴重な質問であると言わせていただきます。

私達パン屋は、概ね週一回の休み、あるいはたまには週に二日の休みがある人もいると思いますが、それ以外は盆であろうが正月であろうが、全くおかまいなくパンを作り続けている事と思います。

そして更に、お店のオープン時間に合わせて少しでも多くのパンを品揃えできるように、それこそ戦場にでもいるかのような緊張感とスピーディーな動きで、しかも毎回必ず同じ品質に仕上がるように工夫しながらパンを作っている事と思います。

真夏であろうと真冬であろうとです・・・・・

しかしこれが、実はどれほど技術と理論が必要な事であるかを知っている・・・解っていると言う方がいったいどれ位いるでしょう・・・

真冬と真夏のパンの品質をまったく同じに出来る技術というのは、恐らく製パンにとっては究極の技術であると私は思っています。

冷凍生地を扱うお店が増えてきたここ数十年では、そんな心配をした事が無いと言う人も多いかもしれませんが、全て手作りのお店では、この問題に常に立ち向かわなければなりません。

しかし現状は、立ち向かうと言うよりも、そもそも質問者様のように季節によってなぜ発酵時間に変化が生じてしまうのかを疑問にさえ感じていない人も多いと思います。

夏はバンバン発酵してくる・・・そりゃ暑いからでしょ・・・

冬はなかなか膨らんでこない・・・そりゃこれだけ寒ければね~

こんな認識でパンを作っている人・・・・以外に多いのではないでしょうか。

温度変化というのは、何も真夏と真冬だけの事ではありませんよね。

毎日毎日ある程度の温度や湿度の変化がある事は誰でも知っています。

ですから、その変化に敏感なパン職人は、毎日気が抜けません。

真夏の外気が40℃近く、真冬の外気がマイナス10℃近くと言う環境でパンを作っている方も多いと思うのですが、そうなるとその差は50℃にもなります。

しかし、毎日毎日の変化で言えば、昨日と今日では最小では1℃位であったり、最大でも10℃位ですよね。

日々温度や湿度と敏感に向き合ってさえいれば、極端な温度変化に対応する必要と言うのはないのです。

だんだん寒くなり、だんだん暑くなっていくのが季節と言うものなのですから、日々のコントロールがすなわち季節をコントロールする事につながる訳ですね。

さて、今回のご質問にあるように、冬場はホイロに時間がかかってしまうというのは本当だと思いますか?

ホイロの中の温度設定が常に同じだとすれば、冬であろうと夏であろうと同じように膨らんでくるはずだ、そうは思いませんか?

だって配合を変えていないとすれば、理論上はそうなりますよね。

しかし実際には、冬場は早く出勤しなければ間に合わないと書かれていますし、そうしていると言う方も多いと思います。

またはそうならない為に、イーストを増やしたり改良剤を増やしたり、あるいは捏ね上げ温度を上げたりと工夫をしている方もいらっしゃる事でしょう。

いずれにしても、冬場は理屈抜きで発酵に時間がかかる傾向がある、あるいはなかなか膨らんでこない気がするという事は誰しもが感じているのではないでしょうか?

パン作りの難しさというのは、まさにこの問題に直結していますよね。

ただでさえも成形などの技術の違いにより、膨らみ方や完成度が大きく違うのに、温度や湿度によっても違ってくると言うのですから、とても厄介ですよね。

しかし逆にこの問題をクリヤーすれば、相当安定したパン作りが約束されるような気がしませんか?

アバウトなようで、実は核心を突く今回の質問。

じっくりと細かく分析してみたいと思います。

真夏は生地がどんどん発酵して来て困る・・・・

真冬は生地がなかなか膨らんでこない・・・・

何となく体感的にそう感じながらパンを作っている人がいると思います。

ではそれはなぜだと思われますか?

膨らむとか膨らまないとかに直接関係してくるのは、ズバリイーストなどの酵母の量ですよね。

しかしこれが夏も冬も同じだとするならば、膨らむ膨らまないと感じるのは温度や湿度によるものとしか考えられません。

と言う事は、夏場と冬場の工房内の温度や湿度を同じようにすれば、同じように膨らんで来るのではないかと思うのですが、皆様はどう考えますか?

あれ・・・いきなり極論に到達してしまいましたかこりゃ???

実は、工房内の環境を一定に保つ事が出来れば、年間を通して安定的なパンを作る環境が整うと言うのが真実なのです。

しかしそうはいかない所が難しい所なのですね。

真冬には相当数の加湿器が必要であったり、暖房もかなり必要になります。

逆に真夏は相当パワフルな冷房が必要でしょう。

つまり、相当の経費がかかると言う事になりますよね。

だからこそ小さな個人店では真冬は凍えながらパンを作り、真夏は大汗を流しながらパンを作っているのが実情なのではないでしょうか。

では、そんな工房環境を整えられない場合にはどうしたらいいのかと言われれば、それは酵母を増やしたり捏ね上げ温度を上げたりする以外には無いと言えると思います。

しかしそれは、見た目もそうだと思いますが、季節によって違うパンになると言う事に他なりません。

理屈で考えれば、間違った発想であると言わざるを得ないでしょう。

完璧にとまではいかなくとも、職場環境を整える事、温度と湿度をコントロール出来る環境を整える事以外に、年間を通して安定したパンを作ると言う事は難しくなると思います。

工房全体の温度と湿度を、年間を通して同じにするにはとてもお金がかかります。

ですから、生地を収納する発酵室だけでも用意する事が出来れば、経費は抑えられるはずです。

捏ね上がった生地が・・・・と言うよりも、捏ねている時点から、最終発酵を終えるまでの間で、いかに温度変化を与える時間を短くするかと言う事がとても大切になります。

発酵室はあっても室温はそのままと言うような場合は、ミキシングの最中でも生地に影響を与えますし、分割成形の時間を短くしなければなりません。

そして冬場であるならば、分割成形で生地がやや冷えてしまった分、ホイロの温度と湿度はやや上げておくなどの工夫も必要でしょう。

とは言え、それにも限度と言うものがありますから、例えば寒いからと言って生地温度を35℃位に捏ね上げ、分割成形で生地温度が25℃まで下がってしまい、それを補う為にホイロを40℃以上の高温に設定すると言うような場面によく遭遇しますが、これでは生地温度に変化を与え過ぎてとても美味しいパンにはなりません。

このような、季節によって極端に品質がばらつくお店と言うのは、残念ながら売上もばらついてしまうのです。

ばらつくだけならまだしも、存続すら難しいと言わざるを得ないでしょう。

安定して美味しいパンを作るには、原材料にこだわることももちろん大事な事だと思いますが、環境を整えることも実はとても重要な事なのです。

さて、夏場と冬場のような極端な温度変化をパン生地に与える事が、すなわち品質劣化を招くのだと言う事はご理解いただけたと思いますが、もう少し踏み込んで生地の側から温度と湿度について考えてみましょう。

工房が広い場合などは、真夏に冷房で温度をコントロールしようとすると、それなりの風力が必要になります。

つまり、冷気がとてつもない勢いで生地にも当る事になります。

そうすると、いくら温度としては安定したとしても、冷房の風によって生地が乾燥してくる事になります。

ですから、生地を乾燥させないように充分に配慮する必要があるのです。

また、真冬などの場合も、エアコンにより温度的には安定したとしても、湿度は逆に下がってきたりしますので、相当加湿する必要があるのです。

夏に温度を下げる行為と、冬に温度を上げる行為は、必ずしもパン生地にとって同じ条件ではありません。

何が違うのかと言いますと、それは温度と湿度と風などの質なのです。

これらの条件の相乗効果によって、生地に直接当る湿気というのは大きく違ってきます。

冬場だと、分割の最中でも生地はすぐに乾いてくると思いますが、これが梅雨の時期になると逆にべた付いたりする感じになる事があると思います。

それ程に季節によって湿気の質が違うのです。

ですので、冬場はとにかく外気に生地をさらす時間を極力減らす事、そして梅雨時期などは手粉を上手く利用して、生地表面を適度に乾燥させる必要があるのです。

このようにして、生地の側から考えると、年間を通して随分と環境が違うと言う事が解ります。

そして最終発酵のホイロですが、いくら設定が同じであっても、開け閉めの度に温度と湿度が変化しているのです。

極端な場合、蒸し暑い梅雨の時期には、ホイロの中よりも湿度が多い日もある位ですから、ホイロから出した生地が室温でもなかなか乾かないと言う事もあるでしょう。

逆に、真冬などは一度の開け閉めで完全に中の生地は乾いてしまうでしょう。

今回の質問者様のホイロが遅いと感じられる現象は、恐らくそのほとんどがホイロの開け閉めによるものであると考えられます。

ですので、開け閉めを行わないと言う事は不可能ですので、多少湿度を高めにしておく事と、開ける回数を少なくする工夫が必要だと思います。

また、ホイロ近辺でストーブでお湯を沸かすというような配慮ができれば、改善されると思います。

パン生地と言うのは、温度の変化に敏感なのはもちろんの事、一番の大敵は乾燥することですから、その事だけは充分注意して、冬場のパン作りを行っていただきたいと思います。

それと冬場のパン作りの注意点をもう一つ。

手粉を出来るだけ使わない事です。

冬場と言うのは、少しだけ生地を室温におくだけですぐに表面が乾燥してきます。

つまり、ほんの少し待てば、手粉をふったのと同じ効果が生地表面に現れると言う事になるのです。

それなのに、冬場でも手粉をバンバン使うと、それが乾燥の原因となりますので、ご注意くださいませ。


4 Comments

日々悶々 says..."捏上温度について"
いつもながらとても勉強になるなと思い拝見しております。私も同じようなことで悩んでいたりするのでまた励みにもなります。今回のお話と似ている?かはわかりませんがまた一つ質問させていただきたくコメントしました。
勤務先の店舗は暖房の吹き出し口がミキサーのほぼ真上にあり暖房をかけるとミキサー内の生地温もすごい勢いで上がるので少し回しては温度を計って調節しています。
そしてほかに暖をとれるものがなくミキサー周辺から流れていく風で工房を温めるので切るとすぐ工房が冷えまた暖房を入れるという形です…
そこで水温をかなり下げてなるべく暖房を長くかけるようにしています。
そんな中で疑問があります。
一つは水温が低いと繋がりにくいことやイーストの活性低下などが言われますが暖房でどんどん生地温度を上げていくことと高温の水で仕込むのでは根本的に違うと感じています(環境的に仕方ないとは思いますが)
もう一つは捏上24℃を目指すような生地で直前まで20℃近くのものがものの数で24℃を超えてしまうようなことがあります。この場合捏上げた温度だと言えるのでしょうか?もちろん決まった時間は捏ねますが捏ねて上げた温度というより暖房で無理矢理上げた温度でもいいのか?という点です。
毎回簡潔でなく見苦しい文章で申し訳ありません。
2013.12.09 21:56 | URL | #- [edit]
しずかな朝 says..."日々悶々さん、こんにちは"
ミキサーに向かって強烈な温風が吹く・・・・と言う事ですか??

それは何よりもまず、温風が別の方向へ行くように何か工夫すべきではないでしょうか?

温風で温めようと、例えばミキサーボールを丸ごと湯煎で温めようと、過度に生地温度が上がるような環境では、それなりの生地が完成する事になります。

ご質問では、要するに摩擦上昇ではなく意図的に入れ物や外気によって暖められた事による捏ね上げ温度では、捏ね具合に違いが生じてしまうのではないかと言う事だと思うのですが、それはもちろんそうですね。

しかしだからと言って、ミキシング時間が半分になると言う事でもないでしょうから、後は生地の状態を見極めてと言う事になると思います。

実際に生地に触れてみない事には、こうですとまでは言えない所です。

いずれにしても皆様はそれぞれ、かなり変わった環境でパンを作っていらっしゃるのですね。

もっとすごい環境の方もたくさんいらっしゃいます。

しかし、そのあたりをきちんと考えて工房を設計すると言う所から、すでにパン作りは始まっていると言えますので、本気で取り組むなら、お金をかけてでもレイアウトを変更するなどして、環境を整えるべきであると私は考えます。

経費をかけずに工夫する・・・と言うのにも限界があります。

仕方が無いから方策を考えると言うのではなく、本当に仕方が無いのかと言う事も真剣に考えてみてください。

どこまでの完成度にしたいのか・・・・そこに尽きると思いますよ。
2013.12.11 15:25 | URL | #- [edit]
日々悶々 says..."ありがとうございます"
今の職場は商業施設内にあって空調を変えるには建物ごと修繕が必要らしく仕方ないのが現状のようです…正直自分が独立するなら本当に環境構築から細かく配慮してやらねばなと常々痛感しています。こんな質問にまでお返事ありがとうございました。
2013.12.12 21:15 | URL | #- [edit]
しずかな朝 says..."網代様へ"
> お急ぎの様子でしたので、すぐに返信したのですが、どうやら送信不可能のようです。
>
> 恐らくはアドレスが間違っているものと思われますので、今一度メールボックスよりご連絡いただきたいと思います。

又は、スマホの設定がパソコンからのメールを拒否する設定になっているのかもしれません。

ご確認ください。
2013.12.14 15:19 | URL | #- [edit]

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