ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

責任の所在はどこにあるのか?誰にあるのか??

とある大手企業が展開する冷凍生地専門のベーカリー。

それをグレードアップさせた手作り感とこだわりを出したいとの思いから、新規事業として子会社を作り、ベーカリーとレストラン、そして雑貨屋さんなどを併設して展開している会社からの依頼がありました。

なんでも、ベーカリーの利益率がとてつもなく低くて困っているとの事。

その原因究明の為にお邪魔する事になった訳ですが・・・・

閑静な住宅街にあるそのお店は、実に豪華な作りで、レストラン・雑貨屋さん・ベーカリー・そしてなぜかプチチャペルまである、とても広い、そしてとても贅沢なたたずまいなのでした。

さすがは親会社が大手だけの事はある・・・そんな印象が初めの印象でした。

そして初めに通されたプチチャペルの事務所。

とても事務所とは言えないほどの贅沢な作り。

そして何故か受付と言う場所に制服の女性が二人も座っていました。

なぜプチチャペルなのかと言いますと、座席が10人分程しかないからです。

ここで少人数の式を上げてから、レストランで披露宴を行うのが目的なのだとか・・・・

まあ、専門でもない私がこの部分にどうこう言う訳ではないのですが、何となく意味不明な感は否めませんでした。

そして工房へと案内され、チーフを紹介されたのですが、この方は某有名店でお店を取り仕切っていた方らしく、どことなく偉そう・・・と言うかきっと偉かったのだろうなと思わせるような出立ちでした。

伺った目的は話されてはいない様子で、特に不機嫌な感じではなかったのでひとまずは助かりました。

一通り商品を店舗にて確認した所、驚く事が解りました。

それは何かと申しますと、とにかく価格が安いのです。

手軽に買い求める事が出来るのが手作りの良さである・・・その様なコンセプトなのだと言う事でした。

実は驚いたのはその部分ではありません。

その価格にしては、パンがやけにボリュームがあると言う事なのです。

おまけにすべて具材はたっぷり、溢れんばかりに入っているではありませんか。

このお店の日商は約10万円との事。

特に人気なのがこちらの商品で・・・・と紹介されたのが、何とこぶし2個分もあろうかと言う大きさのパイ生地に、生クリームが溢れんばかりに入ったいわゆるパイシューで、何と価格が100円なのでした。

特に何も考える必要もなく、一目見ただけでこれらの商品はすべてまったく原価無視の価格設定であると言う事が解りました。

原価計算はしていますか?と聞くと、特にはしていないとキッパリ。

更に驚きは続きます。

工房の中には調理室というものがあり、何とその中ではパートさんが4人も働いていました。

伺った時間が御昼時の11時頃だったのですが、すでに全員でお茶をしていました。

ちなみに調理パンの数と売価を計算した所、約9千円でした。

いつもこの程度の数しか売れないとの事で、それでも4人は必ず出勤しているとの事。

そして一人の勤務時間が8時から14時までの6時間である事。

これが平均的な時給で働いているのだとすれば、おおよそ1万9千円の人件費となります。

1万9千円かけて、わずか9千円の調理パンを作る・・・・

これは専門家を呼んで調査を・・・そんなレベルの事なのだろうか????

私を呼んで下さったマネージャーと言う役職の背広姿の色男がいるのですが、そもそもこの人はどんな仕事を任されている人なのだろう???

何ともお邪魔して1時間もしないうちに、私はとてつもない迷宮に迷い込んでしまったかのような思いがよぎるのでした。

そして驚く事に、一般的にはベーカリーの原価率は約3割、粗利が7割という現実を大きく逆転し、原価率が7割を超えていたのでした。

そして先程の調理室の人件費。

それだけではありません。

工房内にもチーフを含め、何と男性社員が3名と言う体制。

いくら親会社が大手だからとはいえ、よくもこんなことが許されているものだ。

しかしそれでも、その原因を究明したいからこそ依頼をされた訳ですから、何とかしたいとは思っているであろう。

そんな、何とも言い難い依頼内容と、まるで見たまんまの、分析などまったく必要のない報告をする事となりました。

そして翌日、工房内に少々お邪魔して、作業工程を見せていただくことになりました。

予想に反して、早朝5時からの真面目な勤務態度でひとまず安心・・・・かと思われましたが、やはりそうはいきませんでした。

一つには、オール手作りだと言っておきながら、親会社ではなく他社の冷凍生地を一部使用していた事。

更には、もっと許せない現実がそこにはあったのです。

それはチーフの作業態度でした。

何がひどいのか・・・・・

彼は仕込みを担当しているのですが、ミキサーが回っている間、レストランエリアへ行って煙草を吸っているのです。

もちろんコーヒーも。

ですから、ミキシングのほとんどはオールインで、しかも全て中速で回していました。

その方が長く一服出来るからですね。

そしてその時の態度・・・・・

テーブルの上に足を乗せ、のけずりかえって座っていたのでした。

私が工房ににいるのにですよ。

後の二人は一生懸命に働いているのですが、このチーフは、生地が捏ね上がると番重の中に生地を放り投げるかのように入れ、捏ね上げ温度すら計りません。

そして次の生地を回し始めると、またしても一服に行ってしまうのです。

私も随分と色々な人に激を飛ばしてきましたが、この時の彼にはとてもそれでは気が済まない・・・・そんな気持ちでいっぱいになりました。

他の二人に、いつもこうなのかと聞くと、しぶしぶうなずいていました。

こうして、何とも気分の悪い1日が過ぎていったのでした。

報告の日には、今回招いて下さったマネージャーさんのほかに、主任、部長、そして子会社の社長と言う方も同席されました。

部長と社長というのは、このお店以外にも仕事がある様で、かけ持ちと言った様子でした。

そしてマネージャーさんと、その下に営業を兼ねた主任と名乗る女性社員がいました。

いずれにしても、この方々の給料は何で補われているのか???そのように感じながらも、とりあえずは今回の依頼の趣旨である利益率がなぜ最悪なのかと言う部分について説明をさせていただきました。

価格が異様に安い事、原材料を使い過ぎている事、他社の冷凍生地を使用している事、完成品冷凍パンまで使っていた事。

これらに加えて、製造経費、つまり人件費をかけ過ぎである事、そして最後に重要な提案をする事となりました。

それは、ただちにチーフを切る事です。

この人が本当に有名店にいたと言う事は履歴書で確認しました。

しかし、私が見た現実は、製造の現場にいてはならない、あってはならない光景だったのです。

この人にも当然のことながら家族があります。

しかし私には、今回の依頼の如何に関わらず、このような人間は許せないのでした。

ですので、条件として今すぐに辞めていただければ、3か月分の給料をお支払いすると言う事を提案しました。

オープンして5年が経過しようとしていたこのお店において、それでもオープニングから一緒に働いてきたスタッフで、しかも責任者を即座にクビにするなど、通常ならとても聞き入れられる提案ではないはずなのですが、それまでの説明と、何となくは感じていたチーフに対する不満もあったようで、以外にもあっさりこの提案は受け入れられたのでした。

そして本人も、次の日には早々に辞めていったのでした。

私も久しぶりに本気になり、最高の怒りの表現方法を今回は取らせてもらった訳ですが、それがあっけなく通ってしまった事には、いささか違和感を感じてはいました。

が、予想通り残りの二人は生き生きとなり、その後調理室の4人中3人には申し訳ないのですが、2ヶ月後には辞めていただく事になりました。

こうしてその後は残りの二人の社員の方と連携を取りながら、色々と商品を変更していく事になった訳ですが、やはり5年もの間超低価格で販売してきた実績は、そう簡単には変える事が出来ませんでした。

特に人気の商品ほど、とてつもない原価がかかっていましたので、すぐにでも変更したい所なのですが、売れ筋を販売中止にするという事は、それが即座に売上の低下を生む事となったのでした。

環境が整い、やる気を出して取り組んでいるスタッフからすれば、それでもやりがいのある毎日がようやく訪れ、私としてもアドバイスのし甲斐があると感じていた矢先の事でした。

親会社からの通達で、閉店と言う報告が入ったのです。

なぜ閉店なのか・・・・

それは、レストラン・雑貨、そしてプチチャペル共に大きく売り上げを落としていたからなのでした。

ならば、何の為の依頼であったのか・・・・

そもそも、専門分野では無いとは言え、ベーカリー以外の問題点は全て指摘してきたはず・・・・

しかし何らそれらには手を付けてはいないと言う事が解り、私は大きな勘違いをしている事に気がついたのです。

それは、私がクビにしたあのチーフは、確かにガンであった。

しかし実は、もっと大きなガンがそこには出来ていたのだと言う事でした。

そもそも、いくらベーカリーだけを適正な原価率や人件費率に持っていったとしても、実際には他の部署では何ら手を打つ事をしていない。

と言うよりも、手を付ける気すらない人間達だからこそ、こんなに解り易い事でわざわざ外部の人間に依頼してきたにすぎなかったのだと言う事に気がついたのでした。

そして驚く事に、現場の人間は全て退職なのですが、主任を初めマネージャー、そして受付にいた女性社員はすべて、他の部署への配置転換で守られているではありませんか。

レストランのコックも、パン屋の社員2名も、守られる事無く廃業による退職を迫られていました。

本来なら、いったい誰の責任でこうなったのか???

責任の所在はどこにあるのか????

どうして責任者が何の責任も負わずに、ただ単に移動で、現場の職人は退職なのか???

いくら怒ってみた所でどうにもならない現実。

企業で働く人には皆、大なり小なりこのような理不尽な扱いを受ける事がありますよね。

美味しいパンを一生懸命に作り、お客様に喜んでいただきたい・・・・

そんな人間的な思いとは裏腹に、経営と言う現実は様々な顔を持って私達に襲いかかってくる。

そんなものと闘いながら、そして時にはかわしながら、それでもあきらめずに今日もパンを作る人達がいる。

そんな、けして負けない人達に幸多かれと祈ります。


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