ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

油脂投入のタイミングで、何が変わるのか・・・・

パン生地をこねる際に、油脂をどの段階で入れるかという事に関しては、パンを作るのが仕事の人も、趣味で作られる人も、特に疑う事もなくミキシングの中盤に入れている事と思います。

それは、レシピに低速何分中速何分、油脂を入れて何分・・・・というように書かれているからであり、それがなぜそうなのか?と言うところまでは別に考えて作ってはいないと思うのです。

しかし現実には、油脂をどの段階で入れるべきかという点には、若干の意見の違いがパン職人の間にもあるのです。

それは、具体的に言うと、初めから投入しても構わないと言う人、中盤で入れるべきだと言う人、そして、生地が出来上がる寸前で投入すべきだと言う人に分かれるのです。

もちろんこの事により、ある程度生地の完成度合いが違ってくるという事は、パン職人であれば承知しているはずです。

それを承知したうえで、自分はこのようにしているし、そうするように指導している・・・・と言う方は多いと思います。

しかし、なぜそうするのかを理解しないまま年月が経過したパン職人が、次の職場に行ったら、まったく今までと違っていて困惑してしまった・・・・という話も実に多いのです。

そうすると、良いも悪いもなく現状のやり方に従う以外に無い訳ですから、尚更訳が解らなくなってしまうようです。

職人によって、様々なやり方があるのは至極当然の事だから、その点は逆らわずに従わざるを得ないという話をよく聞くのですが、理解することをせずに、言われたからやるというスタンスは、正直いかがなものだろうと思うのです。

油脂をどの段階で入れるかによって、完成品はどう変わっていくのかということは、実は製パンにとってはかなり重要な事だと思われます。

あからさまに完成度が違ってくる訳ではない・・・と言う配合も勿論ある訳ですが、逆に言うと相当違うものになってしまう事も実はあるのです。

今回は、そのあたりについて、少し説明しておきたいと思います。

油脂と言うのは油分ですから、当然ミキシングの際に生地のグルテン形成に影響を及ぼします。

具体的には、ミキシング中は摩擦などによって、小麦粉中のたん白が押されたり、伸ばされたり、叩きつけられたりすることで、より強い風船ゴムを作っている訳ですが、そこに油分が入れられることにより、お互いがツルツル滑ってしまい、風船作りの邪魔になってしまいます。

と言う事は、ミキシングの初めの段階からこれらの油脂分が投入されてしまうと、グルテンの形成に時間がかかることになり、油脂量が多い場合などは、その量と比例してミキサーの中の生地は滑り続け、なかなか生地が完成してこないという状況になります。

そのように考えると、油脂を初めの段階から入れるという行為は、そもそもミキシングの意味を台無しにしてしまう行為であるとも考えられます。

しかしそれが明らかにミキシングを阻害してしまうと感じられるには、約8%以上の配合の場合であり、それ以下であれば、ややミキシングに時間がかかってしまうという程度でしかないかもしれません。

では、相反して、ミキシングの最終段階、つまりほとんどのミキシングが終了した頃に油脂を投入するという場合はどうでしょう。

この場合、ミキシングそのものにとっては、油脂を入れると言う行為は少なからず捏ねる事を阻害する訳ですから、油脂投入のタイミングは、遅ければ遅いほど生地の完成は早くなるはずですし、グルテン形成についても、最良の形で行われることになると思います。

であるならば、なぜほとんどのレシピには、油脂が中盤で入るようになっているのでしょうか?

それは、一つ考えられる事は、特に油脂量が多い時には顕著だと思われますが、油脂を最終段階で入れると言う事は、その後に生地にきちんと入りこむのに時間がかかる場合がある事、もしくは、きちんと混ざらずに油脂が残ってしまう場合があり得るということが考えられるのではないでしょうか。

また一方では、グルテン形成が非常に強固に完成してしまっている生地というのは、非常に弾力があり、そこに油分である油脂を混ぜ込むと言う場合には、弾かれてしまって、なかなか油脂が混ざり合ってくれないという事も起こり得るでしょう。

そうなると、むしろ余計にミキシングの時間がかかることになり、本末転倒となる可能性が大きくなります。

また、別の考え方としては、せっかくグルテン形成が最良の状態に仕上がった生地を、その後に低速で長時間捏ねると言う行為が、はたして生地にとって良い事なのかどうかという問題があります。

これは、例えて考えるならば、ミキシングを終了した生地を、その後に数分間に渡っていじくり回している行為と同じだと考えられはしないでしょうか?

すると、結果としてはどうなるかと考えてみますと、せっかく弾力がMAX状態で、張りがあった生地で、しかも風船の数と質も程良い状態の生地なのに、それをいじくり回していくということは、まるでプチプチを潰していくが如く、生地にダメージを与え、張りもコシも台無しにしてしまっている可能性があると言う事になります。

これでは、総合的に考えると、とてもよいミキシングであるとは判断しがたい結果になってしまいますよね。

そのようなことから、油脂を生地中に出来る限り効率よく浸透させる為には、ある程度はグルテン形成を行った後の、しかし混ざりやすい状態で投入できるタイミングは、と言う事で考えだされた答えが、中盤くらいで投入するのが良いのではないかと言う事なのではないでしょうか。

そのように考えていくと、油脂をミキシングの前半・あるいは後半に入れる行為は、不適切なだけだと考えられてしまいがちですが、パン生地と言うものは、そこに個性を持たせるという考え方もできる所が面白いところなのです。

つまり、それらの利点と欠点を知った上で、あえて戦略的に行おうと言う考え方があるのです。

そのあたりを少し説明しておきましょう。

ミキシングにおいて、グルテン形成を行うという目的だけを考えた場合、確かに油脂は邪魔なだけの存在であると言えます。

しかし、パンの香りを向上させ、しっとり感やソフト感を得たいからこそ油脂は必要不可欠なのであり、むしろ油脂なしの生地の方が少ないのが現状のはずです。

そして、同じ油脂を入れるパンであっても、その全てがしっとりソフトである必要もないのです。

より油脂らしさを強調させたり、食味をコントロールするというのも、油脂の大きな役割だと言えるのです。

油脂を初めの段階から投入した生地と言うのは、上記の説明の通りグルテン形成が遅くなります。

つまり、お互いが滑ってしまってうまく風船が作れないと言う事になるのですが、そのようにして完成した生地と言うのは、油脂分が風船の中に完全には浸透しきれていません。

つまり、悪く言えば混ざりが悪い状態であり、良く言えば油脂分が表面に出てきている事で非常に強調されている状態であると言えます。

このような状態の生地と言うのは、常に表皮を油脂で覆われている為に、分割成形などの摩擦に強く、形が整いやすくなります。

そして、焼成したパンの食感は内層がソフトで、クラストはもろく、歯切れのよいパンになります。

この現象は、油脂を溶かして入れた場合の状態に似ており、液状の油を投入した場合にも同じような効果になります。

解りやすく言うと、歯切れが良く、弾力が出過ぎないおとなしい食べ口の、油脂の香りが前面に出たパンになるということです。

その効果を利用して、あえて香りの強い油脂を選択し、食味を改善するというのも一つの手段になると思うのです。

また、溶かした油脂をあえて後半に投入することで、少ない油脂量でも風味を最大限に発揮させることも出来ます。

この場合、量が多いとどうしても分離が付きまとう事になりますから、注意は必要です。

以上のように考えていきますと、基本はあくまで中盤で油脂を混ぜる事が、一般的かつ合理的だとは言えるものの、それを逆手にとって個性として生かすと言うのも、製パンとしてはありなのだと言えるのではないでしょうか。

要は、それぞれの意味合いを理解し、目的と手法が噛み合っているのかどうか、もしかしたらもっと個性を出せる投入法があるのではないか、そのあたりを見極めていく事が大切なのであり、何よりもまず、何度も何度も自分のパンを食べる事だと思います。

パン生地中の風船の質とか量というものは、どの小麦粉を使うかによっても大きく変わってきますよね。

同じように、油脂も生地に混ざり易いものもあれば、なかなか混ざらないものもあります。

どんな油脂を使い、どのタイミングで投入するかというのも、その時点から個性づくりが始まる事になります。

ちなみに、油脂の量が多い場合は、初めの段階で少しだけ投入しておき、残りは中盤で入れた方が、全体的には早く混ざります。

このように、何度かに分けて投入するということも可能なのですね。

ある程度油脂が初めから入る事によって、風船がより滑らかになるという考え方もあります。

様々な科学がそこにはある訳ですが、その結果がどうであるかと言う事に関しては、科学よりも自分の好みや判断が優先されるのが、製パンであると言えるのかもしれませんね。


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