ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

バタール・バゲットは、なぜ売れないのか・・・・

さて、前回に引き続き今回ご紹介するのは、フランスパンの焼き回数をふやす為の製法です。

そして、フランスパンの焼き立ての提供を行うに当たり、提案したい事がありますので、合わせてご紹介しておきたいと思います。

今ではフランスパンの製法も、以前とは違って随分と多くなりましたよね。

フランスパンと言えばストレート法が主流であった訳ですが、冷蔵したり、イーストを減らして長時間発酵にしたり、中には途中まで焼成した後冷凍し、当日にもう一度焼くというような大手が行っている製法までも、個人が行っているお店もあります。

今では実に幅をきかせている冷凍生地専門店では、当然フランスパンも冷凍生地ですが、過去よりもだいぶ工夫され、それなりの美味しさを出せるようになっているとも言えます。

さあ、そんな中で私達焼き立てパン屋さんが、焼き回数を増やす為に行うのに一番向いている製法と言えば、やはり前回同様生地玉冷蔵になると私は考えています。

その理由は、なによりも一番、従来から行っているストレート法に近い品質が得られるという点にあります。

焼き上がった際のクラストのパリパリ感や、クラムのしっとり感、そして風味などが今までと変わらない事が重要だと思うのです。

焼き回数を増やしたいからと言って、特別にいつもと違う製法にすると、今まで好んで買ってくださっていたお客さまには、敬遠される危険性があります。

従来と変わらない商品構成で、ただ焼き回数のみを増やしたいのであれば、あまり配合はいじらない方が良いと考えています。

生地玉冷蔵なら、ほぼ今までどおりの配合でも対応できると思います。

前日に仕込んで分割する際、生地玉をそれぞれ取り分けて置き、一回目、二回目、三回目というように分けて保存しておく事で、時間差を付けて温度を戻し、何回かに分けて焼き立てを出す事が可能になります。

フランスパンに限っては、前回ご紹介した焼き込み調理やカレーパンの時よりも、冷蔵するに当たってはやや注意点があります。

それは、イーストの量をやや増やした方が良いという点と、その分発酵時間はやや減らした方が良いという点と、生地をやや硬めにして、ミキシング時間を増やすと言う点です。

細かくはここでは紹介できませんが、冷蔵中に発酵が進み過ぎると、アルコール臭が出てしまう場合があります。

ですので、通常のストレート法の7割程度で分割する事をお勧めします。

一般的なフランスパンは、90分の発酵後パンチを行い、その後に約30分おいて分割する場合と、60分の発酵後パンチを行い、その後に60分おいて分割する事が多いと思います。

いずれの場合も、冷蔵する場合はパンチは必要ありません。

ですので、パンチ前の発酵が終了した時点で分割を行っていただければ、冷蔵発酵中のアルコール臭を防げると思います。

フランスパンの生地は、他のパンに比べて冷蔵障害が出やすくなります。

そうすると、表皮が乾燥してガリガリになったり、焼き色がまだらになったり、ボツボツとフィッシュアイが現れてしまい、せっかく焼き回数を増やしたのに、品質がガッカリになったのでは意味がなくなってしまいます。

砂糖や油脂が入る生地の場合は、冷蔵庫から出した生地の温度にそれほど敏感に対応しなくても、まったく問題なく高品質のパンになる場合があります。

逆にそれらを含まないフランスパンの場合は、成形前の生地状態がどのような状態であるかによって、かなり製品に影響が出てしまいます。

ですので、必ず生地の温度が18℃前後になるまで温度を戻し、生地にややボリュームが出てから成形するようにして下さい。

ミキシング時間を増やすと書きましたが、中速を2分程度増やしてほしいと思います。

なぜかといいますと、ミキシングの弱い生地の場合、冷蔵中に生地がダレてしまう事があるからです。

前日に分割する際、いつもよりはやや硬く、あまりガスを含んでいない生地だな~と感じる位がベストだとお考えください。

この冷蔵生地の作り方は、あくまで通常ストレート法でフランスパンを作られている方をイメージしています。

ご自分の配合と製法が、冷蔵に向いているのかどうかは、お使いの小麦粉や酵母によっても違ってきますので、ただ単に分割した物を冷蔵庫に入れれば良いということとは違いますのでご注意ください。

さて、では例えばご紹介したような製法により、生地をいくつかの入れ物に分けて焼き回数を増やす準備が整ったとします。

とは言え、フランスパンが焼き回数を増やしただけで売れていくでしょうか。

というよりも、そうはいかないと言う事をすでに実感していらっしゃる筈です。

なぜなら、一日に5本程度しか焼かないのに、売れ残ってしまう事もあると思われるからです。

フランスパンと言っても、具材が入ったパンの場合はそこそこ売れるかもしれませんし、ある程度の人気はすでにある事でしょう。

しかし、具材が入らないもの・・・・つまりバタールやバゲット達はけして売れ筋ではないはずです。

もちろん地域によっても違いはあるでしょうが、フランスパンが売れないという悩みは、ほぼパン屋さん全般の悩みでもあると思うのです。

それはなぜでしょう???

私自身はバゲットしか食べない位なのに・・・・

それは、パン屋さんが感じているフランスパンの専門的イメージと、お客様がもっているイメージがあまりに違うからなのです。

パン屋さんにとってフランスパンとは、パン屋の象徴でもあり、技術力の見せ所でもあり、パン文化の継承でもあり、あこがれでもあると思うのです。

しかし、お客様からすれば、硬くて食べにくくて、そして何も具が入っていないので、どのようにして食べたらよいのかが解らないのです。

それなのに、一度には食べきれないような大きさで売られている事が多い・・・・

だってフランスパンは350gだと教わったし、そうでなければバタールとは呼べないし・・・・

パン屋さんはそう考えている人がまだまだ多いのではないでしょうか?

さらに、自分達でさえもフランスパンを囲んだ朝食や夕食というものには、実際無縁だったりしている・・・・

つまり、パン屋さんでさえも、食べ方を知っている人は少ないし、そもそもフランスパンを囲むにふさわしい食生活ではないはずなのです。

それなのに売ろうとしているから、お客様の要望とはかけ離れていってしまう事になるのではないでしょうか。

具材が入っているフランスパンが売れるのは、単純に美味しいからであり、日本人にもフランスパンの生地が大好きな人は多いと思うのです。

しかし、自分達でフランスパンに合うようなおかずを準備して、ワインと共に・・・・とまではなかなかいかないのです。

結果、色々やるものの、あまり売れはしないというのが具なしのフランスパンだと言えるのではないでしょうか。

米が完全に主食とされていた時代ならともかく、フランスパンの認知度と言えば、今では食のグローバルスタンダードであるといえます。

誰しもがフランスパンを食べたいと思っているに違いないとさえ思います。

しかし残念ながら、日本ではバタールやバゲットなどを主食としての、食スタイルを確立する前に、具入りのフランスパンを浸透させてしまいました。

おかげで、フランス生地を使ったパンも、焼き込み調理パンの一員になってしまったのです。

一般の焼き込み調理パンよりも、生地がヘルシーである・・・

と言うような認識もあるのかもしれません。

それでなくても、そもそも家族が食卓を囲む事自体が少なくなっている状況で、更には外食ですませる食生活、コンビニの弁当、スーパーの総菜などが食卓に上るケースは、どんどん増えてくるであろうと言う事も含めて考えると、今のままのバタールやバゲットの売り方では、今後もさらに売れない状況が続くのではないかと思うのです。

パン屋さんとしては、別にバタールが売れなくても、フランスパンの生地を使った小物が売れてさえくれれば、別に構わないとお考えの人もいるでしょう。

しかし、私自身の経験から言って、具入りパンばかりが売れるお店と言うのは、非常に利益率が低いのです。

つまり儲かりにくい構造だと言う事です。

他のカテゴリーでも多く触れていますが、例えばフランスパンの生地と言うのは、大きなコッペパンに匹敵する重量である100g当たりの原価が、ほぼ10円位であろうと思います。

原価だけを考えた場合、このパンは30円程度で販売しても良い計算になりますよね。

これが一般的なバタールの350gで考えますと、原価は35円くらいになります。

ということは、このバタールは100円で販売しても、そこそこ利益が出るパンである事が解ります。

それなのに、実際には200円以上から350円位で売られている所が多いはずです。

なぜそうなってしまうのでしょうか?

それは、その分手間がかかるから・・・・・と言う話をよく聞きます。

しかしはたして本当にフランスパンだけが手間がかかるパンでしょうか?

冷静に考えれば、それ以上に手間がかかっているパンは、実際にはもっとたくさんあるはずです。

つまり、何となく世間が皆その位の価格だから・・・・であるとか、他の具入りパンの価格と合わせるためであるとか、そんな安易な理由から付けられたプライスである事が多いのではないでしょうか。

そのようにして、我々売る側からして、尚更お客様が買いづらい状況を作り出していると言うのが現実だと私は感じているのです。

フランス生地の焼き込み調理パンというのも、全般的にプライスは高めであることが多いと思うのです。

それはなぜかと言えば、そうです、具が高いからですね。

でもお客様は皆、多少高くても、自分で具を揃えて食べる手間と無駄を考えれば、買ってすぐにフランス生地の美味しさと、具材の調和を楽しむ事が出来ると言う観点からか、躊躇することなくそれを選びます。

結果、そこそこ売れて売り上げ自体はまあまあ上がる。

しかし、その儲けのほとんどは、実は高価な具材である為に、業者への支払いにまわることになるわけです。

別にそれがいけない事だとは思いません。

なぜなら、出来あいの具材を使う分、製造の手間、つまり具材を手作りする為の人件費が軽減されていることになると思われているからです。

思われている?????・・・・

なぜそこを強調するのかと申しますと、人件費がどうであるとか、手作りがどうであるとか、と言う事を考慮して具材を使用しているかのように思われますが、実際はそうではなく、むしろ具材に頼り切っている事が多いと思われるからなのです。

どういう事かと言いますと、パン屋さんと言うのは、様々な具材を製造メーカーから、あるいは製パン問屋さんから紹介されます。

パン屋さんが一生懸命に具材を使ってくれてこそ、メーカーは存続できる訳です。

つまり、パン屋さんもこのような業種の方々のお得意様である訳ですね。

ですので、手間が省けますよ~・・・とか、どこどこ産の〇〇〇を使ったこだわり品ですので、差別化できますよ~・・・とか、常温保存が効きますよとか、冷蔵で一ヶ月日持ちしますとか、手作りは菌の繁殖が意外と早いので危険ですよとか、入れるだけで本格的な〇〇〇〇パンが出来上がりますよ・・・的な営業トークについ乗せられて、具材ありきの方向に向かう傾向があると思うのです。

この具材にはどの生地が合うだろう???と言うように、パン屋がパン生地を生かす事を第一に考えられなくなってしまっている場合は、いささか問題でしょう。

それに同調するかの如く、お客様も具入りを望んでいます。

おかしな話ですよね・・・・

売れ筋商品といっても、人気なのはたっぷりのカスタードクリームであったり、たっぷりの生クリームであったり、副材料が多い高配合のパンばかりであったり、長~いフランクであったり・・・・

売上金額は高くても、利益はパットしない・・・

したがって人が雇えないので、具材は手作り出来ないし、焼きたても増やせない・・・・

悪循環の始まりです・・・・

町の焼き立てパン屋さんが本来行うべき事とないったいなんでしょうか???

それは、手間暇を惜しまず、そのお店だけのオリジナルを、最高鮮度で提供し続ける事・・・

それだけです。

その事から目をそむけてはいけません。

どこにでもあるようなパンは、他のお店でいくらでも買えます。

今自分のお店には、自分のお店だけのオリジナルだと言えるパンがいったいどれだけあるのかを数えてみてください。

流行りを真似る事も、人気店の真似をする事も、情報収集し過ぎる事も、一度やめてみる事です。

本気になって、自分のお店のオリジナルパンを考えてみましょう。

そんな、オリジナルパンの一員に是非加えて頂きたいフランスパンの提供の仕方を、次回ご紹介して行きたいと思います。

4 Comments

ひたちなかもん says..."美味しいバゲットに乾杯!!"
ブログの内容の多くに賛同します。
私にとってのバゲットは30年ほど前の仙台、ヒラツカとミシェルでした。それから、出張などでEU諸国に出かけた際に味わったフランスパンの格別さ。やはり日本のベーカリーの多くで売っているバゲットには、若干の違和感を持って暮らしてきました。違和感とはもっと泡が大きくて、泡を構成するパン生地が絹のような光沢を持っているバゲットになかなか出会えなかった所にあります。
かなり固めの外皮でも、中がしっとりとしていて風味の保たれたバゲットなら1日程度おいても十分堪能できます。チーズを塗ったりオリーブオイルで食べたり、生ハムを載せたりミルクに浸したり、サラダに合わせたり出来るのですから。
もちろん焼きたてのバゲットであれば、その場で割って食べたときの食感が、他のパンでは味わえないものだし、いろいろな料理ととともに、(殆ど)飽きることなく食べ続けられる必需品です(1本は食べてしまうでしょう)。
日本にはなかった食文化として必ずや根付くくであろうと期待してます。
かつて牛乳やカマンベールなどの乳製品が北海道くらいにしか普及していなかったことを考えると、最近の食文化への私たちの好みも随分と変化してきました。
町のベーカリーで日常的に買える美味しいバゲットやバタールが来る時代は、そう遠いものではありませんよね。
2014.04.01 01:02 | URL | #- [edit]
ぼん says..."目からうろこです"
僕はリーン生地に固執してしまいお店を潰すところでした。
バゲットを美しく完成させればお客さんも買ってくれると思い込んでましたが
確かに食の環境は整ってないですね・・・
現実を見て商品のラインナップ考えないと駄目ですね。
お客様には僕がリーン生地に傾倒して配合をどうこうとか
技術がどうこうとかはほぼほぼ関係ないですもんね。。
2014.11.22 07:03 | URL | #- [edit]
しずかな朝 says..."ぼんさん、コメントありがとうございます"
という事は、今はお店の方は持ち直したということでしょうか?

偉そうに書いてはいますが、恐らくは誰よりもバゲットのデザインの美しさに魅せられたのは私自身なのです。

そして、美しさばかりを追求して、まったく売れないバゲットを作り続けた時代ががります。

いや、いまでもそのデザインに魅せられている事は変わってはいないかもしれません。

食べものというよりも、アートとしてパンの象徴のようにも感じています。

だからこそ、売れるからと言って醜い姿のパンが売られているのを許せない自分がいるのです。

しかし、売れているのは事実、評価されているのは事実です。

それにくらべて私の考え方は自己満足の域を超えていません。

どちらが経営的に正しいか、どちらが社会に貢献しているか、パン業界に貢献しているかは言うまでもありませんよね。

恐らくは誰よりも私自身が、売れるパンの事実に対して、もっと謙虚に向き合わなければならないのだと痛感しています。

が、自分の考えは貫くべきだという自分もやはりいる。

大馬鹿野郎なんだと思います。
2014.11.24 06:58 | URL | #- [edit]
大食倶楽部 says...""
私もバゲット、カンパーニュ、またはドイツ系のライ麦パンしか食べません。たまにクロワッサンやヴィエノワ、食パンを買うくらいです。そのまま食べることが多いのですが、食事に合わせることもあります。普通に和食でも洋食でもパンと合わせる献立に苦労したことはないのですが、周りはどんなに素材や酵母にこだわったパン屋さんに行っても、迷いなく具材がてんこ盛り、またはハード好きと言いながらナッツやドライフルーツやベーコン、または玄米やマッシュドポテトが練りこまれた「もっちり」パンに手を伸ばします。これほど美味しいパンを作れる国は世界でもそうそうありません。それなのに客には理解されないと言う現状はいつか改善されるのでしょうか。
2016.02.06 21:06 | URL | #- [edit]

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