ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

30年以上も続いているお店の不思議・・・・

長きにわたってお店を繁盛させ続ける事・・・・

それが、いかに難しい事かということは、一度でも経営をされたことのある方には充分過ぎるほど解ると思います。

市場の変化という、避けがたい現実があります。

近隣にパン屋のチェーン店ができてしまった・・・・

モールが出来て、客足がとぎれてしまった・・・・

駅が出来て、人の流れが変わってしまった・・・・

店の前が大きな道路になり、来店しづらい環境になってしまった・・・・などなど、10年もすれば市場と言うものは、がらっと姿を変えたりするものですよね。

長くお店をやっていると、従業員も入れ替わります。

様々な人間関係のドラマが、生まれては消えていきます。

設備も古くなってきますから、買い替えたり、新しい設備を入れたりする事でしょう。

オーナーも歳をとってきますから、考え方や動きが、当初とは変わってきたりもするでしょう。

それらの外的要因や内的要因と常に戦いながら、無事に長年お店を運営して行くと言う事は、並大抵の事ではありません。
これはもう、一つのギャンブルであるとも考えられます。

それほどに、数年、数10年後が見通せないのが、商売と言うものなのかもしれませんね。

私は休日の朝になると、約3時間ほどウォーキングをするのですが、その道々にも数件のパン屋さんがあるのです。

ここ5年ほどのコースの中には、個人店が3店とチェーン店が1店あり、先日とうとうそれらすべてが閉店してしまいました。
そのうちの一軒の個人店は、1年ほど前に開店したばかりでした。

ウォーキングのコースではありませんが、私の生活圏内では、ここ5年ほどで知っているだけでも5件のお店がオープンしたのですが、残っているのは1件のみとなりました。

統計的にはパン屋の激戦区に入る地域ではあるのですが、それにしてもいったい何が起こったと言うのでしょうか・・・・

今になっては、すべて後付けの論理になってしまう訳ですが、何度か伺った時の感想も含めて、考えてみたいと思います。

とても小さな、女性がオーナーのお店がありました。

プロとは言えないような内容のパンではありましたが、接客はとても良く、小さな子供連れのお母さんが多かったと記憶しています。
初めの数カ月はとても繁盛していて、住宅街にあるそのパン屋さんは、朝の8時からとても賑わっていました。

何度か買いにもいきましたが、そこで感じた違和感がありました。

全てのパンが、とても小さかったのです。

そしてその割には高かった・・・・

さらに、こじんまりとした菓子パンや焼き込み調理パンばかりで、食パンなどのブレッド類があまりなかったのです。

無添加と国内産小麦を大々的にアピールしていましたが、パンの出来栄えはというと、残念ながら素人っぽい印象がぬぐえませんでした。

そしてそのお店は約3年で姿を消してしまいました。


総ガラス張りの、とても大きくておしゃれなお店が開店したのは、約2年前のことでした。

駐車場には約10台の車が駐車でき、店内はイートイン席が約10席もあり、そこで自由にパンを食べられるようになっていました。

店内から工房内が良く見えていて、ミキサーやオーブンなどが活躍していました。

従業員も多く、店内はいつ行ってもかなりにぎわっていました。

が、肝心の商品はとても高く、100円以内のパンはありませんでした。

カレーパンが250円とか、小さなデニッシュが250円とか、とにかく高いなという印象がありました。

あまり種類はないのですが、食パンもとても高額で、なのに皆ケービングをしていました。

ブレッドは上部が黒く、サイドが白い為に、やはりケービングしていました。

買い物の最中にミキサーの生地が気になって仕方がなかったのですが、10分以上人がついていない状態で回り続けていました。

若いシェフが取り仕切る、スタッフも全て若い素敵なお店ではありましたが、とにかく高いと言う事と、購入した調理パンが見事にまずかったという印象でした。

まずいと言うのは言い過ぎかもしれませんが、例えばカツにソースやマヨネーズなどがついていないので、まったく味が無いとか、卵には塩味が無いとか、パンが超甘いとか、これを作っている人は味をみているのだろうかと疑ってしまうほどの味音痴状態なのでした。

しかし見た目は素晴らしいし、包材にもお金がかかっている様子でした。

見た目と味のギャップ、そして高額商品に裏切られる気持ちと言うのは、とにかく最悪なのではないかと感じたのでしたが、しばらくは繁盛していた様子でした。

ただ、1年後には違うお店に変わってしまっていましたが・・・・


以上の2件を思い起こす時、考える事があります。

それは、焼き立てパン屋は高いのだ・・・・・という考え方は危険であると言う点。

そして、やはり最後は、いかにその商品が魅力的で、継続的に買いに行きたいと思えるかが重要なのだと言う点でした。

可愛いとかおしゃれであるというような要素は、新しいお店には重要だとは思います。

しかし、どのようなお店であれ、また行きたくなる動機としての商品力がなければ、継続して来店してもらう事は不可能だと考えざるを得ません。

逆にこの事を裏付けるようなお店があります。

そのお店は、何と開店から30年が経とうとしています。

今でこそ高級住宅街となり、駅がすぐ近くに出来、人口は半端なく増えた地域なのですが、当時は田んぼだらけの中にポツンと出来たお店で、しかも個人店でこじんまりと営業をはじめたのでした。

当初の私は、そのお店を取り囲むようにチェーン展開する会社で取り仕切っていましたので、そのお店にはごくたまに買いに行く程度でした。

何ら飾る事は無く、ごく普通の商品構成ではあったのですが、何とも言えない美味しさがあったのです。

どのパンを買っても、そのしっとり感と言い、焼き加減と言い、こんな個人店でたいした技術だなと、伺う度に感心していたのを思い出します。

とは言えその間には、様々な有名店や新店舗がそのお店を取り囲むように出来ては潰れ、市場は大きく変化して行きました。

しかし、つい先日数十年ぶりにそのお店の前を通りかかり、いまだに営業している事に驚かされたのでした。

お店は早朝6時から営業しており、近隣のお客様が食パンを買いに来ていました。

品揃えはまだなかったのですが、食パンを買ってかじった所、やはり焼き加減の良さや、シンプルな風味を感じる事が出来ました。

いわゆる飽きの来ない味と言えばいいのでしょうか?

とても懐かしい気持ちになったのでした。

何年経っても食べたくなる味、いつまでも思い出として残る味、そんな食の故郷のような気持ちにさせてくれるような商品作りというのが、地域に根差すベーカリーの根本なのではないかと感じるのでした。

新しいものを生み出す開発力・・・・・

お客様を常に飽きさせないようにする創意工夫・・・・

イベントやサービス券、ポイントカードなどのアクション・・・・

どれもとても重要なポイントではありますが、それは私達パン屋がメインに考えなければならない事とは、少し違うような気がします。

もう一軒、すでに40年と言う長きにわたって営業を続けている洋菓子店があります。

大きい・甘い・安いというイメージのお店なので、他の競合が出揃えば、すぐに負けてしまうだろうと言う印象しかないお店だったのですが、今もまったくスタイルを変えることなく、見事に他の競合をすべて抑えて、いまだに現役を続けているのです。

なぜ今だに地域に愛され続けているのか・・・・・

その真意は、同業者に聞いても、原材料をおさめている問屋さんに聞いても、はっきりとは解りません。

ただ言えるのは、今だに価格は低価格で、甘さは控えないで商品はジャンボ。

そして家族経営だということです。

近隣の市場はここ数十年で見事に移り変わり、まさにそのお店の場所だけが奇跡的に存在しているかのような状態です。
私はそのお店のすぐ近くの中学校に通っていたのですが、その中学校も今では無くなり、大手電機メーカーの大型工場と化してしまいました。

私がこの業界に入った当初、よく講習会などではオーナーと出会いましたが、とてもエネルギッシュな方で、まさに小兵と言った感じで、それほどの技量も感じなかったのですが、未だに現役で働いていらっしゃる事と、何と言ってもこの激動の数十年間を、勝ち残ってきたという実績には、ただただ頭が下がる思いでした。

そして更にもう一人、同じ場所で30年以上お店を経営されている友人がいます。

その人は、私が働くお店で3年間修業をし、満足ではなかったのですが、年齢が年齢だけに早く開店したいのだとの思いから、実家を改装してお店をオープンさせました。

この人の場合は少し特殊な事情が様々あるのでした。

それは、製パン技術は”う~ん・・・・”と言う感じであることと、洋菓子とギフトを仕入れていたということです。

彼は、初めから人をうならせるようなパンを作りたいと思っていたのではありませんでした。

とにかく商売がしてみたい・・・・そう言っていた彼は、自分が作るパンだけでは不安だと言う事もあり、当初からパン以外の商品も充実させていたのです。

そしてまさに奇跡のような現実がそこにはあるのですが、その街自体がその30年間、まったく姿を変えていないという事実なのです。

もともと人口が多い地域ではないのですが、見事なまでに新規参入がないことと、道路などが整備される事もなかったのです。

通常、交通網を考えれば、新しくバイパスが出来て、お店の前をまったく車が走らなくなると言うようなケースもあったりするのですが、その地域の前後はそうなってしまいましたが、何故かその地域だけは手つかずの状態なのです。

悲しいかな、けしてパンが売れているのではないのですが、地域がらギフトは良く売れて、毎日非常ににぎわっているのです。

商売に運は必要ですよね。

ただし、それは自分には判断できませんけど・・・・・

当然のことながら、ただ単に長くお店を営業していれば偉いということにはなりませんよね。

自分で満足出来たのであれば、たった数年でも充分やりがいのある人生であったと言えると思います。

しかしなかなか、現実にはそうはいかないものですよね・・・・

ある程度の蓄えは出来ないと、閉店してしばらくが辛いでしょうし、借金だけが残るような商売はしたくありませんよね。

自分としてもある程度納得した結果を得られたし、随分とお客様に愛された実感はある・・・・・

そんな終わり方なら、その後の人生も楽しいものになると言えるでしょう。

では、その為に今の自分は何を考えていかなくてはならないのでしょうか???

とは言え、これらの事象から考えても、それはこれだというようなものがある訳ではないようですね。

しいて上げるとするならば、やはりこれらの事象を謙虚に受け止めて、自分の商売に対する考え方を時に改める勇気を持つと言う事ではないでしょうか。

自分のこだわりは、地域のお客様の為になっているのだろうか???

自分の目指している所は、はたして地域のお客様に喜びを与えるのだろうか???

忙しさにかまけて、ややもするとお客様の視点を忘れて、原価だ利益率だと、儲ける事ばかり考えてはいないだろうか???

お客様の声よりも、原材料の高騰にばかり気が行ってはいないだろうか???

何の為に自分はパンを作り、そして何がしたいのだろう・・・・・

その答えがお客様の要望と噛み合っていなければ、きっと長く愛してもらえるような商品は作れないのではないか・・・・

華々しくオープンするも、数年後には別のお店になってしまっているパン屋さんを見るにつけ、自分を戒めるのでありました・・・・・

3 Comments

まっちゃん says...""
僕の地域にも長く続いてるパン屋があります 30年以上になるのではないでしょうか
初めは小さい店で高級住宅街ではなく庶民的な立地でした 関西で角食山食で人気のパン屋と言えばわかるでしょう 角食山食以外はパッとしませんが、あんな小さいパン屋からそこまで大きくなったなと思います
おばちゃんたちが友達へのお土産にと1本丸ごとを2、3本買ったりするのですからね 今販売されている大手パン会社の湯種角食はその店の技術が元になっているようです
美味しいパンを作るのは当たり前ですが、やはりご近所さんに愛されないと長く続けていくのは難しいのではないかなと思います
2014.07.03 17:16 | URL | #vdn.bAWA [edit]
ちびまま says...""
何度も何度も読み直させていただきました。本当にあきれるくらい何度も読ませていただきました。

日々新しいパンをいろいろと考え試作したりするなかでずっと自分のなかで消えない疑問・・・これでいいのかなぁと・・・

わたしが作りたいものってなんだろうと今年の折り返し地点にたってふと足をとめて考えてしまっていたときだったのでなおさらなのかも知れません。

風邪ひいて何も食べたくないけどお母さんが作ってくれたあのお味噌汁食べたいなというようなそんなパン・・・そんなパンをわたしは目指していたんではないかしらん。もちろん新しいパン・オリジナルなパンも大切だしこれからも作り続けて行きたいと思っています。でもそれが独りよがりなものだったり知識や腕のひけらかし(になるほどうまくないから大丈夫だけど)になってしまっては絶対にいけないと思っています。

いつか自分がこの世を去った時「そういえばちびままさんっていたよね」「あ~いつも食パン焼いてたなぁ」「んだんだ。なんかあの食パン特徴はないんだけんどいつ食べても飽きない味だったなぁ」」というような(笑)


2014.07.03 17:57 | URL | #XwX1ip.I [edit]
しずかな朝 says..."ちびままさんにまっちゃんさん、いつもコメントありがとうございます。"
長年地域で愛されるようなパン作りというのは、いったいどうすれば良いのか????

それは、正直私ごときには解りません。

考えれば考えるほど難解で、恐らく答えは見つからないかもしれません。

しかし、考える事をあきらめることだけはしないように心掛けています。

いつでも初心で、そして常にチャレンジャーでありたいですね。
2014.07.07 06:18 | URL | #- [edit]

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