ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

お肌にもパン生地にもつらい季節だからこそ・・・・・

こんな質問をいただきました。

形態としては卸が中心です。

工房に直接お客さんが来る事もありますが、交通が不便なので常連さんのみですね。

パンは女房と二人で午前中に作り、午後は移動販売と卸し先への出荷に向かいます。

もともとあまり製パンの経験が無い状態から始めたのですが、意外と美味しいという意見が多くもらえてかれこれ10年になろうとしていますが、どうも最近パンの表面が綺麗に仕上がらない日が多くなってきたのです。

ご指摘を受けてからよ~く考えてみると、たしかに冬場は良いパンにならない日が多いように思います。

夏場と冬場では配合を変えると言うような話も聞いたりしますが、私は変えた事は無いのですがそれがいけないのでしょうか?

大した基礎はなくてもそれでも10年間毎日作り続けてきたことで、パンの事はそれなりに理解しているつもりではいるのですが、納得のいかないものができてもなぜなのかが正直わからずにもんもんとしてきました。

いまさらどうなるものでもないのかもしれませんが、もし改善すべき所があるようでしたら謙虚に受け止めたいと言う気持ちはあります・・・・・



と言う事で、今回の質問者様からは全てのレシピと、製品や工程の画像を送って頂き分析致しました。

確かにパンの表皮は大変荒れており、とても残念な完成度であると申し上げるに至りました。

どのような経緯でパン作りを行ってきたとしても、それなりの年月を積み重ねていくと、どうしても身に付いてしまうものがあります。

それは、良い意味で言えばスキルとしての経験であり、悪い意味で言えば、その経験がもたらすプライドのようなものです。

一度プライドを持ってしまうと、なかなか謙虚な気持ちにはなれないものです。

しかし今回の質問者様は、全ての恥を捨てて真摯に意見を聞いて下さいました。

これからも、幾度となく難問にぶち当たる事があるはずですが、素直に人の意見を聴ける人である限り、必ず改善の糸口を掴む事が出来るのではないかと私は思います。

さて、今回はパンの完成品の表面が綺麗にならないと言うご相談でしたが、では内部は問題なく出来ていたのでしょうか。

答えはNOです。

パンの表面が荒れているということは、すなわち内部も荒れていると言う事の証になります。

つまり、生地そのものに、またはその取り扱いなどに原因があるということになるのです。

了承を得まして、その時に送られてきた生地の画像を皆様に見ていただこうと思います。

まずはこちら


DSCN1073_convert_20141031025711.jpg


少し解りにくいかもしれませんが、分割して丸める前の状態の生地になります。

この生地を見て何を感じますか?

まずは分割そのものが雑すぎます。

幾重にも積み重ねられ、切り分けられた生地と言うのは、生地の断面部分の露出が多く、すぐにその断面が乾燥してしまいます。

分割時には、なるべく生地は平たくなるようにし、さらに断面を作らないように、しかも切り刻んだりせずに行うのが理想です。

この状態の生地を、滑らかに丸める事は至難の業だと言わざるを得ません。

そして次は、その事に注意しながら分割した生地です。

DSCN1074_convert_20141031025749.jpg


まだ断面が多く、生地が立体的すぎて丸めづらい感じがしますよね。

この二つの画像を見ていると、分割が雑であるということと、断面が多過ぎる事などが解りますが、さらに見えて来るものがあります。

それは、生地の乾燥が始まっていると言う事です。

さらに、やや発酵も進んでいるように見えます。

どう言う事かと言いますと、要するに一人で大量に分割丸めを行っているという習慣がある為に、分割後にそのまま放置されている時間が非常に長いのではないかという事なのです。

事実、全ての生地をまずは分割してしまう・・・・・その間約20分・・・・・そして全ての分割が終了してから、それらを順次丸めていくということなのです。

しかもです、初めに分割した生地はどれなのかは解りませんから、生地によっては30分以上そのまま放置されている生地が多数あるということになるのです。

このことは、ホームベーキングの方々には想像もつかない事かも知れませんが、実際の工房ではこれが現実なのです。

以上を科学的に考えますと、そもそも生地の第一発酵時間というものに匹敵する位の分割に要する時間が経過してしまうと言う事になりますので、発酵はいたずらに進み、丸める時点で過発酵な生地になってしまうと思われます。

しかもその間の放置時、室内の温度や湿度によっては当然生地は乾燥します。

過発酵で乾燥してしまった生地を丸めるとどうなるか・・・・・

それがこちらです・・・・・


DSCN1077_convert_20141031025859.jpg


DSCN1075_convert_20141031025829.jpg


しっかりと荒れてしまっていますね。

この後この生地はベンチタイムを取る訳ですが、そもそもが過発酵でしかも乾燥していて、さらに荒れていますので、回復には相当な時間がかかります。

かと言って、本来ならその時間すらすでに経過してしまっているのですから、その後は成形でも生地は荒れ、焼成時には本来の発酵力はすでになくなり、窯伸びのわるい、表面が荒れたパンの完成となるのです。

本来ならば、その荒れたパンの画像もお見せする許可を頂いてはいるのですが、このままではあまりにも質問者様を責めているような内容になってしまうような気がして、乗せる事が出来ませんでした。

このような生地が荒れている画像を紹介するのは、今回が恐らく初めてだと思うのですが、実はこのような生地荒れは、どこの職場にお邪魔しても御見受けする光景なのです。

特に、質問者様のようにご夫婦でパン作りをされているような場合、あるいはお一人で作られているような工房の場合には、どうしてもこのような事が多いのが実情です。

日頃は全てのパンを大量に焼くということではないのですが、やはり人気の商品であったり、特別注文を大量にいただく場合など、いつものキャパを超えて作らなければならないような場合に、このような事が起こるようです。

そうですよね、その時だけ人員を増やすと言うような訳にはいきませんからね。

ですので、そんな大量の注文が入った場合や、一人で多くの生地を取り扱わなければならない場合には、充分注意しなければならないのが生地の乾燥なのです。

生地の乾燥と言うのは、季節によって少しだけそのプロセスが違います。

冬場の乾燥というのは、イメージ通り湿度が少ない事が原因の場合が多いはずです。

生地温度は上がりにくく、更に冷気による乾燥によって生地は委縮してしまい、伸びの悪いパンになりがちなのが冬の乾燥です。

他方夏と言うのは、生地の温度がどんどん上昇してしまうことにより、イーストが過剰に反応し、せっせと膨らんでしまいます。

するとその過剰な発酵による内部摩擦で生地は乾燥してくるのです。

これが夏場の生地乾燥となります。

ですので対策としては、夏場はやはりイーストの量をやや減らした方が良いと思いますし、改良剤やイーストフードをお使いの場合も、半分にするなどして減らす方向にするべきだと思います。

そして生地の温度は低めに捏ね上げ、出来るだけエアコンにて湿度を30℃以下にして、エアコンの風が生地に当らないように分割時にはビニールをかぶせるなどして乾燥を防いで欲しいのです。

冬場は逆に生地の捏ね上げ温度をやや高めにし、室温を上げる事も重要ですが、それ以上に加湿に気を配って、室内のガラスが曇る程度の湿度は保つようにしていただきたいと思います。

また、実に単純なことかもしれませんが、10個分割したら、その10個はすぐに丸めてください。

そのようにして分割しては丸め、分割しては丸めを小刻みに行う事で、その間隔で成形も同じリズムで行えば、全てのバランスが取れますよね。

分割丸めから、ある生地はすぐに成形され、ある生地は30分後に成形されるとしたら、それは発酵状態が不安定になっても仕方が無いと言う事になります。

一人であまりにも多くの生地をさばかなくてはならないような場合には、分割丸め後すぐに冷蔵するなどして、発酵をコントロールすることも一案でしょう。

また、面倒でも少量ずつ捏ねるというのも重要です。

もうすでに様々な方法を駆使して取り組まれている事と思いますが、考え方として肝心なのは、パン生地と言うのは常に動いているのだということをしっかりと認識することです。

温度と時間に左右されながら、常に変化しているのがパン生地で、その経過次第では時に生地はパサパサに乾燥し、時にベタベタでピカピカになるのだということをしっかりと理解し、その上で発酵管理を行う事で、安定したパンになるのだと言うことを忘れないでください。

質問者様の工房もそうだったのですが、夏は暑さに耐え、冬は厚着で乗り切っています・・・・的なことを良く耳にしますが、それは大きな間違いです。

人間には忍耐がありますが、パン生地にはそのような能力がございません。

発酵というのは科学です。

人情論や生きざまは通用しない世界なのです。

ですので、夏場はエアコンにて湿度を下げ、冬場はお湯を沸かして湿度を保つなど、環境を整えると言う事が、パン作りにとっては非常に重要な事なのだと言う事を、改めてお考えください。

苦労をかけるけど、経費節約の為に耐えておくれ・・・・・というような理屈は、残念ながらパン生地には通用しないのです。

また、その為に夏場は異常に生地温度を下げたり、逆に冬場は温度を異常に上げたりと言う行為も、それ自体が発酵に及ぼす影響というものをよく考えていただきたいのです。

成形などの技術よりも、むしろそのような基本的な発酵環境を守るということが、美味しいパンを作りだす基本なのだと言う事を忘れたくないですね。


3 Comments

ちびまま says..."No title"
わかります!!わたしも同じようなお肌を日々生み出してしまうことが多々あり、とても困っていました。
じっと冬がすぎていくのを待つ・・・予定でしたが思い切って加湿器を購入することにしました。

人間の大人とちがって言葉で自分の困っていること、生地が乾いてきてるよ~とかもう少し叩いて~とかを伝える手立てがなく仕上がりでしか判断できないパン生地・・・加湿器おいたら少しはコミュニケーションがとれるかな~なんて思って楽しみにしています。

目指すは翌日食べてもおいしいパンヾ(´▽`)
2014.11.01 15:27 | URL | #XwX1ip.I [edit]
まっちゃん says..."No title"
今朝テレビで田舎の古民家で週一回パン屋を開く夫妻が出てました
好評らしいのですが焼き上がりは甘めで白くもうちょっと焼き色つけたほうがと思えるものでした 
大きい気泡も潰さずそのまま焼いてました
そんなパンでも売れるんですよね 不思議な世界です
2014.11.01 16:56 | URL | #vdn.bAWA [edit]
しずかな朝 says..."ちびままさん、まっちゃんさん、いつもコメントありがとうございます。"
ちびままさん、加湿には、残念ながら加湿器は不向きですよ。

無いよりは良いのですが、潤うほどの加湿をしたければ、そうとうパワフルな物が必要です。

小さくても石油ストーブの上でお湯を沸かす・・・・これが一番です。

まっちゃんさんの言う通り、人の好みと言うのは様々です。

ただ、日本における物作り文化には、人情とかふれあいなどの要素が大きく関わっている事は間違いないと思います。

品質とか科学とかではなく、作る人の気持ちと、買う側の感謝の心がつながった時、それは単に美味しいではなく感動につながるのかもしれませんよね。
2014.11.03 06:09 | URL | #- [edit]

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