ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

天然酵母は健康食品でもなければ、品質保持剤でもありません

天然酵母のパンという表記を、当たり前のように見かけるようになった今日この頃。

本来であればパンを作って売る側からすれば、天然酵母を使用している目的と言うものの主たる狙いは、オリジナルの酵母であることをアピールする為、あるいは素材にこだわっている事を伝える為、あるいは商品構成に天然酵母が合っている為、はたまた、イーストを使いたくない為と言うようなことが狙いだと思うのです。

その他にも、商品の一部に取り入れて差別化を行っている場合や、アイテムの一つとして品揃えしていると言う人もいる事でしょう。

安心安全、そして健康を考慮したパン作りを目指していらっしゃる方は非常に多く、それが一般的な大手の作るパンでは安全を確保するのは難しく、また、一般的な焼き立てのパン屋であっても、安全とは言い難いパンであると判断され方々が、原材料のすべてを厳選し、更に酵母もイーストではなく天然酵母を使い、これなら安全なパンであると言えるようなパン作りをしたい、そのように考えられてお店をつくられている方が個人店としては多いのではないでしょうか。

お客様も、どうして大手のパンや焼き立てのパン屋のパンが安全ではないパンなの??・・・・と思われている人もいれば、真逆で、信用できるお店でしかパンは買わないと言う人も当然たくさんいます。

ここで解るのは、パンを購入する人と言うのは、自分なりの情報収集をしたうえでパンなりお店なりを選んでいるはずであると言う事なのですが、どうやらその基準の中には、本来の安心安全を求めるお客様を騙すとまでは言い過ぎかもしれませんが、誘導するような記述の商品が多く存在しているということに違和感を覚えてしまうのです。

安心安全神話というのも、人によって多少の解釈の違いは当然あるようですが、一般的な見解としては、作物はすべてオーガニック、つまり無農薬や有機肥料中心の作物以外の化学薬品や化学肥料で作られているものは有害であり、オーガニック以外の諸外国からの輸入品も有害、さらに食品に関しては、完全なる化学物質無添加でなければ有害というのが一般的な認識であると思います。

そして、ことパンに関して言えば、なぜか天然酵母を使用したパンと言うのは、イコール無添加のようなイメージが確立してしまっているように思えます。

食品加工の製造現場では、使用する食材そのものは仕入れているのが実情です。

それを加工する事で、総菜やパンは出来上がる訳ですから、当たり前と言えば当たり前の話なのですが、その部分を少し細分化して考えてみると、意外な盲点があることが多々あります。

というのは、安心安全神話を完全に実現しようと勉強されている方はすでにお解りだと思うのですが、いわゆる無添加ですよ・・・と言われている原材料でも、一部のみ無添加、あるいは保存料だけ無添加、あるいは化学的なものは無添加でも、有機的に作られている酵素類は添加しているというような、よ~く掘り下げてみると実は多少は添加していた、あるいは今までの添加物ではなく、新しく開発された安全であると認可された添加物を使用している、というようなものが多く存在するのです。

作物においても、いくら自分だけが農薬をまかなくても、近くで農薬を使用していれば無農薬とは言えません。

しかも、たとえ今年から無農薬を始めたと言っても、土中の農薬が完全に消えるまでには無農薬とは本来は言えないのです。

オーガニックに認定されるには、自分の畑の数キロ圏内で農薬が使用されていない事や、数年間無農薬を続けている証拠がなければ認定されません。

そのように、本当に添加物や化学薬品を徹底的に排除しようと考えた場合、かなりさかのぼって調べていかないと真実にはたどり着けないことがあります。

勿論そんな所まで気にしている訳ではなく、できるだけ使用しないものを選びたいだけ、減農薬・減添加物程度でも、少しでも安心に近付くならそれでよいという柔軟な方もいらっしゃることでしょう。

何が本当の安心安全なのか・・・・ということは、やはりご自分で納得するまで調べていく以外にはないのかもしれません。

所で前回は、天然酵母そのものに健康イメージをもつのはいささか・・・・というお話をさせていただきましたが、今回はその天然酵母を使ったパンについて、いろいろと考えていきたいと思います。

様々な調査のなかで、天然酵母パンというものには、多かれ少なかれ健康に良いイメージがあるということは確認されています。

それは、正しくは天然酵母を使ったパン作りを行っているお店では、原材料もオーガニックの物を使用しているはずだから・・・・と考えている方が多いからだと思うのです。

白神酵母などの、ソフトなパンや甘いパンでもふっくらと膨らむ酵母の出現により、天然酵母のパンは硬くて酸っぱいというイメージはかなり古いものになりつつあります。

また、従来の自家製酵母で作った比較的硬くて酸っぱい系のパンと言うのは、専門店あるいは自然食品店位でしか手に入りませんでしたので、特に多くの人がその存在を知ると言う事が無かったと思うのです。

しかし現在では、とんでもない場所でパンが販売されていたりします。

パンと言うのは、焼いて冷めてきた時点から高速で老化が始まります。

今日は出来立てを食べて、そのしっとり感に満足していた人が、次の日に食べたらガッカリ・・・ということを随分長く経験してきたであろうパンの製造者にとって、パンとはどうしてこんなにもすぐに硬くなってしまうのだろうと言いたくなるほど、日持ちがしない食品なのです。

それを、大手だと数日日持ちしますので、それは保存料がたっぷりだからだと思われている人も多いと思います。

しかし、最近では大手なのか中小なのかも解らないような袋入りのパンが、物凄く長い間日持ちし、さらにふわふわとしているのが外から触っても確認できるようなパンがあちらこちらで売られています。

しかも、天然酵母パンと書いてありますので、それを買われたお客様は、天然酵母のパンは長持ちするんだと思われても仕方がありませんよね。

そのようなパンの出現により、更に今まで以上に天然酵母というものの定義がややこしくなってきている今日この頃、酵母そのものにはパンをフワフワに保つ効果は特に存在しないと言う事だけはお伝えしたいのです。

天然酵母パンと書かれて販売されているパンの中には、例えばこんな表記のものがあります。


<ディスカウントストアーに売られているパン>

商品名:天然酵母パン(十勝クリームパン)

原材料名:小麦粉、フラワーペースト、ショートニング、砂糖、鶏卵、クリーム、脱脂粉乳、イースト、発芽玄米酵母、食塩、香料、酒精、増粘多糖類、着色料(カロチン、紅花黄)、乳化剤

発芽玄米酵母を使ったほのかに旨味のある体にやさしいパン。

ふんわり、しっとり 50 日続くおいしさ

しっとりした食感の発芽玄米酵母で熟成発酵させた体にやさしいディニッシュパン。

保存料・イーストフードを使用していないので毎日の朝食に、お子様のおやつに大人気です。

発芽玄米からの取れた天然酵母には食物繊維が豊富。


いかがでしょう、確かに保存料とイーストフード自体は入っていません。

しかし、フラワーペーストの中には保存料がたっぷり入っているはずです。

イーストフードが入っていなくても、乳化剤がその効果を補います。

そして、なにをして体にやさしいと言えるのか? 

酵母に食物繊維が付着しているとでもいうのでしょうか。

そして驚きの50日日持ちですが、これは酵母にそのような効果があるのではなく、ビニール袋や脱酸素剤系の保存が目的の薬剤、さらにはアルコールを噴霧して雑菌の繁殖を防ぐというような、いわゆるパンが老化しない環境を作り出しているだけであり、どのようなパンでも、このように包装すれば日持ちはするのです。

しかしこの文面からは、その薬剤の効果で日持ちすると言うような事は書かれておらず、天然酵母パンとだけ大きく表示されているので、いかにも天然酵母の効果でフワフワしているんだと勘違いされても仕方ありません。

しかも、驚きのイースト併用ですから、どちらかと言えば健康をうたうような種類のパンでは全くなく、ましてや何が体にやさしいのかに至っては、怒りすら覚えます。

また、こんな表記のパンもあります。


商品名:天然酵母パン(カレー)

原材料名:小麦粉、カレー風味フラワーペースト、砂糖、卵、パネトーネ種、マーガリン、ファットスプレッド、イースト、脱脂粉乳、食塩、麦芽エキス、乳化剤、酸味料、調味料(アミノ酸等)、香料、カラメル色素、保存料(核たん白)、増粘多糖類、グリシン、セルロース、ソルビット、リン酸塩(Na)


カレー風味のフラワーペーストと言う時点で、すでに気持ち悪くなりますが、他のカテゴリでも紹介しているパネトーネ種が使われていて、それが本物であればイーストを使っている意味が全く理解できない事、さらにはおおよそ健康的なイメージは持てない原材料なのにもかかわらず、天然酵母という文字だけは強調している事、さらにもっと言うならば、本来ならカレー風味にする為のスパイスや添加物、そしてファットスプレッドなどに含まれている添加物などは、いわゆるキャリオーバーとして表示されていません。

勿論、本当に健康に気を付けているという方々は、この表示を見ただけで無視する事でしょう。

しかし、私の知る限り、天然酵母のパンはふわふわで長持ちだと思われている方も相当いるというのは事実なのです。

このような日持ちするパンを販売するのであれば、本来ならば

”特殊包装で美味しさ長持ち”

”常温でも美味しさ長続きの包装技術”

というように、包装技術によって日持ちを実現した画期的な商品であることを明記する方が、よほど宣伝にもなるし、それが製造者としての責任でもあると思うのは私だけでしょうか。

いずれにしても、ある意味表現の自由という観点から言えば、法的に違法でさえなければOKなのでしょうが、消費者がその真実を知る労力は半端ではない時代なのかと思うと、とても悲しい気持ちになります。

このように、本来であれば天然酵母と、出来る限り安全だと言えるような原材料を使い、生産者の顔が見える形で製造販売を行いたいということで開業されている ”天然酵母パンのお店” とはおおよそかけ離れた、天然酵母という名前を販売促進の為に使っているパン屋が実在するのだという事を知っておいていただきたいのです。

また、酵母というものは、パンを作る為の原材料の一つであるのにすぎず、その部分だけがイーストでないからといって、すなわち安全であるという事にはならないのだという事と、パンそのものが本当に安全で安心できるものであるのかどうかは、全ての原材料に関わってくる問題であり、製造者の考え方、とらえ方によって、様々あるのだという事を知って頂きたいのです。

イーストが流通するずっと以前は、果実や穀物に付着している酵母を、果汁や麹カビで糖化した米飯、小麦粉生地、あるいはライ麦粉生地等の素材で培養を繰り返し、製パンが可能なガス発生力を作りだした、いわゆる“パン種”が製パンに使用されていました。

パン種のパン生地を膨らませる力の主体が酵母という微生物の働きによって成り立っている事を人類が初めて知ったのは、17 世紀の後半にオランダのレーウェンフックが自作の顕微鏡によって酵母を確認した時だと言われています。

その後、20 世紀に入ってイーストの流通が進むようになってから、世界中でパン種の利用は激減しましたが、昔ながらのパン種によるパンにはイーストでは得難い特殊な美味しさがある事から、一部ではパン種による製パンが残されてきたのと共に、パン種の微生物に関する研究が続けられてきたのでした。

その結果、特殊な美味しさのパンが得られるパン種には、酵母の他に乳酸菌が多数増殖しているのが一般的である事が知られていますし、酵母や乳酸菌以外の微生物も混在している場合が多いと考えられています。

そのようにして、より個性的な美味しさを求めるという意味で、自家培養したパン種を使ってきた歴史があり、今現在のいわゆる天然酵母と言われている自家製酵母作りというのは、今に始まった事ではないのです。

そしてそれは本来ならば、乳酸菌を代表とする微生物の働きにより、複雑な味わいをもたらしたいが為に取られてきた手法であり、身体に優しいとか安心であるというような事が目的のものではありませんでした。

残念ながら今現在に至っては、天然酵母も食品添加物も包装技術も、すべてが同じ土俵で見られているのが実情です。

そこにプラス、消費者それぞれの安全性への考え方、そして製造者の考え方が入り乱れて、基準というものは定めようがない世界になっています。

何が身体に良くて、何が悪いのかに至っては、まさに自分がどこで納得するか・・・・・それしかありません。

大手は不安で、焼き立てパン屋は安心という話を良く耳にするのですが、もしかしたらそれはまったく逆かもしれません。

ただし、真実は自分で確かめていただくしかない・・・・・という事になりますが。

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