ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

納得できない正解・・・・も時にはある

以前にこのような画像を紹介したと思います。


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このパンは、多少の砂糖と油脂を含むいわゆるソフトフランスパンなのですが、ご覧のように割れないクープもあれば裂けてしまっているものもあるという状態なのでした。

オーブンはラックオーブンというラックごと焼くタイプの大型のもので、日頃はフランスパン専用窯か、あるいは性能の良い平釜でフランスパンを焼いている私としては、ごく単純にこのオーブンではキレイなフランスパンは焼けないだろうと感じていました。

この画像のパン5本は、同じ天板で横に5本並んで焼かれているものなのですが、クープの開き具合だけではなく、焼き色や表皮の状態にいたるまで全く別の焼け方になっているのがわかります。

クープの仕方がメチャクチャであることは勿論そうなのですが、ここまで顔の違うパンに焼けてしまうというのは、正直びっくりしました。

簡単に言ってしまえば、蒸気の質が悪いということと、熱伝導が悪すぎるということに尽きるわけですが、だからと言って全てのパンがおかしく焼けるわけでもないのでした。

菓子パンやラスク、そして同じくハード系の小物なども焼いてみたのですが、これだけ温度帯の違うパンを焼いても、そこそこの完成度があるのです。

しかも、上部と下部、そして外側と内側などでも、若干の焼きムラはあるにしても、想定内の結果で焼けるのでした。

一本420グラムのこのフランスパンは、大きすぎて間隔が狭くなり、上手く熱が伝わらないのではないか・・・というのが先方の結論のようでしたが、上手く焼けるパンがある以上、何らかの手立てはありそうだということで解決のお手伝いをすることになったわけです。

パンの完成度には、ある条件がありました。

それは、パンの高さと長さを揃えたいということです。

どういう事かといいますと、ほとんどのパンが焼成後にこの画像のように中央部がへこんでしまうからでした。

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横から見たところですが、中央部が激しく沈み込んでしまっていて、しかも下部側面が激しく裂けてしまっています。

成形はけしてうまいとは言えないものの、ほぼ太さも長さも合格でしたので、中央部のみここまで沈んでしまうというのは、恐らくはやはり中央部に火が届きにくいのでないかと考えたりしました。

また、まったくクープが開かずに表面がテカテカになっているものの隣りにあるパンなのに、このように裂けまくっているというものも数多く出来てしまいます。

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「・・・ということは、蒸気も全体に行き渡っていないということか・・・・」
と思いきや、段によっては中心部の方が蒸気のかかり過ぎの状態のものがあったりして、けして行き渡っていないというわけでもないという、なんとも不可思議な焼け方になっていたのでした。

とにもかくにも、他の小物パンはほぼうまく焼けているということは、このフランスパンの大きさと重さ、そしてスチームを必要とするという点がネックになっていることは間違い無さそうでした。

もともとこのフランスパンは、配合と製法を指導して欲しいという依頼を受けて私が提供したもので、二日間限定ということで指導を行った経緯があり、その後数年間はうまくいっているものと思っていたのですが、売り先が多くなり、今のままの状態では量産するのに躊躇してしまうということで、再度依頼があったのでした。

担当者も当時とは違っていたりして、作り方もややアレンジされていたりという状況で、しかしながらもっと生産量を上げたいという完成度待ちの状況の中での依頼に、「乗りかかった船を途中で降りるのも・・・」という思いもあり、とにかくチャレンジしてみようということになったのでした。

指導した当時とは比べ物にならないくらいの量を作っている現在では、やはりミキシングや発酵時間についてツッコミどころは沢山ありましたが、それらは今回のこの画像のようなパンになってしまう直接原因と言えるものではありません。

色々と細部に渡って一通り見直しながら作ったとしても、結局最後には画像のようなパンになってしまうのでした。

「クープはこうしなければいけない・・・・」そんな指導をしながらも、私のクープしたパンの方が裂けてしまうと言うことも何度かあり、「これは今までの基本は全く通用しないな・・・」ということを思い知らされるのでした。

以下簡単にその経緯をまとめてみました。


小麦粉の割合を変えてみる・・・

2種類の小麦粉をブレンドして作っており、一つは強い小麦粉でもう一つは力は弱いが風味が良いものを使っていましたので、強い小麦粉の割合を増やしてみたが駄目、ならばと逆に弱い方を増やしてみても全く効果なし・・・・

ミキシングを見直してみる・・・

もともとあまり捏ねない派の私でしたが、焼成後に落ちるというのはやはりコシ持ちが悪いからではないかということで、あえてある程度しっかり捏ねてみたところ、とてもボリュームがあり表面の滑らかさが際立ってきていて成形も行いやすく、これはどうやら行けそうだとウキウキしながら焼成するも、やはり残り10分というところでどんどん沈んでいくのが見えて結果は撃沈・・・

バイタルグルテンを添加してみる・・・

小麦粉だけは変えたくないということで、ならば味に影響がなくボリュームを出すにはということで小麦グルテンを添加するも、しっかりと窯の中で伸びた分、落ち方も激しくなり撃沈・・・

イースト量、改良材の変更及び量の調整・・・

オーブンで伸びすぎてしまうから自らを支えきれずに落ちてしまうのではないか・・・そんな考えから様々調整するも、発酵時間には影響を及ぼすものの、完成品に違いはみられず撃沈・・・

天板を変えてみる・・・

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このような細長い、円形にくぼんだ天板を使っていましたので、ある一定の大きさに膨らんだ後下部がはみ出してしまい、そこが裂けることでコシが落ちてしまうのではないかと考え、フラットの天板で焼いてみた所、若干の下部の裂けは解消したものの、やはり落ちてしまい撃沈・・・

その後もベンチタイムを調整してみたり、ホイロの温度や湿度を変えてみたりと、細かい部分にまで目を向けてみましたが、やはり最終的には非常に不安定で、しかもどうしても落ちてしまうのでした。

「これはどうやら何をやっても駄目だな・・・」

そもそも上記の画像のようにパンの間隔が狭すぎて、しかもこのパンよりも遥かに太くて長いパンなので、どう考えてもこのオーブンでは無理なのではないか・・・

そんな思いがよぎりながらも、「しかし何か手があるような気がする・・・」そんな漠然とした思いだけがあり、今まで行ってきたこととは全く違う視点で見てみようと考え直しました。

「こりゃ焼き方だな・・・」

こうなったら色々と焼き方を変えてみようということになり、それ以後も数十回に及ぶ調整を試みてみました。

スタートの温度を高くする、あるいは低くする・・・

高温で焼くことでパンの骨格を早めに形成し、コシ落ちを防止できるのではないか、また弱めにスタートすることでクープが裂けるという現象や、下部が裂けるという現象が減るのではないか、また
焼成温度を途中で変えてみたりしましたが、すぐに下げたり上げたりすることは難しく、いずれの場合も最終製品にさほど違いは見られず撃沈・・・

前蒸気をかけて室内の気流を安定させておく・・・

あらかじめ蒸気をふんだんにオーブン内に充満させておき、一気に生地を投入することでクープが安定して滑らかに伸びていくのではないかと考えましたが、さほど変化は見られず撃沈・・・

後半はダンパーを使って蒸気を逃がす・・・

ならばと庫内の蒸気を逃しながら焼くことで、クラストに火が入りやすくなり、コシ持ちが良くなるのではないかと考えましたが、あえなく撃沈・・・

フラットの天板を使い、製造能力は落ちるが横4本で焼成・・・

そもそも火の通りが悪いからいけない訳なので、基本に立ち返りとりあえず4本、次には3本で焼成するも、下部の裂けは改善されたが、やはり焼成後には落ちてしまい撃沈・・・

蒸気の量を色々と変えてみる・・・

少なめにスターすると裂けるものが多くなり、多めにスタートすると全く開かないものが多くなり、途中でスチームを追加してみたり、焼き上がり5分ほど前にも入れてみたりと、ありとあらゆる入れ方を試みるも撃沈・・・

そんな中、かなり大量に仕込まなければならなかった日があり、最終製品はすっかりホイロオーバーとなってしまったために、「これはスチームをかなり多くして、膨らみ過ぎを抑えなければ・・・」そう考えていつもの3倍量を入れたときのことでした。

「お・・・おおおおっ・・・」

なんと完成度が上がっているではありませんか・・・

コシ落ちしているものもあるものの、元気なものも多数あるという偶然に出会ったのでした。

「ヒントはやはりスチームの量とタイミングか・・・」

このスチーム3倍というのを通常のホイロの大きさの時に試しましたが、全てのクープが開きませんでした。

という事は、生地の力加減に応じてスチームの量を調整しないと行けないということで、当然のことながらホイロの状態が同じになるように一度に捏ねる量を減らして、均一なホイロ後状態のなかで様々なスチーム量と、その回数とタイミングを試みました。

そして長きに渡って苦しませてもらったこのオーブンで、ようやくこんなパンが焼けるようになったのでした。

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安定的に高さが出て、しかもコシ落ちがなくなっています。


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そしてクープもすべての場所で安定的に開くようになり、艶もきれいに出るようになりました。

全てのパンが完全にという訳にはいきませんが、ほぼ90%はこのように焼けるようになったのでした。

日頃は人の手、そして取り組む姿勢や基本というものを大切にパンを作っているつもりでしたが、今回はこのオーブンで、このレシピと原材料でという限定の中でのチャレンジでしたので、逆に今までの経験が邪魔をしていた部分も多々あり、かなりの時間を要したように感じています。

正直「新しいオーブン買えよ~^^;」そう思っていましたので、とても勉強になりました。

一日に10回位焼いても、全てが駄目なんて日がずっと続き、私でなければもっと早く改善できる人がいるかもしれないとか、一緒に作業をしてくれたスタッフの目からは ”無理無理” みたいなオーラを感じ、正直毎回心が折れていましたが、やはり最後に力になるのは、「このパンを買った人はどう思うだろう」ということでした。

”なんだこれは” とか ”まずそう” だときっと思うよな~

そう思うと何故か力が湧いてくるのでした・・・

「期待には答えたい」それが最後の砦なんだなと実感した次第です。


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