ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

成形がうまくなるためのポイントとは・・・

手作りだからこそできる ”技” というものがあります。


機械では出来ないような複雑な成形は勿論ですが、もっともっと重要なことがあります。

それは、手でしかパン生地の状態を把握することは出来ないということです。

パン生地というのは、時間と同じで状態が刻一刻と変化していきます。

その変化を手の平で感知して、生地の状態に合わせた最善の成形を行うことが出来るかどうか、そこに美しい成形のヒントが隠されているのです。

長い間この仕事に従事してまいりましたが、いつもいつも、パン作りの工程の中で何が一番重要で、かつ何が一番美しいパンづくりのために必要なことなのかを考えさせられてきました。

言い方を変えれば、どの仕事なら他人に任せられるか、どの仕事なら自分にしか出来ないのかということと常に葛藤してきました。

パン作りはチームで行うことが多いはずですので、すべてを自分が行うことはまずできません。

ですので、必ず信頼できるチームメイトにその工程を預けるわけですが、どうしても完全に同じものを全てのスタッフが作るということは出来ませんでした。

それでも、”捏ねる” や ”焼く” という工程は、ほぼ任せても安心していられると感じてきましたが、成形に関してだけは確実に一人ひとり、誰がやっても同じものはできないと感じてきました。

それはなぜか、それはそれだけパン生地の取扱方次第で品質が変化するという、製パン最大の難関だからなのです。

よく戴く質問の中に、「ベンチタイムはどの位の時間とるべきなのでしょうか?」というものがあります。

実はこれはど答えにくく、これほど核心をついている質問は他にはないと私は思うのです。

なぜなら、「ベンチタイムを制するものは成形を制する」

そう感じているからです。

どういう事かといいますと、例えばパン屋さんでは小麦粉約5キログラム位の生地は平均して捏ねているはずです。

そうなりますと、第一発酵を終えて分割に入る時、はじめに分割して丸めた生地と、途中の生地と、最後に丸めた生地との時間差はどれくらいあると思いますか?

(このブログを見てくださっている方の多くは、ホームベーキングの方が多いと思いますので、ピンと来ない話が多いと思いますが、是非想像しながらお付き合い頂きたいと思います)

小さな分割重量で、しかも一人で行う作業であれば、普通に20分以上は経過してしまいますよね。

さて、質問をされる方というのは、いったいこの生地達のどの生地に対して休ませる時間を聞いているのでしょうか?

パン屋のレシピには、いや、パン屋でなくてもそうだと思いますが、概ねベンチタイムは20~30分と書かれていることがほとんどだと思います。

しかし実際の作業の中では、誰もタイマーなどを使ってその時間を測っているパン屋さんはいないはずです。

これは、いろいろな作業が混在しているからでもありますし、生地の状態を確認しながら、いわゆる職人の勘というやつで行うことが当然のように行われているはずなのです。

つまり、パン屋の仕事の中には、ベンチタイムという時間は実際には存在しておらず、時には生地の状態に合わせて、時には希望焼成時間に合わせて、時には職人の都合や好みに合わせて行っている訳です。

ということで、現実には分割してから1時間経過しても次の作業に入れない時があったり、ベンチタイムをすっ飛ばしていきなり成形・・・なんてことも多々あるわけです。

それはそれは大忙しのパン屋さんの現場ですから、それはもう致し方ない・・・・という方々を私はたくさんたくさん見て参りました。

しかし、そのような現場ほど ”なぜ品質が安定しないのだろう・・・” と悩んでいたりするものなのです。

おかしいですよね、確かに職人の勘はとても大切ですし、手作りならではの技術もメチャメチャ必要でしょうし、毎日同じ時間に焼き上げなければならないことも重要かもしれませんが、何か勘違いされているように思うのです。

それは、”パン作りは科学だ” ということですね。

どんなに作り手があせっても、パンは早く膨らんではくれませんし、遅刻したのに同じ時間に焼き上げるなどということは普通では出来ない話です。

しかし、そこにはおかしな論理が働いてしまい、イーストをちょっと増やしてみたり、捏上温度を上げてみたりと、なんとしても帳尻を合わせようとすることになる訳です。

そのようにして、やはり人が作る手作りなのですから、どうしてもある程度の人為的都合というものが介入してしまうことが多く、毎日同じ品質というのは、限りなく遠い世界のことになってしまうのです。

こうなるともう冷凍生地とか大手の機械生産のパンの方が、よほど安定した、安心して食べられるパンであるということになってしまうでしょう。

上手に成形して、毎日同じ品質のパンをお客様に提供する・・・ということの前に、人為的なミスなどが介入することを出来るだけ防ぐ心がけ、そしてごまかしのない製造職としての考え方をもたなければこの仕事は出来ないのではないかと思うのです。

上手な成形の方法というのもを、手取り足取り、何日も何日も目の前で行っていても、まったくうまく出来ない方が多くいます。

明らかに器用そうであったり、料理が上手であったり、それこそフレンチのシェフであったり、学校の先生であったりと、思い起こせばそれはそれはいろいろな職業や年齢の方に成形を手解きしてきましたが、”美しい” と言えるような成形を出来るようになった方というのはごくごくわずかでした。

言っておきますが、美しい成形が出来なくても、パンがまずくなるわけではありません。

ですので、売れてるお店のパン職人は皆成形が上手で、あまり売れてい無さそうなお店の職人は成形が下手・・・・ということではないのです。

「な~んだ、ならばそんなに気にするような技術ではないのか・・・」

そうお感じの方もいるでしょうし、そうでなければご家庭のパンは皆美味しくないパンになってしまいますよね。(ご家庭でもプロ並みの成形ができるという方には失礼な例えで恐縮です^^; )

ならば、いつ買いに行っても同じような品質で、揃った大きさや焼き色で迎えてくれるパン達があるお店と、黒白様々な焼き色であったり、大小が激しく一生懸命に選んでしまうようなお店と、あなたならどちらに買いに行きたいでしょう、そしてどちらの職人になりたいでしょう。

先程、人為的なミスと言う言葉を使いましたが、毎日確実に同じ生地状態のパンを捏ねることはとても難しく、配合間違いをしてしまうことだってあります。

作る数が毎日違う場合には特にですが、急に多くの注文が入った時や、急に欠員が出たなんてこともある訳ですから、パン屋さんの毎日は変化の毎日です。

そしてそんななか、パン生地も捏ねられ方や捏ねた量の違い、そして季節や天候などによってもその状態は日々違います。

それらを一瞬で見抜き、その後の工程を組み立てていくことが出来るかどうかという ”センス” は、生地の肌を見て触れて察知出来る人にしか出来ない技なのです。

成形が上手か下手かというのは、単に形がうまく出来るかどうかということとは少しばかり違っていて、最高の状態で焼き上がるように生地にあった形作りと状態の形成を行えたのかどうかということなのです。

少しややこしいかもしれませんが、成形を文面にする為に様々な表現でお伝えしたいと思っていますので、どうか着いてきてくださいね。

パン生地を伸ばすという行為は成形の中でも非常に多い行為だと思います。

パン生地にあまり触れたことがない人は、ひたすら横に引っ張ったりしますが、当然ながらパン生地は戻ろうとして短くなってしまいますよね。

パン生地を伸ばす場合には、引っ張るということは絶対にタブーで、細くするというのが正解になります。

細くなればなるほど、生地は横に伸びていくことになるわけですが、問題はこの ”細くする” という行為を行う際に、生地にハリがあるかないかということがとても重要になるのです。

様々な編み方をする成形がありますが、例えば同じように編んだとしても、ハリがある伸ばし方が出来ていればボリュームがでますが、生地をいじりすぎてダレてしまっていると、全くボリュームの出ないパンになります。

もっとひどい場合は、生地切れが発生していて、肌の荒れた艶のないパンになります。

例えばそれがバゲットであったとしたら、ハリがなければクープは綺麗に開きませんし、キメもバラバラですし、表皮は荒れてガサガサになるでしょう。

そう考えますと、伸ばし方一つでかなり違ったパンが完成してしまうようなイメージは持っていただけますよね。

せっかく最高に美味しくなるレシピと原材料が手に入っても、せっかく手作りしたにもかかわらず、最悪の結果を自分の手が産んでいたなんて考えたくもありませんよね。

しかし現実には、殆どの場合最高の状態とは程遠い伸ばし方しか出来ていないと言えるのです。

「なぜそう言いきれる」 「見たわけでもないのに・・・」 と怒られそうですが、嫌というほど見てきたのです。

そして、それくらい難しいのが成形なのです。

上記で述べましたが、例え50点程度の成形でもできていれば、それなりの美味しさは勿論あります。

そしてそれなりが悪いということではまったくないのです。

そうではなく、せっかく手作りの道にいるのでしたら、やはりパン生地の気持が解るというとおかしな表現かもしれませんが、常に生地の状態を気にし、そしてその生地がもっとも喜ぶ方法で形を作る事ができるのであれば、それにこしたことはないということなのです。

私と同じように長年、この道を続けていらっしゃる方は多いと思います。

しかし、美しい成形を諦めてしまった方というのは、やはりパン生地の取扱が非常に雑であり、単なる仕事としてしか生地と向き合っていないと感じてしまいます。

私個人としては、どうしてもそのように乱雑に作られたパンを食べたいとは思えませんし、雑に扱われている生地を見たくありません。

お母さんが握ったおむすびが何故美味しいのか・・・・

コンビニのおむすびも勿論美味しい、しかしその違いが解る、その違いを表現できるということはとても大切なことなのではないかと思っています。

成形の奥深さをこれからも表現して行きたいと思います。


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