ドーナツ(油で揚げたパン)と焼いたパンの違いは?
今回はこんな質問をご紹介しながら、揚げたパンと焼いたパンの違いについてお話していきたいと思います。
ドーナツについてなんですが、例えばカレードーナツ。以前お世話になっていたパン屋さんでは、揚げ時間が「表一分、裏返して一分」でした。
ですが、焼きカレーパンとなると、十数分焼く必要があります。その他のドーナツも、ツイストは具が無いからか、表一分弱、裏も一分かかりませんでした。
餡ドーナツも焼くより揚げるほうがはるかに加熱時間が短いです。
そのお店で仕込みをしていないので詳しい生地の内容は解らないのですが、ドーナツ生地が特に火通りが早い配合とかなんでしょうか?
本屋さんで売られている本のレシピを見ても、ドーナツ生地が特殊とは考えられないようなので、オーブンで火を通すより、油で揚げるという方法が遥かに火通りが早いということで、生地自体が特別火通りが良いというわけではないのでしょうか?
ちなみに、火通りが早いパン生地ってあるのでしょうか?
素晴らしい質問ありがとうございました。
そもそもドーナツ専用の生地とはどういうものなのでしょうか?
今回も私の友人のベーカーに登場してもらいます。
私 「ドーナツの生地で作ったカレーパンを、オーブンで焼いたらどうなると思う?」
友人 「ドーナツの生地は揚げるパン専用だから、焼いたらうまくいかないんじゃない?」
私 「だったら、バターロールの生地にカレーを詰めて揚げたら、うまくいかないの?」
友人 「そ、そりゃ駄目でしょう・・・・・たぶん???」
私 「どうして?」
友人 「さあ????」
とまあこんなもんですよ現実は・・・ハハハハハ(^_^;)
ではまず結論から。
ドーナツ生地も焼き物用の生地も、なんの違いもありません。
ですから、どのような生地を焼こうと揚げようと、すべてOKです。
ただし、当然のことながら、その配合によっては揚げたほうが最適なパンになるものと、あくまで焼いた方が最適になるものがあることは確かです。
では、揚げパンに向いている配合とは、どのようなものなのでしょうか?
これには特に決まりはありませんので、あくまで参考としてご理解下さい。
まずは強い小麦粉を使った配合には揚げパンは向いていません。
これは、揚げている最中に大きく伸び過ぎて、中に空洞が出来てしまうからです。
ドーナツに向いている小麦粉とは、薄力粉を3割から4割ブレンドさせた、力の弱い粉にするべきなのです。
力の弱い小麦粉と言っても、通常の強力粉70%と薄力粉30%というようにブレンドすればよいと言う意味ですよ!
そして、適度に油脂を含んでいないと、見た目の綺麗なソフトなドーナツにはなりません。
ですから、極端な話、まったく油脂を含まないフランスパンを油で揚げても、表面がガリガリのせんべいのようになってしまうでしょう。
もちろんそのような商品を作ろうとして意図的に行うのであれば何の問題もありません。
さらに、美味しくない訳でも無いと思います。
ただし、均等な形にはするのは至難の業だと思いますが(^_^;)
ドーナツに向いている生地というのは、
窯伸びし過ぎない、適度に油脂を含む生地
と言えると思います。
一般的なドーナツ専用生地の小麦粉のブレンド比率は、
皆様お馴染のフレンチクルーラーや、ケーキドーナツと言われている、いわゆるオールドファッションドーナツなどでは、強力粉ではなく全てが薄力粉です。
あんドーナツやカレーパンなどのイーストドーナツでは強力粉60%薄力粉40%の6対4程度です。
油脂は、ケーキドーナツで30%から40%程度。
イーストドーナツでは5%から15%程度だと思います。
また、質問の最後に火通りの早いパン生地はあるかとの事でしたが、この場合の考え方は揚げパンも焼きパンも同じです。
砂糖が多ければ色付きが早く、少なければ色が着きにくい。
つまり、砂糖の配合量によって大きく変わるものと言えると思います。
しかしこれは、色付きであって火通りではありませんね!
今回の質問の深い所は、カレーパンはどうして揚げる時間が焼く場合に比べて短く済むのか?という、一見解りそうで以外に解っていない核心に触れている所なのです。
では、そのあたりのメカニズムにせまりましょう!
どの家庭にも必ずと言っていいほど置いてあるであろう
オーブントースター
これを加熱して200℃あたりまで持っていき、蓋をあけて手をさっと入れます。
い~ち・に~い・さ~ん ダー ではなく(^_^;)
数秒入れてサッと出します。
どうですか、2~3秒でやけどしましたか???
200℃と言えば、すごい熱いはずですよね!
それでは今度は170℃というオーブンよりは低い温度ですが、油の中に手を・・・・
いやいや冗談ですよ!!
油の中に手を入れたら、一秒もたたないうちにおおやけどでしょう。
と言う事で、勘のいい皆様ならもうお解りですね!!
200℃という乾燥した空気の中では、生地に熱が届くまでには時間がかかるのです。
しかし、液体に直に触れると、その瞬間170℃に触れることになるのです。
オーブンの中では、生地は比較的ゆっくりとじんわりと熱が伝わることで、その間にゆっくりと窯伸びして行きます。
ところが、揚げパンの方は30℃に満たない温度の生地が、いきなり170℃の海に投げ出され、表面がやけどをしてしまうのに、そう時間がかからないということなのです。
お解りですか(^_^;)
さらに、先ほどの ”火通り”に関しては、こうです。
オーブンの中でパン生地はゆっくり熱をあびながら、少しずつ大きくなっていきます。
つまり、常に動いているのです。
動いている物は、なかなか色が着きません。
じっとしている方が色が付くのはお解りですよね。
そもそも表面が固まって動かなくなる事で焼き色が付いてくる訳ですが、オーブンの生地はゆっくりと伸び続けて動いている為に、固まるまでの数分間は色は付きません。
他方、170℃の熱地獄で泳いでいるドーナツ生地は、すぐに表面がやけどして固まってしまう為に、数十秒で動けなくなります。
すると、あっという間に色が付いてしまう・・・と言う事なのです。
そして、表面だけではありませんよ!
油は生地に染み込んでいき、表面近くの内面にまで油が染み込んでいきます。
そのように、全体を170℃の脂が包み込むように染み込みながらパン生地に熱を伝えるので、ゆっくりと焼かれているオーブンのパンとは完成時間が異なると言う訳なのです。
私も若かりし頃、はじめてこの問題に直面した時の事を思い出しました。
実に懐かしい・・・・
お解り頂けましたか(*^_^*)
このように、一見当たり前の様な事が、実は以外に解っていなかった
な~んてこと、周りを見渡すとたくさんありますよ。
このような事が気になる人。
そう言う人を、問題意識の強い人と言います。
”常に問題意識を持ち、なすべき事を知り、それを成し遂げる根性をもて”
私の原点とも言うべき懐かしい言葉です。
そうそう、最後に少しだけ付け加えますが、
ドーナツ生地は、ご紹介の通り短時間で完成してしまいます。
ですから、しっかり火を通さないとならない具材は避けた方がよいでしょう。
また、生地に対して具材を大量に入れる、いわゆる具だくさんの場合、具の中心部に熱が入りにくくなるのでお勧め出来ません。
それ以外の注意点は、また次回に・・・