ベーカリーアドバイザーの部屋

難解な製パン理論を、楽しく解説。 どうして??と思ったらのぞいてみて下さい

成形・・・とは、時間との戦いである。

成形・・・というものを文面にするのは、とても難しいことです。


何が一番難しいかといいますと、書いている私が言いたいことはひとつなのですが、読み手の方の受け取り方は様々であるということなのです。

「いや、そういうことなのではなく ^^;・・・・」

というように、違った解釈をされる方がどうしても多くなってしまう。

だからこそ、今まではあまり触れることなくいた訳ですが、結局のところ質問をしてくださる方々というのは具体的にご自分のパンのどこがいけないのか、そしてどうすれば少しづつでも改善されていくのかを知りたがっている訳ですから、そうなるともう ”成形” というものに触れずに置くことはかえって難しく、少しでもヒントを与えることが出来るならという観点から、解りづらいかもしれませんが紹介していこうと考えた次第です。

そして、もうひとつ難しいと感じていることがあります。

それは、いつも記事を書くときには、どのような方が読まれているかを多少意識しながら書いていくのですが、このような技術的な内容の場合、ホームベーキングの方とパン屋さんとでは、まったくお伝えすることが違ってきてしまうという点です。

タイトルに書きましたが、成形というのは時間との戦いです。

しかしそれは、数をたくさん作るパン屋さんではそうであっても、ご家庭での3~6個のパンづくりには当てはまらないでしょう。

ホームベーキングの方からの相談には、必ずと言ってよいほどこう書かれています。

「どうしたら売られているパンのようになるのでしょうか・・・・」

それはそうですよね、最終的にはパン屋さんのような専門的な出来栄えに憧れるのは当然ですよね。

そんな、一球入魂ならぬ一個入魂、一種入魂のホームベーキングの方々にも、出来る限り解りやすくをモットーとしてパンについて解説してきたわけですが、成形というものを語る時には、どうしてもパン屋さん主体の目線で語らないと伝わらないことがあると感じています。

なぜなら、パンというのはゆっくりじっくり時間を掛けて少量を作るのであれば、そう難しいものではないからです。

完成度がどうであるとか、焼き回数がどうであるとか言われることもなく、ましてや一個何分で成形できたかなどということを問われることもない、楽しみに満ちた時間を過ごすことが出来る。

まさにパン教室などがそうですよね。

それが、パン屋さんのように何十個・何百個、そして40種類・80種類・120種類となっていき、されにはそれが制限時間付きだからこそ難しいものへと変わっていってしまうのです。

完成したパンが商品として扱われることになった時、そこにはもう作り手の楽しみだけでは抱えきれないほどの難解な製パン理論がつきまとうことになる訳です。

つまり、成形が時間との戦いだと実感する瞬間ですね。

ですので、どうしてもパン屋さん目線でお伝えすることが多くなりますが、お付き合いいただければと願います。

一つ一つのパンに対する成形を考えていく前に、まずはパン生地全般の取扱について書いておきたいと思います。

パン屋さんにとってはしごく当たり前のことになるわけですが、改めてこのことだけは念頭に置くことを忘れないで頂きたい。

それは、「発酵は緩やかなミキシングである」 ということと、「温度管理で時間をコントロールする」ということです。

パン生地を成形するという行為において、常に意識しておかなければならないパン生地特有の理想的な完成度というものがあります。

それは、適度な ”コシ” の入った成形を行うということです。

この ”コシ” という言葉はやや古い表現かもしれませんが、これ以上に的を得た表現もまたないかもしれませんね。

パンがふっくらと膨らんでいくためには、コシの入ったハリのある生地でないといけないわけですが、これが入りすぎてしまうと膨らみが過多になり、味気ないパンづくりに貢献することになってしまいますし、逆にコシが入っていないと膨らみの悪いパンとなり、表皮は暑くなり硬いパンづくりに貢献してしまうことになります。

また、このどちらに傾くにせよ、生地切れを起こすような扱いをしてしまうと、更にボリュームダウンやコシ割れに貢献することになり、結論として今一つの出来栄えにつながるわけですね。

成形という観点から生地の取り扱いを考える時、いかに成形しやすい状態で生地を待機させることが出来るかというのがポイントとなります。

成形と言っても、ただ単に丸めるだけの成形でしたらそう難しい問題では無いはずですが、これが伸ばす場合や編む場合、そして包む場合などに対しては、それなりの注意が必要となりますよね。

なぜなら、ただ丸めるだけなら短時間で終了しますが、手間がかかればかかるほど時間が経過するわけですから、初めの方と後の方とではかなり生地の状態が違ってきているはずですので、よほど成形の仕方に工夫を加えない限り、前半成形のパンはボリュームがなく、後半成形のものは発酵過多になるわけです。

この場合の工夫というのは、後半の生地になればなるほど発酵が進んでプリプリした生地になりますので、弱めの取扱で生地にダメージを与えないようにすることが大切ですよね。

また、その数によってはどうしても時間がかかりすぎると判断できるようでしたら、あらかじめ分割後に冷蔵庫へ入れておくことで、発酵をスローダウンさせることが出来、順次冷蔵庫から出して成形することで、すべてを同じ状態で成形することが出来るようになります。

この時、せっかく適切な捏上温度と発酵時間を守ってきたのに、生地を冷蔵庫へなど入れてしまったら冷えてフィッシュアイが出てしまうのではないかと思う方もいるでしょう。

もちろん、生地そのものに初めから元気がないとか、極端に捏ねがたりていないとか、すでに発酵時間が大幅に過ぎてしまっているような、ようするにこの段階まで理想的な状態を保てていないような生地の場合には当然そうなる危険性はあります。

しかしパン生地というものは、この段階までほぼ順調にクリヤー出来てさえいれば、その後は数時間、あるいは数日の冷蔵保存に耐えることが出来たり、あるいは配合によっては冷凍にも耐えることが出来るものなのです。

どのような配合のどのような状態の生地が、どれほどの時間の冷蔵、あるいは冷凍に耐えることが出来るのかは、ここで触れると時間がかかり過ぎてしまうために触れませんが、パン屋さんというのはご自分のお店の生地を、時には冷蔵庫で保存してみて、そしてそれを成形してみてどのようなパンになるか、更に少しばかり冷凍してみてもっと発酵時間を後半へコントロールしてみたりと、日々様々な手法を使って試されながら掴んでおられることでしょう。

そして、ほぼ掴んではいるものの、それでもたまに元気がなくなってしまう、あるいはフィッシュアイに悩まされてしまうという事で相談が寄せられるといったケースとなるのです。

全く同じ配合と、均一な生地状態が保てているにも関わらず、時々出てきてくれるのがフィッシュアイであるとも言うことが出来るくらい、気まぐれなものであることも事実なのですが、そこはやはり冷静に、かつ理論的に突き詰めていくことで、大抵の場合は解決方法を導けるものではあります。

ホームベーキングでは、それこそ ”なにそれ” と言いたくなるような、見たこともない現象かもしれませんが、よ~く見ると意外とホームベーキングのパンでも ”ボツボツとした小さな気泡” みたいなものが出ていて、「これがサブイボなのか、それとも梨肌なのか???・・・」というお肌をしたパンが出来上がっていたりするものです。

大まかに言えば、温度の変化があればあるほどパン生地の表皮にそれらが出やすいわけですから、たとえ一旦とは言え冷蔵しないに越したことはないかもしれませんが、成形によってはかなり長く伸ばすものがあったり、あるいは薄く平たくするものがあったりと、そもそも元気すぎる生地では行いづらい成形というものも存在します。

ですので、数が多くてそれらのイーストの活動を少しでも弱めておかないといけないからという理由の他にも、少量であっても少し冷やしたほうが綺麗に成形を行うことが出来るからという理由もあるのです。

そのようにして、時には弱めに冷やしたり、時には冷凍ギリギリくらいまでしっかり冷やしてパン生地のコシをしっかり抜いてから成形を行うことによって、本来なら切れていたかもしれないグルテンが切れることなく完成したり、スムースに薄く伸ばすことが出来たりしますので、この ”一旦冷やして生地を落ち着かせる” という手法はとても理にかなった理想的な手法だといえるのです。

これがすなわち 「温度管理で時間をコントロールする」ということにつながる訳ですね。

では、もう一つの「発酵は緩やかなミキシングである」ということの意味を、もう少し詳しく解説しておきましょう。

そもそも、発酵するということは時間が経過するということと同じですから、それをコントロールするためには冷蔵したり冷凍したりという温度の管理が必要なのだということは解ると思うのですが、なぜそれがミキシングなのか???・・・と言いたくなりますよね。

発酵は緩やかなミキシングであるという表現は、実は私個人が修行時代に実感した表現方法なのであって、製パン専門用語などではないのです。

ただ、私はこの表現に出会うことによって ”成形の本質” というものを理解することが出来ましたし、この表現を理解することで、パンを捏ねる意味であるとか、どのように窯伸びしたパンが良いパンなのか・・・というような、成形だけにとどまらない、パン作りの全体像がつかめるようになりました。

それまでは、生地を冷蔵庫へ入れれば冷え、冷凍庫へ入れれば更に冷え、凍れば固くなって成形しずらくなるから一度冷蔵に戻し・・・というような、「どうして??」ではなくそのように指示されたから行っていたにすぎませんでした。

冷蔵すると冷気によって表面が乾燥したり、生地と生地の間隔が狭いと中央部ばかりが膨らんでしまったりと、「やりづらいな・・・・」と感じたりはしていましたが、”なぜそうなのか” という意味にたどり着くことはありませんでした。

乾燥を防ぐためにビニールをかけると、冷蔵庫の中でビニールが暴れているのがなんか笑えて、ビニールが取れてしまった部分だけがカピカピになっていたりして、それを成形しようとするとツルツルすべって伸ばせなくて、しかたなく霧吹きしたら今度はヌルヌルしてしまって伸ばしづらくて、しかたなく手粉をたくさん撒いたらボソボソになってしまい・・・・みたいなパン作りしか出来なかった私が、この言葉に出会ってからというもの、一切の霧が晴れて雲一つない青空の中を自由に飛んでいるかのごとくスッキリとすべての謎が解けていくのを感じました。

直訳すれば、発酵するということはゆっくりと捏ねているようなものですよということになるでしょうか??

という事は、冷蔵したりして生地が膨らむスピードを抑えたりするということは、捏ねることを極めて弱くすることにもなる訳ですから、捏ねすぎて生地が切れてしまうとか、捏ねられている生地を成形として同時に伸ばしているダブル捏ねみたいな現象も回避できるのではとか、ある程度捏ねに自信がないときでも、その後の発酵時間や成形でそれらを補うことも可能なのでは・・・・というように、次から次へと謎が解けていくことが楽しくて、それからはすっかり小さい子供のように「なんで、なんで・・・」とすべて理解できないと納得できないという面倒くさい人間になってしまったのでした(*^^*)

そもそもなぜ時間の経過が捏ねにつながるのだろうと考えた時に、「そう言えば捏ね上がった生地が醗酵後には少し温度が上がっていたな」ということに気づき、「それは内部で摩擦がおきているから温度が上がるのではないか」と感じ、「ミキシングというのは摩擦なのか???」と感じ、「ならば成形するというのはかなりの摩擦だから、生地がここで切れてしまっているのかもしれない」と感じ、「このプリプリとした弾力がパンのコシなら、冷蔵してプリプリ感が落ち着いた感じになるのは冷やすことでイーストの活動が弱くなるからか」みたいな発想がよぎり、「イーストの活動と捏ねるということは関係があるのか??」というように全ての関連性が少しずつ見えてくると、成形という形を作るという行為が、実は形を作るためだけにあるのではなく、ここでそれまでの生地状態を修正することも出来るし、その後の完成度をあげることもここで出来るのではないか、いやむしろ成形がすべてを握っているのかもしれないとさえ思えたのでした。

もしそうならば、パンを最高の状態に焼き上げることが出来る人というのは、生地の取り扱いを熟知していて、生地に触れただけでその状態が解る人なのではないか・・・・

そう思えた時に、「なんてかっこいいんだ\(^o^)/」と思ったものでした。

成形や分割がとても手早く、そして綺麗に行える人はもちろんたくさんいらっしゃいます。

しかし、その役割、その本質というものを理解して行っているかどうかによって、単なる手技で終わってしまうのか、あらゆるパンを最高の状態に仕上げることが出来る自分をかっこいいと思えているかどうかの差が出てしまうような気がします。

発酵は緩やかなミキシングである・・・・・どうか皆様にも伝わるといいなと祈っています。